1ー2
文字数 2,071文字
「…………」
誰? 縁石の上に立って、今にも海に飛び込みそうじゃん。
ボクは、一度自転車を止めた。どうするつもりだろう。茶色いショートの髪の女性は、手を大きく広げる。まさか……自殺? こんなところで?
GWLの裏ではは多くの人の血が流れている。だけどそれは、ショーとして見せているもので、余計な死は迷惑なだけだ。どうせ死ぬなら、今人員不足のアンダーベースで殺されてくれないかなぁ。そう考えるくらい、ボクの頭は染まっていた。
あっ、落ちる。
ボクは咄嗟に彼女の手を掴んだ。
「Hey! Don't commit suicide here!」
「え……外国の人?」
「なんだ、日本人か。っていうか、それはこっちの台詞だよ。ともかく、ここで自殺しないでって言ってるの! 迷惑! 死ぬならいいところがあるから、そこで死んで!」
「いいところ……?」
黒い肌に茶髪のショートヘアの女性は、首を傾げる。
彼女だいぶ追い込まれてたのかな。ボロボロの穴あき中学ジャージに、古いTシャツ。何年も着ているのか、だいぶくたびれている。
「あなた、『自殺はダメ』とかいうんじゃないんだね」
「え? ボクはただ、ここで犬死して迷惑かけられるなら、ボクらの役に立って死んでもらいたいと思っただけだよ」
女の子――ボクより年上かな?――は不思議そうな顔をする。まぁ、一般的な感性だったら、『自殺はダメ、絶対』って言うんだろうな。
手を引っ張って、彼女を縁石の上から下ろすと、彼女はボクをじっと見つめてこう言った。
「……あなた、このままだと『死ぬ』よ?」
「はぁ?」
ボクは急に言われたひとことにびっくりした。
「いやいや! 死のうとしてたのはそっちだよね?」
「そう……なんだけど、そうじゃなくて。あなたが死にそうだったから。多分、このままだと1か月後に過労死する」
「ボクが?」
心当たりなんてない、と言い切れずに、はぁぁ~っと大きくため息をつく。昨日、いや、今朝の睡眠時間は1時間。食事も固形のものを最後に食べたのって、いつだっけ? ゼリー飲料とスナックバーばっかり食べている。しかもパソコンしながら。
「ボク、そんなに顔色悪い?」
「そうじゃなくて……わかるの、私」
「占い師かなんか?」
「……ただのフリーターだよ」
「ふうん、ただのフリーターねぇ。それがこんな朝早くに自殺?」
「朝だからだよ。朝が来たことに幻滅するの」
「それはボクと一緒だね」
朝が嫌いというわけじゃない。お日様の光を浴びれるし、朝は好き。だけど、徹夜して朝になると、まだ終わらない! っていう焦りが出てくるから嫌なんだよなぁ。
この子はそういう意味じゃないだろうけど、いいや。
「ね、本当に死にたい?」
「うん。もう身寄りもないから」
「ナイスっ! 手っ取り早いや」
思わず手を叩く。ツクモやカナメはユウキさんやヒロアキサンみたいに自分の手を汚さないタイプの人殺しじゃないからなぁ。アルデバランのショーを見ても何も思わなさそう。
アンダーベースのショーの生贄となっているのは、基本GWLのバイトで、何かやらかした人間だけど、今回は違う。ボクが海辺で勝手に『拾った』人間だ。
うっかり痕跡ががっつり残っている人だったりすると面倒くさい。
「でも、一応個人情報は聞かないとね。おねーさん、名前は?」
「リズミ。泉理澄」
「……なんか韻踏んでるね」
「よくからかわれた」
「ま、いいや。ボクはキャット。リズミ……リズでいい?」
「なんでもいいよ。どうせ死ぬんだから。それで? 私はあなたに殺されるの?」
「ボクが殺すんじゃないけど、死んでもらう。ただ、このままじゃアレだなぁ……GWLに入れる格好じゃない」
「GWL? 裏にあるテーマパーク?」
「うん。これからボクと一緒にGWLに行ってもらう。リズの墓場だよ」
「……行ったこと、なかったんだ。あんなに夢や希望のあふれる場所で死ねるなんて……現実なのかな?」
「現実、ゲンジツ!」
リズのこの言葉で、ボクは一瞬EPIC社を受ける前の自分を思い出す。ボクも昔はGWLに行ったことなかったんだよなぁ。今も乗り物とかにはほぼ乗ったことがなく、純粋に楽しんだこともないんだけど。何しろEPIC社はGWLの裏組織だからね。
ともかく、リズはこのままの服装じゃダメだ。さすがにこんな貧乏っちい格好の人間が、GWLにいるなんて『外観を汚す』。ゲストの夢を壊す。
ボクは自分用に作った特製スマホを取り出して、近くのGWL提携ホテルにSMSで連絡する。
『来客が行くから、GWL特製の新作Tシャツとカチューシャ用意しといて! サイズはS……Mかな。胸んとこ足りるかなぁ? あとジーパン? いいや、それで。よろ~』
これでよし。あとはリズを連れていくだけだ。
ツクモとカナメは待たせることになるけども、別にいっか。あいつらどうせニートみたいなもんだし。
「さ、リズ。ボクについてきて。今から最期の衣装に着替えるよ!」
「え?」
「いいからいいから! その代わり、『死にたくなくなった』って言うのはナシだからね!」
「……うん、わかった」
誰? 縁石の上に立って、今にも海に飛び込みそうじゃん。
ボクは、一度自転車を止めた。どうするつもりだろう。茶色いショートの髪の女性は、手を大きく広げる。まさか……自殺? こんなところで?
