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文字数 1,778文字
「アイスピック? こんなので人を殺すなんてできない」
「はい、残念。でもアンタの武器はそれだよ、ミフユ」
キャットはにやっと笑うと、雫の前に箱を置いた。
「アンタも使うのは慎重にね? 6回しか使えないから」
出てきたのは拳銃だ。雫はそれを手に取り、弾を入れる。すると、キャットに向かって一発撃った。
「……ひゅ~っ、あっぶない。6回しか使えないっつってんのに、なんでボクらに使うかなぁ?」
キャットは瑞希さんの持っていたカバンに身を隠して、何とか弾を避けたようだった。雫はそのあと、連続して5回、キャットと瑞希さんに向かって撃ちこんだ。瑞希さんの身のこなしで、キャットは全弾避けきる。
「バカな真似をよしなさい。あなたの武器はもう使えないのよ」
メガネを直しながら瑞希さんは注意する。カバンの中に入っていたのは、分厚い防弾チョッキのようなものだった。
それをゴトンと床に落とすと、キャットとともに客席に座る。キャットはパソコンのカメラを向けて、撮影開始のボタンを押したようだ。赤く光っているので気づく。
「さあ、アンダーベースの夏スペシャル企画! 最後に生き残るのはどちらか~っ!」
まるでバラエティ番組みたいなノリだ。だけど雫の武器は拳銃だった。もう弾もない。それなら私が彼女を殺す理由なんてない。
「私は雫を殺しません! だって武器もないし、私たちは親友……」
「だからその親友っていうの、やめてくれない? 反吐が出る」
雫の手元に光るものが見えた。あれは……蓮史郎くんのペーパーナイフ?
「あいつを殺した理由のひとつは、このナイフを手に入れるため。あの剣は重いし、使いにくい。ナイフなら、もし蓮史郎くんを殺したことで研修が終了しても、そのあとであんたを殺せると思ったからね」
「……雫がお兄ちゃんのことを好きだったなんて、初めて知った。でもなんで? 私が何を……」
「それよ! いつもなんで、なんでって! 少しは自分の頭で考えたらどうなの!? ヒロアキお兄ちゃんはすごく勉強ができて、見たものもすべて覚えていて、私に色々教えてくれた。それに優しくて大好きだったのに……あんたがお兄ちゃんが高校に入学する前、『一緒にいると比較されるから』って家から追い出したんじゃない!」
「あっ……」
松山ヒロアキ。私のお兄ちゃんは小学生の頃は普通よりちょっと頭がいいくらいだったのだが、中学に入ってぐんと成績が伸びた。運動はあまり得意ではなかったけど、いわゆる『超記憶力』というやつだろうか。見たものをすべて瞬間的に覚えてしまう力があった。
それのおかげで中学では『天才』と言われる反面、いじめの対象になっていた。それは私も同じ。お兄ちゃんが圧倒的な天才。
私はというと、本当に普通。勉強の才能もない。努力をしても報われない。運動もできないし、芸術面に秀でていたわけでもない。いたって平凡な小学生だった。そのせいで主に大人から比べられることが多かった。
『お兄ちゃんは優秀なのに、妹さんはねぇ……』って。お兄ちゃんはその能力を使い、全国1位の偏差値の高校を受験した。そのせいでひとり暮らしを始めることになり、私たちはバラバラになった。
「あんたがヒロアキお兄ちゃんを家から追い出したのよ! あんたがバカで何もできない無能な人間だったから! 比べられるって、あんたが努力しなかったからでしょ!? あんたに全部責任があったのに、何も悪くないお兄ちゃんが出て行っちゃって……あたし、好きだとも言えなかったんだよ!? お兄ちゃん、中学校に入ってから、あたしが遊びに来ても相手にしてくれなくなったし……きっとそれもあんたのせいよ! あたしがあんたとお兄ちゃんを比較すると思って気をつかって……」
私のことがきっかけでお兄ちゃんが家を出たのは確かだから言い返すことはできない。でも、だからといって今までずっと仲良くしていた雫を殺すことなんてできない。手にはアイスピックを持つが、これは護身用だ。雫のナイフをかわすだけ。そう心に決める。
「それだけじゃない……」
「え?」
「あんた、お兄ちゃんだけじゃないでしょ? あたしが好きになったり気になった男子に先に告白して……あたしに『カレシだ』って言った後、すぐに捨ててた! 嫌がらせして、あたしの青春を奪わないでっ!! あたしはあたしのために、あんたを殺す!」
