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文字数 1,769文字
全員が死ぬ。意味も分からず死ぬなんて、私は嫌。Mさんだってきっとそうだったに違いない。なんでこんなゲームに巻き込まれているか……それを知らなきゃ死んでも死にきれない。
みんなが強くうなずくと、私はAちゃんにカードを渡した。
「え? Yちゃん、これは?」
「私ばっかりカードを配っていたら公平じゃないと思って。みんなで順番にカードを配る係りをやろうと思ったの。それでもいいですか?」
「もちろんだ」
Kさんが言うと、NちゃんもSくんも了承してくれた。
「う、うん、俺もそのほうが安心……だって、誰が悪人だかわからないからね。みんなの中に、自分の正体を知っていて、俺たちを殺そうとしている人間がいるかもわからない」
Jさんの言葉に、みんなが押し黙る。それに意見したのはAちゃんだった。
「そ、そんなのわからないですよ。だったらなんでわたしもここにいるんですか? わたしはその……人を殺すとか、そんなことできないです。体力もないし、頭もよくないし……」
彼女の言う通りだ。こんな小さい子にできる犯罪なんて、万引きくらいじゃないか? 人を殺すと簡単に言っても、小学生の力で大人に包丁を突き刺すことは難しい。力が足りない。銃や薬を使ったとしても、どうやって入手する? 不可能だ。
Aちゃんの意見を擁護したのは、意外にもNちゃんだった。
「あ、あたしもそう思うよ! Aちゃんだけは絶対に悪人じゃないと思う!」
さっきの中二病全開だったのはどこへやら。急におどおどした女の子に変わり、みんな驚く。
やっぱり自分の命がかかっていたら、悪ふざけしている場合じゃないとわかったのだろう。Kさんはカメラに向かって提案した。
「DC! ここに絶対悪人じゃない子がいるってわかってる場合でも、ゲームをしないといけないのか? 彼女だけ逃がしてあげることはできないだろうか?」
Kさんは最初から冷静沈着だ。しかも勇気がある。私にはこんな直談判するなんて考えは浮かばなかった。もし、DCの機嫌を損ねてしまったら……。何らかの方法で殺されてしまうんじゃないかとも思ったから。本当に私はずるい大人だ。
テレビが再びつくと、DCは私たちに言った。
『そんなに自信があるの? Aちゃんが『悪いヤツ』じゃないって。そりゃあ、この子の手で人を殺すことは難しいかもしれない。でも、事故だったら?』
「事故?」
私が反芻すると、DCはくすっと笑った。
『よくあるでしょ? 海で溺れていた子どもを助けようとした大人が死んじゃう、とか。子どもが急に出てきたから避けて死んだトラック運転手とか。事故の原因を作ってしまうことは、『悪いこと』じゃないのかなぁ~?』
Aちゃんは泣きそうになるのをぐっと堪えた。事故の原因を作ったから悪人? そこまで善悪の判断の中に取り入れるなら、余計に誰が本当の悪人なのかわからなくなってしまう。
Aちゃんだけは逃がせるかと思ったけど……Aちゃんが『悪いヤツ』という可能性も逆に出てきてしまったってことか。
「やめてくれよ、こんな小さな子まで疑わないといけないなんて……」
Jさんが頭を抱えると、DCの後ろから人間の手が出てきた。一度机の上に乗っていたDCを取ると、時計を抱かせて元の位置に戻す。その時計は、私たちのいる部屋にあるものと同じ。0と30しか文字盤がないものだ。
『ほら、ゲームをしないと緩和剤がもらえなくなっちゃうよ? 急がないと!』
「仕方ない、やるしかないよ」
SくんがAちゃんを見つめる。Aちゃんは泣きそうなのを我慢して、カードをきると、みんなに配った。順番はさっきと逆回転。これも公平にやるためだ。私から、Sくん、Jさん、Kさん、Nちゃん、Aちゃんの順。
……今のところ、ジョーカーは私の手の内にある。けど、ラッキーだった。順番は一番だ。うまくSくんが引いてくれれば、当分は回ってこないだろう。Sくんは迷った挙句、私から見て左から2枚目の手札を引いた。ジョーカーは移動した。これで私の負けはなくなったはずだ。
――だが、それは単なる油断でしかなかった。
カードが移動する速度は、私が考えていた異常に早かった。そして、自分で引いてしまったのだ。戻ってきたジョーカーを。
