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文字数 2,096文字

 ――朝。自分の部屋のベッドで目が覚める。
 どういうことだ? 昨日の夜のことは、夢だったとか……。

「そうだ! 正月とありあ!!」

 急いで部屋を出ると、正月とありあも同じタイミングで部屋から飛び出てきた。

「寿、ありあ……」
「よかったぁ~……」

 3人で抱き合うと、ため息をつく。あとは……。

「浄見さん、だよな」

 オレたちは部屋中を探す。だけど、浄見さんはいない。あのあと、オレたちはどうなったんだ? 

「青葉さんところへ行こう。何か知ってるかもしれない」

 平日だけど、オレたちは学校をサボった。一応、補導されないように制服は着ていたけど、探偵事務所に入ってしまえば関係ない。
 ドアを叩くが反応なし。仕方ない。

「青葉さ~ん!! おはようございます!」
「臣ちゃん!! 開けて~!」
「ちっ、面倒だな……」

 オレはこの間みたいに扉を蹴ると、大声で叫んだ。

「青葉!! 開けろ~!!」

「だーっ!! くそうっせぇガキどもだな!! 寝てたっつーのに、叩き起こしやがって……」

「入りますよ~」
「お邪魔しま~す!」

 正月が勝手に事務所に入ると、ありあもちょこちょこ走る。

「お、おいっ!!」
「オレもっ!」
「……はぁ」

 寝起きで頭ボサボサだった青葉さんは仕方ないと言った様子で、ドアを閉めた。

「で? てめぇら、何の用だよ」
「……青葉さんしか知らないと思って。昨日あのあとどうなったのか」

 正月が切り出すと、イスに脚を組んで座っていた青葉さんが面倒くさそうな顔を
する。それでもため息をひとつすると、言った。

「まぁ知りたいわな。当事者なんだから」
「あれは夢じゃなかったんだよね……?」
「当たり前だ」

 ありあがたずねると、うなずく。だったら……。

「昨日、浄見さんはオレらに最後催眠をかけた。あれってなんだったんだろう。かかりにくいはずのオレも、一瞬で……」

「『B-777』か。あれは多分だけど……ありあとてめぇら双子に初めて催眠をかけたときに一緒にかけたもんだ。要するに、術が失敗したとか、暴走したとか、そういうときに、強制シャットダウンさせるための保険だろう」

 強制シャットダウン……。要はオレたちの動きを止める最後の手段だったってことか。

「浄見さんは?」
「ああ、御堂と一緒に逃げたよ。あいつ、何が『恩があるから』だ。バカな女だよな」
「御堂たちはこれからどうするつもりだろう?」

 正月が青葉さんにたずねると、青葉さんはあごに触れた。

「知らねぇ。けど、また同じことをやるかもしれねぇな」
「またわたしたちも狙われる?」
「あり得ねぇことじゃない。けど……もうてめぇらは全員、術にはかからないだろ?」

 ニヤリと笑う青葉さん。オレたちは強くうなずく。

 だけど、他の心配もある。今後の生活のことだ。浄見さんはオレたちに下心ありで近づいてきた。それでも一応親という体裁を取っていたんだ。しかし今、その親がいなくなったら、オレたちは……。

「……今後の心配ならするな」
「え?」
「てめぇらの後見人は、俺だ。寿と正月が退院してしばらくの間と同じようにな」
「じゃあ、わたしも一緒に寿ちゃんと正月ちゃんと暮らせるの?」

「まあな。ありあは人殺しの前科があるけど……あれは組織にコントロールされていたからな。俺たちが言わなきゃバレねぇ」

「ともかくよかった~……」

 安堵のため息をつく正月だったが、青葉さんは厳しいひとことを付け加えた。

「俺が後見人だっつっても、金はいつか返せよ。それと、バイトもしろ。ありあだってこれから金がかかるんだからな」

「わかってるよ!」

 オレが胸を叩いた瞬間、ぐうう~……と情けない音が響く。そうだ、今日は朝から何も食べてない。

「臣ちゃん、お腹すいたぁ」

 ありあが言うと、オレと正月も全力で甘えだす。

「青葉さ~ん……何か作って~」
「俺ら、ドタバタしてて、何も食ってないんです」
「あ~……くそ、そんな子犬みたいな目で見んじゃねぇ。わかったよ、作ってやる」
「やったあ!!」

 そういうと、青葉さんはいつもと同じように腰にエプロンを巻き、冷蔵庫を漁り出す。今日はどんな料理だろう? オレたちは青葉さんの背中を見ながら、わくわくする。

「そう言えば……」
「どうした? 正月」
「いや、今日の青葉さん、俺たちに『帰れ』って言わないなって思って。いつもふたことめには『帰れ』だったのにさ」

 はは、青葉さんはやっぱいい人じゃん。オレたちに家はあるけど、形だけだ。子どもを待ってくれている親はいない。だから……。

「青葉さんって、口の悪さで損してるよな!」
「てめぇら、人が料理作ってやってんのに、何悪口言ってんだよ」
「聞こえた? あはは、ごめん、ごめん!」

 オレは笑って誤魔化す。するとありあがとことこと青葉さんのいるほうへ歩いて行く。

「臣ちゃん! 今日は何を作るの?」
「あん? そーだな……カレーピザだな」
「カレーピザ?」
「おう。ほら、包丁使うから、向かうで待ってろ」

 しばらくすると、カレーの香りがしてきた。でも、カレーライスじゃなくて、『ピザ』なんだよな。一体どんなものができるのか、オレたちは楽しみにしながら大人しく料理ができあがるのを待っていた。
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