「はい、残念。でもアンタの武器はそれだよ、ミフユ」
キャットはにやっと笑うと、雫の前に箱を置いた。
「アンタも使うのは慎重にね? 6回しか使えないから」
出てきたのは拳銃だ。雫はそれを手に取り、弾を入れる。すると、キャットに向かって一発撃った。
「……ひゅ~っ、あっぶない。6回しか使えないっつってんのに、なんでボクらに使うかなぁ?」
キャットは瑞希さんの持っていたカバンに身を隠して、何とか弾を避けたようだった。雫はそのあと、連続して5回、キャットと瑞希さんに向かって撃ちこんだ。瑞希さんの身のこなしで、キャットは全弾避けきる。
「バカな真似をよしなさい。あなたの武器はもう使えないのよ」
メガネを直しながら瑞希さんは注意する。カバンの中に入っていたのは、分厚い防弾チョッキのようなものだった。
それをゴトンと床に落とすと、キャットとともに客席に座る。キャットはパソコンのカメラを向けて、撮影開始のボタンを押したようだ。赤く光っているので気づく。
「さあ、アンダーベースの夏スペシャル企画! 最後に生き残るのはどちらか~っ!」
まるでバラエティ番組みたいなノリだ。だけど雫の武器は拳銃だった。もう弾もない。それなら私が彼女を殺す理由なんてない。
「私は雫を殺しません! だって武器もないし、私たちは親友……」
「だからその親友っていうの、やめてくれない? 反吐が出る」
雫の手元に光るものが見えた。あれは……蓮史郎くんのペーパーナイフ?
「あいつを殺した理由のひとつは、このナイフを手に入れるため。あの剣は重いし、使いにくい。ナイフなら、もし蓮史郎くんを殺したことで研修が終了しても、そのあとであんたを殺せると思ったからね」
「……雫がお兄ちゃんのことを好きだったなんて、初めて知った。でもなんで? 私が何を……」
「それよ! いつもなんで、なんでって! 少しは自分の頭で考えたらどうなの!? ヒロアキお兄ちゃんはすごく勉強ができて、見たものもすべて覚えていて、私に色々教えてくれた。それに優しくて大好きだったのに……あんたがお兄ちゃんが高校に入学する前、『一緒にいると比較されるから』って家から追い出したんじゃない!」
「あっ……」
松山ヒロアキ。私のお兄ちゃんは小学生の頃は普通よりちょっと頭がいいくらいだったのだが、中学に入ってぐんと成績が伸びた。運動はあまり得意ではなかったけど、いわゆる『超記憶力』というやつだろうか。見たものをすべて瞬間的に覚えてしまう力があった。
それのおかげで中学では『天才』と言われる反面、いじめの対象になっていた。それは私も同じ。お兄ちゃんが圧倒的な天才。
私はというと、本当に普通。勉強の才能もない。努力をしても報われない。運動もできないし、芸術面に秀でていたわけでもない。いたって平凡な小学生だった。そのせいで主に大人から比べられることが多かった。
『お兄ちゃんは優秀なのに、妹さんはねぇ……』って。お兄ちゃんはその能力を使い、全国1位の偏差値の高校を受験した。そのせいでひとり暮らしを始めることになり、私たちはバラバラになった。
「あんたがヒロアキお兄ちゃんを家から追い出したのよ! あんたがバカで何もできない無能な人間だったから! 比べられるって、あんたが努力しなかったからでしょ!? あんたに全部責任があったのに、何も悪くないお兄ちゃんが出て行っちゃって……あたし、好きだとも言えなかったんだよ!? お兄ちゃん、中学校に入ってから、あたしが遊びに来ても相手にしてくれなくなったし……きっとそれもあんたのせいよ! あたしがあんたとお兄ちゃんを比較すると思って気をつかって……」
私のことがきっかけでお兄ちゃんが家を出たのは確かだから言い返すことはできない。でも、だからといって今までずっと仲良くしていた雫を殺すことなんてできない。手にはアイスピックを持つが、これは護身用だ。雫のナイフをかわすだけ。そう心に決める。
「それだけじゃない……」
「え?」
「あんた、お兄ちゃんだけじゃないでしょ? あたしが好きになったり気になった男子に先に告白して……あたしに『カレシだ』って言った後、すぐに捨ててた! 嫌がらせして、あたしの青春を奪わないでっ!! あたしはあたしのために、あんたを殺す!」