「……負けた?」
『はい! 2回目のゲームの敗者は、Yさんです! では、Yさんの情報をみんなに教えるね!』
みんなが強くうなずくと、私はAちゃんにカードを渡した。
「え? Yちゃん、これは?」
「私ばっかりカードを配っていたら公平じゃないと思って。みんなで順番にカードを配る係りをやろうと思ったの。それでもいいですか?」
「もちろんだ」
Kさんが言うと、NちゃんもSくんも了承してくれた。
「う、うん、俺もそのほうが安心……だって、誰が悪人だかわからないからね。みんなの中に、自分の正体を知っていて、俺たちを殺そうとしている人間がいるかもわからない」
Jさんの言葉に、みんなが押し黙る。それに意見したのはAちゃんだった。
「そ、そんなのわからないですよ。だったらなんでわたしもここにいるんですか? わたしはその……人を殺すとか、そんなことできないです。体力もないし、頭もよくないし……」
彼女の言う通りだ。こんな小さい子にできる犯罪なんて、万引きくらいじゃないか? 人を殺すと簡単に言っても、小学生の力で大人に包丁を突き刺すことは難しい。力が足りない。銃や薬を使ったとしても、どうやって入手する? 不可能だ。
Aちゃんの意見を擁護したのは、意外にもNちゃんだった。
「あ、あたしもそう思うよ! Aちゃんだけは絶対に悪人じゃないと思う!」
さっきの中二病全開だったのはどこへやら。急におどおどした女の子に変わり、みんな驚く。
やっぱり自分の命がかかっていたら、悪ふざけしている場合じゃないとわかったのだろう。Kさんはカメラに向かって提案した。
「DC! ここに絶対悪人じゃない子がいるってわかってる場合でも、ゲームをしないといけないのか? 彼女だけ逃がしてあげることはできないだろうか?」
Kさんは最初から冷静沈着だ。しかも勇気がある。私にはこんな直談判するなんて考えは浮かばなかった。もし、DCの機嫌を損ねてしまったら……。何らかの方法で殺されてしまうんじゃないかとも思ったから。本当に私はずるい大人だ。
テレビが再びつくと、DCは私たちに言った。
『そんなに自信があるの? Aちゃんが『悪いヤツ』じゃないって。そりゃあ、この子の手で人を殺すことは難しいかもしれない。でも、事故だったら?』
「事故?」
私が反芻すると、DCはくすっと笑った。
『よくあるでしょ? 海で溺れていた子どもを助けようとした大人が死んじゃう、とか。子どもが急に出てきたから避けて死んだトラック運転手とか。事故の原因を作ってしまうことは、『悪いこと』じゃないのかなぁ~?』
Aちゃんは泣きそうになるのをぐっと堪えた。事故の原因を作ったから悪人? そこまで善悪の判断の中に取り入れるなら、余計に誰が本当の悪人なのかわからなくなってしまう。
Aちゃんだけは逃がせるかと思ったけど……Aちゃんが『悪いヤツ』という可能性も逆に出てきてしまったってことか。
「やめてくれよ、こんな小さな子まで疑わないといけないなんて……」
Jさんが頭を抱えると、DCの後ろから人間の手が出てきた。一度机の上に乗っていたDCを取ると、時計を抱かせて元の位置に戻す。その時計は、私たちのいる部屋にあるものと同じ。0と30しか文字盤がないものだ。
『ほら、ゲームをしないと緩和剤がもらえなくなっちゃうよ? 急がないと!』
「仕方ない、やるしかないよ」
SくんがAちゃんを見つめる。Aちゃんは泣きそうなのを我慢して、カードをきると、みんなに配った。順番はさっきと逆回転。これも公平にやるためだ。私から、Sくん、Jさん、Kさん、Nちゃん、Aちゃんの順。
……今のところ、ジョーカーは私の手の内にある。けど、ラッキーだった。順番は一番だ。うまくSくんが引いてくれれば、当分は回ってこないだろう。Sくんは迷った挙句、私から見て左から2枚目の手札を引いた。ジョーカーは移動した。これで私の負けはなくなったはずだ。
――だが、それは単なる油断でしかなかった。
カードが移動する速度は、私が考えていた異常に早かった。そして、自分で引いてしまったのだ。戻ってきたジョーカーを。
「……負けた?」
『はい! 2回目のゲームの敗者は、Yさんです! では、Yさんの情報をみんなに教えるね!』