2-8
文字数 2,225文字
「江頭郁乃だな」
シュウヘイさんが一番に郁乃さんを指す。
「僕もそう思うよ。3問中、2問は彼女の知識のおかげでクリアできたんだから」
私と雫も駆さんと同意見。
「ポップコーンは駆さんのおかげだけど、やっぱ郁乃さんだよな~。ってか、彼女にチャンスを与えるべきじゃね?」
蓮史郎くんはちらりとあかりさんを見る。郁乃さんは戦力だったし、あかりさんをずっとなだめていた。意地悪ってわけじゃないけど、あかりさんと郁乃さんは同じダンススクール。
いつもあかりさんのわがままやいびりに耐えているのだと思う。そういうところを見ると、あかりさんに一泡吹かせてやりたいっていう気持ちになってしまう。じゃないと、頑張った郁乃さんが報われない。
「わ、私はあかりちゃんがいいと思う……。私なんかよりもダンスうまいし、きっとステージに出ても恥ずかしくないよ。私はダンス、下手だし……」
「ふんっ、当然よ!」
あかりさんの態度は、余計にみんなの意見を固めた。
「やっぱり郁乃さんがいいと思う。頑張った人に与えられるご褒美なら、尚更だよ!」
私が強くいうと、あかりさんはぐっと唇を噛んだ。
『……決定みたいだね! 江頭郁乃サン。ガイドの彼について行って。他のみんなは女性ガイドが案内するから、携帯全部はショーの最中に鳴ったらまずいから、ガイドに預けるように! ではでは~!』
チャットが切れると、男性ガイドは郁乃さんを笑顔で連れていく。郁乃さんはびくびくしながら、最後まであかりさんを気にしていた。
「それではみなさんはこちらで~す!」
女性ガイドに連れられて、私たちは閉鎖されたアトラクションの中を通る。そして、裏方が使うために設置されたのだろうか。エレベーターに乗り、地下へ潜る。私はちょっとだけドキドキしていた。ここの地下が、いわゆるキャストしか知らない世界なんだよね。チン、とエレベーターが到着すると、静かに扉が開く。
そこには昔のアメリカのような街並みが広がっていた。上の世界ではまだ昼間だったのに、ここは地下だからか夜みたいだ。
「みなさん、どうぞお入りください」
「え……」
私たちが通されたのは、小さな劇場だった。『Undrbase』と表記されてある。
ここから上で行われているステージを見学するの? 不思議に思ったまま席につくと、6人黒いマタドールのようなコスチュームを着た、仮面のキャストが出てきて私たちの腕をベルトで固定する。え!? な、何……?
「どういうことだ」
シュウヘイさんが女性ガイドに声をかけると、蓮史郎くんとあかりさんも騒ぎ始めた。
「何よ、これ! なんであかりたちが縛られるの!?」
「これじゃあ上の舞台なんて見られないじゃん! どーいうこと!? ちょっと、誰か~っ! 説明してってば!」
横に座った雫を見つめると、前の小さなステージを見ていた。私もそちらに目を向けると、大きな十字架のようなものがセットされている。それには黒いしみがいくつも。それだけでも不気味だ。嫌な予感がする。
何が起こるかわからず、ただ待っているとアクターの男性がステージに出てきた。
「Welcome Everyone!Now begin EPIC thing is done at the UnderBase.」
「ど、どういう意味?」
「ごめん、英語はわかんない」
雫と私はびくびくしながら目の前の男性を見つめるだけ。他のみんなも何が起こるのかわからずただ顔を前に向けるしかない。
しばらくすると陽気な音楽が流れだす。これは上のステージと同じもの?
「い、郁乃!?」
赤いライトに照らされたステージに、目隠しをされた郁乃さんを仮面のアクターたちが連れてくる。ステージに出るとは聞いていたけど、ダンスとかじゃないの? そもそも一体、今からここで何が起こるというの!?
郁乃さんはアクターたちに十字架へ磔にされる。皮のバンドで両腕と足をしっかり固定された。
「誰か助けてっ!! 私じゃないわ! ここに磔にされるのは、坂下あかりよっ!!」
「な、なんか様子がおかしいけど……これも演出?」
蓮史郎くんがひきつった笑みを浮かべながら、みんなにたずねる。
その質問に誰も答えない。
ステージの郁乃さんに名指しされたあかりさんも、無言だ。郁乃さんは大声で叫び続ける。
「私はグローバルワンダーランドの神隠しの噂を知っていた! しかもそれが本当のことで、消えたアクター希望者が殺されているってことも!」
「アクター希望者が……殺……される……?」
私は歯がガチガチと勝手に震え出す。怖いし、今すぐ逃げたい。なのにステージから目を離せない。
女性マタドールが長くて湾曲した刀のようなものを持って、郁乃さんの横に立つ。
「あれは……ファルカタ……」
「ファルカタって何!?」
ぼそっと蓮史郎くんが言ったことに過剰に反応する雫。
蓮史郎くんはステージから目を逸らすことなく、つぶやいた。
「……あの刀のこと。多分本物だ」
「本物……? 郁乃は!? 郁乃はどうなるのよっ!」
あかりさんが叫んだ瞬間だった。
「私じゃないっ! 殺されるのはあかり……っ!」
ファルカタが郁乃さんの身体を斜めに斬る。
断末魔が劇場内に響き渡り、血が飛び散る。
「う、うわああっ!!」
「きゃああっ!!」
みんなの絶叫が耳に入ってくる。
……ああ、やっとわかった。あの黒いしみは、血の跡だ……。
気を失いそうになりながら、私はぼやけた頭でそれだけを考えていた。
