文字数 1,369文字

「え、Mさん!?」

 隣にいたKさんとNちゃんがMさんを見つめる。Mさんの口からはあぶくが出ている。まさか、本当に毒が!? Mさんは床に倒れると、嘔吐する。そしてしばらく痙攣したのち、ぴくりとも動かなくなった。

「う、う、嘘でしょ……? な、何が起こったっていうんだ!?」

 Jさんが声を荒げる。Kさんは冷静にMさんの首に手を当てた。

「……死んでる」
「きゃ、きゃああっ!!」

 Aちゃんが私の足に飛びつく。Nちゃんもさすがに真っ青だ。これはフリでも何らかのゲームでもない。リアルだ。

 だけどなんで!? Mさんは挙手の結果、みんなに『悪いヤツではない』と判断された。それに、みんな緩和剤を飲んだはず。それなのになぜ、死ぬなんてこと……!

『はい、これで1回目のゲームは終了だね!』

 ……どういうこと? 1回目のゲームでは、確かにMさんが負けた。でも、悪人ではないと判断され、ゲームは終わったはずだ。

 みんなもテレビの中のDCを見つめる。

『1回のゲームは、悪人かどうか判断した後、緩和剤を飲むでしょ? その中にひとつだけ毒が急激に回る薬物が入ってるんだ。つまり君たちは、1回の投票と引き換えに、メンバーのひとりを殺さなきゃいけないってこと。でも安心して! 『悪いヤツ』が見つかれば、そいつだけお仕置きするから! そのお仕置きがすめば、全員解放されるからね! ちなみにMさんの正体は……』

 また画面が切り替わる。画面いっぱいにMさんの写真と本名、経歴が映し出される。

『川勢田絵夢(かわせだ・えむ)――17歳、市立幕張第一高校3年生。実家は反社会勢力。父は四代目。家族構成、父・母・兄。成績優秀な優等生で進学クラス所属。将来の夢は弁護士』

 彼女のどこが悪人なの? 殺される要素なんてない。あるとしたら親御さんのことだけだが、彼女については『優等生』と書かれているだけだ。ということは、彼女自身に殺害される理由なんてやはりなかったんだ。

「う、嘘……脱出ゲームなんかじゃなかったんだ……」

 Nちゃんの低く落ち込んだ声が耳に入った。

「どういうこと? Nちゃん」

「あたし、確かに記憶なくなってるけど……もしかしたら全員仕込みで、遊園地とかにある脱出ゲームに巻き込まれたんだと思ってたんだ。だからいつもと同じペースで……」

 だからずっと中二病キャラを保ってたってことか。リアルなデスゲームなんかじゃなくて、ただのゲームだと思っていたから……。

「Yちゃん、わたしも死んじゃうの?」

 Aちゃんに泣きつかれた私は困った。Aちゃんは多分、何もしていない無実の人間だ。彼女を生かして帰すには、私たちが『悪いヤツ』を見つけなくちゃいけない。そして確実に緩和剤を選び続けなくては……。

「嘘だよね? こんなの。は、ははっ……嘘って言ってよ……」

 Jさんがイスに座り泣き出すと、Kさんが冷たく言い放った。

「生き抜くしかないですよ。それか、この中にいる悪人が名乗り出るまで待つか」
「でも、時間はないみたいだよ」

 壁にある時計を見つめるSくん。アナログ時計だが、盤面には0と30しか書かれていない。今、針があるのは大体10分の位置。あと大体20分。それまでにまたババ抜きをして、悪人を暴かなくてはみんなが死ぬ。

「……やるしかないですよ。さあ、2回目のゲームをしましょう。そうしないと……」
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