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文字数 980文字

 振り向くと僕の後ろのドアから、白い蝋の塊が歩いてくる。この声は……死んだはずの岡さん?

 顔面や身体についた蝋をパキパキと取りながら、岡さんは僕に近づく。目を見開いていると、せいくんが説明した。

「あれは低温ロウソクだったんだ。さすがに身体中にぶっかければ熱いかもしれないけど、死にはしないよ」

 岡さんは手に何か持っている。これは……僕のものだ。僕の使っていた、居合の試合用の真剣。僕にそれを差し出し、岡さんは言った。

「ナルミチ、麻薬売買の道を絶つなら、俺をこれで殺せ」
「えっ……」

 岡さんの目は真剣だ。覚悟を決めたのか、その場にどかっと座り込む。剣を渡された僕は迷った。岡さんを殺すか、それとも。

 麻薬売買は法律的にもアウトだし、こんな商売していいはずがない。でも、やっぱり僕には人を殺す度胸なんてない。

 ちらりとせいくんを見つめると、にっこり笑った。

「ナルミチさんは殺せませんよね? ずっと自分のことを守ってきた人を」
「守って……? ど、どういうことですか! 岡さん!」
「そのままだろ。会長たちから頼まれてたんだよ。お前の身辺警護もな。会社の人間は信用できねえって」

 ……そうだったのか。その言葉で、僕は決心がついた。弱かった僕は、もう心から消した。僕は、僕自身で踏み台を作っていかないといけないんだ。だから……。
 スッと刀を抜くと、岡さんの首元へそれを突きつける。

「岡さん。いや、銀二。これからは僕の下で働け。これは――新しい会長命令だ」
「ふん、やっと殻からでてきたか。ナルミチ」

「……それで? どうするの? ここでアトラクションは終了だ。生き残ったのはナルミチさん。オレはナルミチさん以外の全員を片付ければ、仕事お終いって話だったんだけど。あー、あと内緒で岡さんも?」

「狩野誠之助、だったっけ。EPIC社の……四菱商事の社長と会長が面会していた相手と話がしたいんだけど。つないでもらえるかな?」

「えぇ!? 会長たちと!? ……一応、バイトをまとめてる人には連絡してみるよ」

 狩野誠之助はスマホを取り出すと、さっそくその上の人と話をつける。通話を切ると、僕に向かって言った。

「今夜18時、ドラゴンキャッスルレストランに来てくれってさ」

 18時か。それまでに銀二の蝋をどうにかしないとだな。僕はとりあえず近くのホテルの一室を借りると、そこで彼を着替えさせた。
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