シュウヘイさんが一番に郁乃さんを指す。
「僕もそう思うよ。3問中、2問は彼女の知識のおかげでクリアできたんだから」
私と雫も駆さんと同意見。
「ポップコーンは駆さんのおかげだけど、やっぱ郁乃さんだよな~。ってか、彼女にチャンスを与えるべきじゃね?」
蓮史郎くんはちらりとあかりさんを見る。郁乃さんは戦力だったし、あかりさんをずっとなだめていた。意地悪ってわけじゃないけど、あかりさんと郁乃さんは同じダンススクール。
いつもあかりさんのわがままやいびりに耐えているのだと思う。そういうところを見ると、あかりさんに一泡吹かせてやりたいっていう気持ちになってしまう。じゃないと、頑張った郁乃さんが報われない。
「わ、私はあかりちゃんがいいと思う……。私なんかよりもダンスうまいし、きっとステージに出ても恥ずかしくないよ。私はダンス、下手だし……」
「ふんっ、当然よ!」
あかりさんの態度は、余計にみんなの意見を固めた。
「やっぱり郁乃さんがいいと思う。頑張った人に与えられるご褒美なら、尚更だよ!」
私が強くいうと、あかりさんはぐっと唇を噛んだ。
『……決定みたいだね! 江頭郁乃サン。ガイドの彼について行って。他のみんなは女性ガイドが案内するから、携帯全部はショーの最中に鳴ったらまずいから、ガイドに預けるように! ではでは~!』
チャットが切れると、男性ガイドは郁乃さんを笑顔で連れていく。郁乃さんはびくびくしながら、最後まであかりさんを気にしていた。
「それではみなさんはこちらで~す!」
女性ガイドに連れられて、私たちは閉鎖されたアトラクションの中を通る。そして、裏方が使うために設置されたのだろうか。エレベーターに乗り、地下へ潜る。私はちょっとだけドキドキしていた。ここの地下が、いわゆるキャストしか知らない世界なんだよね。チン、とエレベーターが到着すると、静かに扉が開く。
そこには昔のアメリカのような街並みが広がっていた。上の世界ではまだ昼間だったのに、ここは地下だからか夜みたいだ。
「みなさん、どうぞお入りください」
「え……」
私たちが通されたのは、小さな劇場だった。『Undrbase』と表記されてある。
ここから上で行われているステージを見学するの? 不思議に思ったまま席につくと、6人黒いマタドールのようなコスチュームを着た、仮面のキャストが出てきて私たちの腕をベルトで固定する。え!? な、何……?
「どういうことだ」
シュウヘイさんが女性ガイドに声をかけると、蓮史郎くんとあかりさんも騒ぎ始めた。
「何よ、これ! なんであかりたちが縛られるの!?」
「これじゃあ上の舞台なんて見られないじゃん! どーいうこと!? ちょっと、誰か~っ! 説明してってば!」
横に座った雫を見つめると、前の小さなステージを見ていた。私もそちらに目を向けると、大きな十字架のようなものがセットされている。それには黒いしみがいくつも。それだけでも不気味だ。嫌な予感がする。
何が起こるかわからず、ただ待っているとアクターの男性がステージに出てきた。
「Welcome Everyone!Now begin EPIC thing is done at the UnderBase.」
「ど、どういう意味?」
「ごめん、英語はわかんない」
雫と私はびくびくしながら目の前の男性を見つめるだけ。他のみんなも何が起こるのかわからずただ顔を前に向けるしかない。
しばらくすると陽気な音楽が流れだす。これは上のステージと同じもの?
「い、郁乃!?」
赤いライトに照らされたステージに、目隠しをされた郁乃さんを仮面のアクターたちが連れてくる。ステージに出るとは聞いていたけど、ダンスとかじゃないの? そもそも一体、今からここで何が起こるというの!?
郁乃さんはアクターたちに十字架へ磔にされる。皮のバンドで両腕と足をしっかり固定された。
「誰か助けてっ!! 私じゃないわ! ここに磔にされるのは、坂下あかりよっ!!」
「な、なんか様子がおかしいけど……これも演出?」
蓮史郎くんがひきつった笑みを浮かべながら、みんなにたずねる。
その質問に誰も答えない。
ステージの郁乃さんに名指しされたあかりさんも、無言だ。郁乃さんは大声で叫び続ける。
「私はグローバルワンダーランドの神隠しの噂を知っていた! しかもそれが本当のことで、消えたアクター希望者が殺されているってことも!」
「アクター希望者が……殺……される……?」
私は歯がガチガチと勝手に震え出す。怖いし、今すぐ逃げたい。なのにステージから目を離せない。
女性マタドールが長くて湾曲した刀のようなものを持って、郁乃さんの横に立つ。
「あれは……ファルカタ……」
「ファルカタって何!?」
ぼそっと蓮史郎くんが言ったことに過剰に反応する雫。
蓮史郎くんはステージから目を逸らすことなく、つぶやいた。
「……あの刀のこと。多分本物だ」
「本物……? 郁乃は!? 郁乃はどうなるのよっ!」
あかりさんが叫んだ瞬間だった。
「私じゃないっ! 殺されるのはあかり……っ!」
ファルカタが郁乃さんの身体を斜めに斬る。
断末魔が劇場内に響き渡り、血が飛び散る。
「う、うわああっ!!」
「きゃああっ!!」
みんなの絶叫が耳に入ってくる。
……ああ、やっとわかった。あの黒いしみは、血の跡だ……。
気を失いそうになりながら、私はぼやけた頭でそれだけを考えていた。