2-12
文字数 2,146文字
りえかさんのつぶやいた言葉に、ミホさんがびくりと反応する。
「り……りえか……あんた……!!」
ミホさんがりえかさんのえりを再度つかもうと飛びついたが、りえかさんは静かに身体を沈め、足払いをかけた。
「ぎゃんっ!!」
「……すみません。また痛い目にあう気はなかったので」
「りえかさん……あんたも一体何者なんですか? 今の身のこなし……」
偶然とは思えないほど鮮やかだった。何か格闘技でもやっていたのか? それに……。
「ミホさんのことを知ってるって?」
「ええ。ミホさんもモデルだったんですよ。と、言っても、私のように雑誌に出たりショーに呼ばれたりはしない……ただの読者モデル。そんなレベルです」
「ち、違うわよ! あたしは確かに読者モデルだった! でも、そこから何社か雑誌の取材を受けたりしたし、もう立派なプロだった!!」
「それは……」
今まで眉毛を八の字にして困ったような顔や泣きそうな顔しか見せていなかったりえかさんが、口元に手を添えてくすっと笑った。
「……『自称・プロ』ですよね? 誰もあなたのことをプロだなんて認めてなかったんですよ? なのに、プロのモデルでもしないようなひどい態度で。自分の意見が通らなかったら、通すまで引き下がらなかったことが何度もあったそうですね? スタッフのみなさん、すごく嫌ってたんですよ? あなたのこと」
「くっ!!」
「私生活……特に男性関係も派手だったとか。好みの男性モデルさんに会うために、必要がないのに現場へ押しかけたこともあるそうですね。職権乱用と思わなかったのか、私には理解できません」
俺はぽかんとする。
キャットもりえかさんの変わりようには目を見張っていた。
御堂は眉間にしわだ。多分、女のいざこざに巻き込まれたくないといった感じなのだろう。
そんな中、瑞希さんだけは冷静だった。
「そろそろ誰かひとりを決めないといけないようですね」
画面の中の時計は残り5分といったところか。
「ちょっと! いい加減にしてよ! りえか、あんたの正体、やっと出て来たわね。何もできない、か弱い女をずっと演じてたくせに!!」
「……だったらなんですか? みなさんが勝手に騙されてくれていただけですよ?」
りえかさんはさっきとは別人のようだ。おどおどしたり、ガタガタ震えていたはずなのに、今はミホさんを見下すような目をしている。
「今回は『学歴を参考に』不採用者を選べという質問でしたね。私は高卒だけど、下積みから一生懸命モデルという仕事に真剣に取り組んできた。あなたはMIT卒だったのにモデルという仕事を干され、生保やスーパーで働いたあと、キャバ嬢へ……職業については特にいうことはありません。でも……もしかしてですけど、どこでもうまくいかなかったのは、あなたが今回の面接で私にやってきた通り、人の失敗を責めて、みんなに白い目で見られるようになり、その場にいられなくなってしまったから長続きしなかったんじゃないかなぁ……?」
「こ、この女狐……っ!! あたしはそんなんじゃない! すべて環境が悪かったり、あたしの足を引っ張ったりした人間がいたのよっ!!」
「………」
一同静寂。ただ刻々と時間が過ぎていく。
「ちょっと、誰か助けてっ!! このままじゃあたしが選ばれる……っ!! あたしは悪くないっ! 落とすならりえかよっ!! 助けてっ!!」
ミホさんは確かに自分勝手だった。だけど、今まで本性を現さなかったりえかさんだって同じくらい問題じゃないか? 今までのがすべて演技だったんだ。人が死んで怯えている姿も、質問に答えられなかったのも、全部……。それを全部ミホさんに背負わせたら、りえかさんの策略にまんまと乗ったことになる。
そんなことで犠牲者を出すわけにはいかない。
「私が演技をしていたことも問題かもしれません。ですが……これは賭けだったんです」
「賭け?」
俺が反芻すると、りえかさんはこくんとうなずいた。
「最初は普通に面接を受けるつもりだったんです。でも、状況は変わった。ここにいる全員が面接官だと聞いて、私は悲劇のヒロインを演じることにしたんです」
「それはミホさんが言った通り、誰かに同情してもらったり、助けてもらおうとするためですか?」
俺の質問にも首を縦に振った。
「誰か文句をいう人が出ること……ま、ミホさんは言うと思ってましたが、作戦は概ね成功しました。おかげでここまで生き残っていますしね」
……嘘だろ。彼女もミホさんと同じだったのか。誰かを蹴落とすために、演技を……。
「りえか……あんたがこの計画を……!?」
「計画? 何のことです?」
ミホさん、震えてる? 計画ってなんのことだ?
「りえか、あの子を……!!」
『は~い、終了時間で~す! 誰を不採用にするか、決めたかな?』
ミスターEPICの陽気な声がバー店内に響く。
りえかさんとミホさん、ふたりの関係はなんなんだ?
だけどその前に俺たちはまた、誰かひとりを生贄にしないといけないのか?
「まだ審議中だ」
不愉快そうに御堂が告げると、ミスターEPICはあっさりと言ってのけた。
『じゃ、今多数決取ろう。え~と、キミたちのことをこっそり見てたんだけど、今のところ不採用濃厚なのがミホさんってところかな? ミホさんを不採用にしたい人~!』
いきなり多数決だと……!?
