3-1
文字数 1,935文字
キャストに腕を解いてもらうと、さっそく蓮史郎くんとあかりさんが飛び出した。ふたりは裏の扉に体当たりする。
「くそっ! 開かねぇよぉ~っ!」
「誰か助けて~っ!!」
ふたりがどんなに扉にぶつかろうが叩こうが、開く気配はない。もしかしたら鍵をかけられているのかもしれない。それにこの劇場の扉は分厚い造りだし、中の声が聞こえないようになっている。劇場内でどんなに騒ごうが、私たちは出られないんだ。
私は雫の腕を抱いた。雫も私の背中に手をやる。
その中で冷静だったのが大人のふたり。駆さんとシュウヘイさんだった。
「……確かにこれは血液だろう。肉片も残っている。殺人が確実に行われた証拠だ」
シュウヘイさんは舞台をくまなく調べている。どうやら舞台袖には、先ほど使われた凶器も残っていたみたいだ。
「血のりではないな」
ファルカタについた黒く固まった血液を、白いハンカチで拭って確認している。シュウヘイさん、よく平気でこんなことしてるな……。
駆さんはというと、イスの上でシュウヘイさんの様子を眺めていた。
「あの……駆さん?」
私が雫と一緒に声をかけてみると、駆さんはこちらを向いた。
「どうかした?」
「どうかしたって……駆さん、やけに落ち着いてませんか? 人が殺されたんですよ!」
雫が守るように私の前に立って、駆さんに聞く。シュウヘイさんといい、彼といい、どう見てもおかしい。
「そりゃあ僕だって怖いさ。だけど、ここで叫んでも扉を叩いてもどうしようもない。だったらMs.EPICの指令を待つしかない」
「じゃ、じゃあ……」
雫の後ろから顔を出すと、私も質問した。
「またMs.EPICが誰かひとりステージに上げろって言ったら……言うことを聞く。人を殺すってことですか」
駆さんは殺人を目の当たりにしたというのに、柔らかい笑みを浮かべて首を左右に振った。
「もちろんそうならないようにするため……僕たちが殺し合いすることがないように、今色々考えていたんだ。だけど……シュウヘイくんのことが気になってね」
それはわかる。さっきから郁乃さんが殺されたところをうろうろしている。気にならないわけがない。
ちょっと変わった感じの人だとは思ってたけど、何をしているんだろう。
「……似てるんだよね、僕の幼なじみにさ。そんなわけないと思うんだけど、下の名前も一緒だし。すごい偶然だけど」
「幼なじみ……ですか?」
「うん、小学校までのね。シュウヘイとはよく遊んだなぁ。僕が人見知りしてたのを、シュウヘイがみんなの輪に入れてくれたんだ。……明るくて活発だったから、ここにいるシュウヘイくんとはやっぱり違うよね」
幼なじみと名前が一緒……か。『シュウヘイ』って名前はどちらかというと普通? どちらとも言えないけど、もしかしたら私たちは全員、知り合い同士で申し込んだとか? 私は雫と一緒。あかりさんは郁乃さんと。でも、男性陣のつながりはわからない。そもそも蓮史郎くんはひとりで来ていた。いや、駆さんとシュウヘイさんが幼なじみでつながりがあるとしたら、蓮史郎くんだけ、特別な存在とか。
「雫、ちょっといいかな」
「何?」
私たちは劇場の隅に寄ると、さっそく今私が気づいたことを話す。蓮史郎くん以外は知り合いがいる。だから――蓮史郎くんが実はEPIC社のスパイで、私たちをうまく誘導したりしているんじゃないかと雫に言った。
雫はちらっと蓮史郎くんとあかりさんのほうを見る。ふたりは疲れ切ったのか、くたっと扉の下に座り込んでいる。
「……違うと思うな。あんなに怖がってるんだよ? それに年齢も若すぎると思う。怪しいのはどちらかというと、シュウヘイさんのほうだよ」
雫はずんずんとシュウヘイさんへ向かって歩いていく。ステージに上がると、雫は足元を
いまだに調べているシュウヘイさんにたずねた。
「あの、シュウヘイさん。あなたはなんで、このアルバイトに応募したんですか? さっきからずっとステージを調べてますよね。もしかして、この神隠しのことも知ってたんじゃ……」
「俺は……」
『おっまたせ~! そろそろ落ち着いた感じ? じゃ、次の研修、行っくよ~☆』
雫が聞く前に、パソコンの中のMs.EPICに邪魔をされる。みんなは自然と、最初に座っていたイスに腰かけて、パソコンに注目する。次の研修。また誰か殺されるというのだろうか。
蓮史郎くんを見てみるが、ガタガタ震えている。やっぱり彼がスパイっていうのは無理があるのかな。シュウヘイさんはというと、じっとパソコンを見据えている。顔は険しい。殺人が起こるかもしれないから? だけど恐怖というよりも怒りの表情のような。
