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文字数 1,943文字

『そ。キャット、本当にまともな人間生活送ってないじゃん? ふたりのせいで。だから、そんな悪い世界……GWLは滅びてしまえばいいって思ったんだ! キャットも一緒に楽にしてあげようってね』

 こいつ……なんでそんなにボクに関わってくるの? 

「ボクが過労死しようがどうしようが関係ないじゃん!」
『キャット、お前は私のことを裏切った。だから、ここで死んでもらう』

 Luvが急に怖くなった。今まではかわいい女の子の姿をしていたのに、今は白目をむいて、真っ青な顔のホログラムがスマホから浮き出ている。だけど、それもコロっと変化する。

『でも~、今私、GWLに来てるんだよね。私のことを探し出してくれたら、この【魔法】を解いてあげてもいいよ! できるものならね? ゲストに命を狙われながら、私を探すことができるかなぁ?』

「くっ……」

 ボクは下唇を噛む。

『どうするかはお前ら次第だけどね! じゃ、私は一度接続を切るから! まったね~♡』

 ブォン。
 ARが消えた。

「Luvを見つけるって、多分Luvの本体っていうか中身を、だよな? 中身も何も、何にもヒントなんてないじゃん!」

「伊藤、落ち着いて。でもユウキさんとヒロアキさんへの連絡はできないってことか……」

 ふたりが難しい顔をするけど、ボクは冷静を装いつつもパニックだった。Luvは、ボクのことを知ってる? 恨みがある人間? そんなのたくさんいるに決まってる! その中で、ボクよりハッキング技術に長けている人間……。

「あの、ちょっといいかな」
「リズ、何。アンタはここで死ぬ予定だったんだよ。予想外の展開で、それも延期になりそうだけど」
 
 リズに当たっても何もならないのに……。ボクはそっけなく言うと、パソコンでユウキサンたちに連絡が取れないか試そうとする。

 それでもリズは続けた。

「さっき、外で変な音してなかった?」
「変な音?」
「なんか、『ラ』の音がずっとしてたような……」
「リズさん、何か気づいたことがあるんでしょう? 言ってください」
「…………」

 心の読めるツクモが促すと、リズは重い口を開いた。

「洗脳音波だと思う」
「洗脳……音波?」

 ボクはパソコンのキーをタッチする手を止めた。

「何か心当たりでもあるのか? キャット」
「……うん」

 GWLではカラス除けのために、微弱な音波を流している。もしこれがハッキングされて、洗脳音波が流れていたとしたら?

「でも、GWLではBGMが軽くかかってる。それが夢と幻に没頭させられるようになって……」
「さっき外に出た時は特殊な音楽が流れてたよ。440Hzの曲」
「440Hz?」

 リズがはっきりと断言する。

 ボクは急いでGWLの自動BGMにアクセスする。

「!! いつも流しているリストの曲じゃない……。この曲、GWLのBGMリストに入ってないのだ」
「どういうこと? キャット」
「つまり……Luvがハッキングして、洗脳音波である440Hzの曲を流したってことだよ」

 くっ、してやられた! まさか音波ハックされるだなんて! でも、こんなことができる人間って誰だ? 

「そうだ! ツクモ、さっきのLuvのホログラムから、心って読めなかった?」
「それが……声も合成音声で。さらにブロッキングシステムまで使っていた」
「うそ! あんなにリアルでなめらかだったのに!?」
「……伊藤が驚かないでよ」

 合成音声はともかく、ブロッキングシステムか……。ん? ブロッキングシステム?

「っ…………あぁぁぁ!!!!」

「ど、どうしたの!? キャット」
「いきなり大声を出さないでくださいよ」

 い・た。ひとりだけ。ボクが恨みを買っているやつ。でも、どうしよう……。ツクモとカナメの前で、このことを言うのはちょっと……。何せブロッキングシステムは、『ボクが組んだものじゃない』からだ。相手がアイツだとしたら、かーなーり面倒くさい。

「もしかして、キャットさん、心当たりあります?」

 ツクモがいつもと同じ死んだような黒い目で、ボクを見つめる。心は読まれないけど、嘘はつけない。

「ある。けど、相手の顔は知らないんだ……」
「それってネットの友達とか、そういう類ですか?」
「うん……ま、そんなところ」
「だったら早く特定したらいいんじゃない? 相手は多分、キャットと鬼ごっこしたいんでしょ?」
「……鬼ごっこ?」
「うん、鬼ごっこ」

 カナメの言葉に、ボクはびっくりした。アイツがボクと鬼ごっこしたいって? あー!! そう考えると全部辻褄が行くっ!!
 『アイツ』はボクと遊びたかったんだ。遊ぶって言っても、本気で殺そうとしていること自体が相変わらずっ……!! 相手は何といってもボクよりも天才でクレイジーなやつ。

Luvなんて名前を使っていたけど、あの『レフ』なんだからっ!!
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