GWLの裏ではは多くの人の血が流れている。だけどそれは、ショーとして見せているもので、余計な死は迷惑なだけだ。どうせ死ぬなら、今人員不足のアンダーベースで殺されてくれないかなぁ。そう考えるくらい、ボクの頭は染まっていた。
あっ、落ちる。
ボクは咄嗟に彼女の手を掴んだ。
「Hey! Don't commit suicide here!」
「え……外国の人?」
「なんだ、日本人か。っていうか、それはこっちの台詞だよ。ともかく、ここで自殺しないでって言ってるの! 迷惑! 死ぬならいいところがあるから、そこで死んで!」
「いいところ……?」
黒い肌に茶髪のショートヘアの女性は、首を傾げる。
彼女だいぶ追い込まれてたのかな。ボロボロの穴あき中学ジャージに、古いTシャツ。何年も着ているのか、だいぶくたびれている。
「あなた、『自殺はダメ』とかいうんじゃないんだね」
「え? ボクはただ、ここで犬死して迷惑かけられるなら、ボクらの役に立って死んでもらいたいと思っただけだよ」
女の子――ボクより年上かな?――は不思議そうな顔をする。まぁ、一般的な感性だったら、『自殺はダメ、絶対』って言うんだろうな。
手を引っ張って、彼女を縁石の上から下ろすと、彼女はボクをじっと見つめてこう言った。
「……あなた、このままだと『死ぬ』よ?」
「はぁ?」
ボクは急に言われたひとことにびっくりした。
「いやいや! 死のうとしてたのはそっちだよね?」
「そう……なんだけど、そうじゃなくて。あなたが死にそうだったから。多分、このままだと1か月後に過労死する」
「ボクが?」
心当たりなんてない、と言い切れずに、はぁぁ~っと大きくため息をつく。昨日、いや、今朝の睡眠時間は1時間。食事も固形のものを最後に食べたのって、いつだっけ? ゼリー飲料とスナックバーばっかり食べている。しかもパソコンしながら。
「ボク、そんなに顔色悪い?」
「そうじゃなくて……わかるの、私」
「占い師かなんか?」
「……ただのフリーターだよ」
「ふうん、ただのフリーターねぇ。それがこんな朝早くに自殺?」
「朝だからだよ。朝が来たことに幻滅するの」
「それはボクと一緒だね」
朝が嫌いというわけじゃない。お日様の光を浴びれるし、朝は好き。だけど、徹夜して朝になると、まだ終わらない! っていう焦りが出てくるから嫌なんだよなぁ。
この子はそういう意味じゃないだろうけど、いいや。
「ね、本当に死にたい?」
「うん。もう身寄りもないから」
「ナイスっ! 手っ取り早いや」
思わず手を叩く。ツクモやカナメはユウキさんやヒロアキサンみたいに自分の手を汚さないタイプの人殺しじゃないからなぁ。アルデバランのショーを見ても何も思わなさそう。
アンダーベースのショーの生贄となっているのは、基本GWLのバイトで、何かやらかした人間だけど、今回は違う。ボクが海辺で勝手に『拾った』人間だ。
うっかり痕跡ががっつり残っている人だったりすると面倒くさい。
「でも、一応個人情報は聞かないとね。おねーさん、名前は?」
「リズミ。泉理澄」
「……なんか韻踏んでるね」
「よくからかわれた」
「ま、いいや。ボクはキャット。リズミ……リズでいい?」
「なんでもいいよ。どうせ死ぬんだから。それで? 私はあなたに殺されるの?」
「ボクが殺すんじゃないけど、死んでもらう。ただ、このままじゃアレだなぁ……GWLに入れる格好じゃない」
「GWL? 裏にあるテーマパーク?」
「うん。これからボクと一緒にGWLに行ってもらう。リズの墓場だよ」
「……行ったこと、なかったんだ。あんなに夢や希望のあふれる場所で死ねるなんて……現実なのかな?」
「現実、ゲンジツ!」
リズのこの言葉で、ボクは一瞬EPIC社を受ける前の自分を思い出す。ボクも昔はGWLに行ったことなかったんだよなぁ。今も乗り物とかにはほぼ乗ったことがなく、純粋に楽しんだこともないんだけど。何しろEPIC社はGWLの裏組織だからね。
ともかく、リズはこのままの服装じゃダメだ。さすがにこんな貧乏っちい格好の人間が、GWLにいるなんて『外観を汚す』。ゲストの夢を壊す。
ボクは自分用に作った特製スマホを取り出して、近くのGWL提携ホテルにSMSで連絡する。
『来客が行くから、GWL特製の新作Tシャツとカチューシャ用意しといて! サイズはS……Mかな。胸んとこ足りるかなぁ? あとジーパン? いいや、それで。よろ~』
これでよし。あとはリズを連れていくだけだ。
ツクモとカナメは待たせることになるけども、別にいっか。あいつらどうせニートみたいなもんだし。
「さ、リズ。ボクについてきて。今から最期の衣装に着替えるよ!」
「え?」
「いいからいいから! その代わり、『死にたくなくなった』って言うのはナシだからね!」
「……うん、わかった」