『今からここにキャストを連れて行くから、ステージに立つ練習をしてもらおっかな?』
「くそっ! 開かねぇよぉ~っ!」
「誰か助けて~っ!!」
ふたりがどんなに扉にぶつかろうが叩こうが、開く気配はない。もしかしたら鍵をかけられているのかもしれない。それにこの劇場の扉は分厚い造りだし、中の声が聞こえないようになっている。劇場内でどんなに騒ごうが、私たちは出られないんだ。
私は雫の腕を抱いた。雫も私の背中に手をやる。
その中で冷静だったのが大人のふたり。駆さんとシュウヘイさんだった。
「……確かにこれは血液だろう。肉片も残っている。殺人が確実に行われた証拠だ」
シュウヘイさんは舞台をくまなく調べている。どうやら舞台袖には、先ほど使われた凶器も残っていたみたいだ。
「血のりではないな」
ファルカタについた黒く固まった血液を、白いハンカチで拭って確認している。シュウヘイさん、よく平気でこんなことしてるな……。
駆さんはというと、イスの上でシュウヘイさんの様子を眺めていた。
「あの……駆さん?」
私が雫と一緒に声をかけてみると、駆さんはこちらを向いた。
「どうかした?」
「どうかしたって……駆さん、やけに落ち着いてませんか? 人が殺されたんですよ!」
雫が守るように私の前に立って、駆さんに聞く。シュウヘイさんといい、彼といい、どう見てもおかしい。
「そりゃあ僕だって怖いさ。だけど、ここで叫んでも扉を叩いてもどうしようもない。だったらMs.EPICの指令を待つしかない」
「じゃ、じゃあ……」
雫の後ろから顔を出すと、私も質問した。
「またMs.EPICが誰かひとりステージに上げろって言ったら……言うことを聞く。人を殺すってことですか」
駆さんは殺人を目の当たりにしたというのに、柔らかい笑みを浮かべて首を左右に振った。
「もちろんそうならないようにするため……僕たちが殺し合いすることがないように、今色々考えていたんだ。だけど……シュウヘイくんのことが気になってね」
それはわかる。さっきから郁乃さんが殺されたところをうろうろしている。気にならないわけがない。
ちょっと変わった感じの人だとは思ってたけど、何をしているんだろう。
「……似てるんだよね、僕の幼なじみにさ。そんなわけないと思うんだけど、下の名前も一緒だし。すごい偶然だけど」
「幼なじみ……ですか?」
「うん、小学校までのね。シュウヘイとはよく遊んだなぁ。僕が人見知りしてたのを、シュウヘイがみんなの輪に入れてくれたんだ。……明るくて活発だったから、ここにいるシュウヘイくんとはやっぱり違うよね」
幼なじみと名前が一緒……か。『シュウヘイ』って名前はどちらかというと普通? どちらとも言えないけど、もしかしたら私たちは全員、知り合い同士で申し込んだとか? 私は雫と一緒。あかりさんは郁乃さんと。でも、男性陣のつながりはわからない。そもそも蓮史郎くんはひとりで来ていた。いや、駆さんとシュウヘイさんが幼なじみでつながりがあるとしたら、蓮史郎くんだけ、特別な存在とか。
「雫、ちょっといいかな」
「何?」
私たちは劇場の隅に寄ると、さっそく今私が気づいたことを話す。蓮史郎くん以外は知り合いがいる。だから――蓮史郎くんが実はEPIC社のスパイで、私たちをうまく誘導したりしているんじゃないかと雫に言った。
雫はちらっと蓮史郎くんとあかりさんのほうを見る。ふたりは疲れ切ったのか、くたっと扉の下に座り込んでいる。
「……違うと思うな。あんなに怖がってるんだよ? それに年齢も若すぎると思う。怪しいのはどちらかというと、シュウヘイさんのほうだよ」
雫はずんずんとシュウヘイさんへ向かって歩いていく。ステージに上がると、雫は足元を
いまだに調べているシュウヘイさんにたずねた。
「あの、シュウヘイさん。あなたはなんで、このアルバイトに応募したんですか? さっきからずっとステージを調べてますよね。もしかして、この神隠しのことも知ってたんじゃ……」
「俺は……」
『おっまたせ~! そろそろ落ち着いた感じ? じゃ、次の研修、行っくよ~☆』
雫が聞く前に、パソコンの中のMs.EPICに邪魔をされる。みんなは自然と、最初に座っていたイスに腰かけて、パソコンに注目する。次の研修。また誰か殺されるというのだろうか。
蓮史郎くんを見てみるが、ガタガタ震えている。やっぱり彼がスパイっていうのは無理があるのかな。シュウヘイさんはというと、じっとパソコンを見据えている。顔は険しい。殺人が起こるかもしれないから? だけど恐怖というよりも怒りの表情のような。
『今からここにキャストを連れて行くから、ステージに立つ練習をしてもらおっかな?』