「り……りえか……あんた……!!」
ミホさんがりえかさんのえりを再度つかもうと飛びついたが、りえかさんは静かに身体を沈め、足払いをかけた。
「ぎゃんっ!!」
「……すみません。また痛い目にあう気はなかったので」
「りえかさん……あんたも一体何者なんですか? 今の身のこなし……」
偶然とは思えないほど鮮やかだった。何か格闘技でもやっていたのか? それに……。
「ミホさんのことを知ってるって?」
「ええ。ミホさんもモデルだったんですよ。と、言っても、私のように雑誌に出たりショーに呼ばれたりはしない……ただの読者モデル。そんなレベルです」
「ち、違うわよ! あたしは確かに読者モデルだった! でも、そこから何社か雑誌の取材を受けたりしたし、もう立派なプロだった!!」
「それは……」
今まで眉毛を八の字にして困ったような顔や泣きそうな顔しか見せていなかったりえかさんが、口元に手を添えてくすっと笑った。
「……『自称・プロ』ですよね? 誰もあなたのことをプロだなんて認めてなかったんですよ? なのに、プロのモデルでもしないようなひどい態度で。自分の意見が通らなかったら、通すまで引き下がらなかったことが何度もあったそうですね? スタッフのみなさん、すごく嫌ってたんですよ? あなたのこと」
「くっ!!」
「私生活……特に男性関係も派手だったとか。好みの男性モデルさんに会うために、必要がないのに現場へ押しかけたこともあるそうですね。職権乱用と思わなかったのか、私には理解できません」
俺はぽかんとする。
キャットもりえかさんの変わりようには目を見張っていた。
御堂は眉間にしわだ。多分、女のいざこざに巻き込まれたくないといった感じなのだろう。
そんな中、瑞希さんだけは冷静だった。
「そろそろ誰かひとりを決めないといけないようですね」
画面の中の時計は残り5分といったところか。
「ちょっと! いい加減にしてよ! りえか、あんたの正体、やっと出て来たわね。何もできない、か弱い女をずっと演じてたくせに!!」
「……だったらなんですか? みなさんが勝手に騙されてくれていただけですよ?」
りえかさんはさっきとは別人のようだ。おどおどしたり、ガタガタ震えていたはずなのに、今はミホさんを見下すような目をしている。
「今回は『学歴を参考に』不採用者を選べという質問でしたね。私は高卒だけど、下積みから一生懸命モデルという仕事に真剣に取り組んできた。あなたはMIT卒だったのにモデルという仕事を干され、生保やスーパーで働いたあと、キャバ嬢へ……職業については特にいうことはありません。でも……もしかしてですけど、どこでもうまくいかなかったのは、あなたが今回の面接で私にやってきた通り、人の失敗を責めて、みんなに白い目で見られるようになり、その場にいられなくなってしまったから長続きしなかったんじゃないかなぁ……?」
「こ、この女狐……っ!! あたしはそんなんじゃない! すべて環境が悪かったり、あたしの足を引っ張ったりした人間がいたのよっ!!」
「………」
一同静寂。ただ刻々と時間が過ぎていく。
「ちょっと、誰か助けてっ!! このままじゃあたしが選ばれる……っ!! あたしは悪くないっ! 落とすならりえかよっ!! 助けてっ!!」
ミホさんは確かに自分勝手だった。だけど、今まで本性を現さなかったりえかさんだって同じくらい問題じゃないか? 今までのがすべて演技だったんだ。人が死んで怯えている姿も、質問に答えられなかったのも、全部……。それを全部ミホさんに背負わせたら、りえかさんの策略にまんまと乗ったことになる。
そんなことで犠牲者を出すわけにはいかない。
「私が演技をしていたことも問題かもしれません。ですが……これは賭けだったんです」
「賭け?」
俺が反芻すると、りえかさんはこくんとうなずいた。
「最初は普通に面接を受けるつもりだったんです。でも、状況は変わった。ここにいる全員が面接官だと聞いて、私は悲劇のヒロインを演じることにしたんです」
「それはミホさんが言った通り、誰かに同情してもらったり、助けてもらおうとするためですか?」
俺の質問にも首を縦に振った。
「誰か文句をいう人が出ること……ま、ミホさんは言うと思ってましたが、作戦は概ね成功しました。おかげでここまで生き残っていますしね」
……嘘だろ。彼女もミホさんと同じだったのか。誰かを蹴落とすために、演技を……。
「りえか……あんたがこの計画を……!?」
「計画? 何のことです?」
ミホさん、震えてる? 計画ってなんのことだ?
「りえか、あの子を……!!」
『は~い、終了時間で~す! 誰を不採用にするか、決めたかな?』
ミスターEPICの陽気な声がバー店内に響く。
りえかさんとミホさん、ふたりの関係はなんなんだ?
だけどその前に俺たちはまた、誰かひとりを生贄にしないといけないのか?
「まだ審議中だ」
不愉快そうに御堂が告げると、ミスターEPICはあっさりと言ってのけた。
『じゃ、今多数決取ろう。え~と、キミたちのことをこっそり見てたんだけど、今のところ不採用濃厚なのがミホさんってところかな? ミホさんを不採用にしたい人~!』
いきなり多数決だと……!?