7
文字数 1,709文字
「………」
浄見さんはカーテンを戻してキャンドルをしまうと、さっそく食事の準備を始める。それをオレのうしろからじっとありあが見つめている。
「ん? どーした、ありあ」
「あ、あの……こ、寿ちゃん。わたし……わたし……」
ありあの様子がおかしい。視線の先には浄見さん。テーブルに箸置きを並べている彼女がこちらをちらっと見ると、ぱっと隠れる。
「こーら、ありあ。もしかして浄見さんに隠れて悪いことでもしてたの? テストの点が悪かったとか。ダメだよ、お母さんに隠しごとは」
「ち、違うの……あの人は……あの人は……」
『わたしのお母さんじゃないの』
「え?」
ありあの言葉に、オレは耳を疑った。
それでもありあはできるだけ平静を装いつつ、テーブルにつく。だけど食欲がどうしてもないのか、ほとんど手をつけていない。
「ありあ、どうかしたの?」
浄見さんが声をかけると、びくりとして手を動かす。
「お、おいしいよ。お母さん」
「そう、ならよかったわ」
浄見さんが本当の母親じゃない? だったらどういう関係なんだ。それにありあの怯えようも気になる。食べ終えるとオレは、ありあを連れて正月の部屋を訪れた。
「……ありあ、どういうことなんだ? 浄見さんが本当のお母さんじゃないって」
オレとありあはベッドの上、正月はイスに座ると兄妹だけの会議が始まる。ありあはオレの服の裾をずっと握っている。何にそんな怯えているんだ?
「ここはオレと正月しかいないから」
「……寿ちゃん、正月ちゃん。わたしを守ってくれる?」
かわいい妹の言うことだ。当然守るに決まっている。強くうなずくと、ちいさな声で話し始めた。
「さっきの催眠術で……わたしにかけられていた術も解けたんだと思う」
「まさか、浄見さんに術をかけられてたのか?」
「……うん。ずっと昔に」
ありあは正月の質問に素直に答える。
「わたしは昔、本当のお母さんを殺されたの。ある組織に。浄見さんはそこの組織の人……わたしはそこの組織で、人を……殺してたの。催眠をかけられて子どもの戦闘員として。すごくかかりやすくって、術をかけれればかけるほど強くなるって」
「なっ……!」
こんなかわいいありあが、人を殺していたなんてあり得ない。正月も同じ思いらしく、オレたち双子はありあに強く確認する。
「夢、とかじゃないのか? 記憶が混乱しているとか」
「そ、そうだよ! ありあが人を殺すわけが……」
「……小さな子どもが、人を殺すなんて誰も想像がつかない。だから相手を油断させて……仕留める。これがわたしのやり方だったんだよ……」
こんなの、小学生が話す内容じゃない。嘘だ……嘘だ!
「じゃあ、どうして浄見さんは、ありあを連れてうちにいるんだ?」
できるだけ冷静に、正月がありあに問いかける。するとありあはオレの顔を見上げた。
「……寿ちゃんが狙いだと思う」
「オレが何の?」
「催眠術の後継者……」
「!」
だからオレに術を教えたのか? でも、なんでオレ?
「ともかく父さんに連絡を取ってみよう」
正月はスマホを取り出すと、父さんの番号にかけてみる。――が。
『この電話番号は、現在使われておりません』
「え? ちょ、ちょっと待て。どういうことだ! なんで父さんにつながらない!?」
「そう言えば……オレたち、ずっと父さんと話していない。浄見さんが来たときも、彼女から全部話を聞いて……あとは彼女宛に来た父さんからのメールで説明されて……」
今まで気にも留めていなかったこと、当たり前だと思っていたことが『間違い』だと気づく。父さんとの再婚も嘘。ありあとも親子じゃない。浄見さんはオレに近づくために来た。
「ありあ、その組織ってどういうものなんだ?」
「わたしもあんまり覚えてない……」
「だけど、どーすんだよ! こんなこと知ったら、もう浄見さんと一緒に住めないだろ!」
オレが頭を抱えていると、正月がぼそっとつぶやいた。
「今夜家を出る。ふたりとも、荷物をまとめておけ」
「正月、行く宛なんてあるのかよ」
「あるだろ、1ヶ所だけ」
……そうだ。1ヶ所だけ、オレたちには逃げ場所がある。オレとありあは急いで部屋へ戻ると、リュックサックやスポーツバッグに荷物を詰めた。
浄見さんはカーテンを戻してキャンドルをしまうと、さっそく食事の準備を始める。それをオレのうしろからじっとありあが見つめている。
「ん? どーした、ありあ」
「あ、あの……こ、寿ちゃん。わたし……わたし……」
ありあの様子がおかしい。視線の先には浄見さん。テーブルに箸置きを並べている彼女がこちらをちらっと見ると、ぱっと隠れる。
「こーら、ありあ。もしかして浄見さんに隠れて悪いことでもしてたの? テストの点が悪かったとか。ダメだよ、お母さんに隠しごとは」
「ち、違うの……あの人は……あの人は……」
『わたしのお母さんじゃないの』
「え?」
ありあの言葉に、オレは耳を疑った。
それでもありあはできるだけ平静を装いつつ、テーブルにつく。だけど食欲がどうしてもないのか、ほとんど手をつけていない。
「ありあ、どうかしたの?」
浄見さんが声をかけると、びくりとして手を動かす。
「お、おいしいよ。お母さん」
「そう、ならよかったわ」
浄見さんが本当の母親じゃない? だったらどういう関係なんだ。それにありあの怯えようも気になる。食べ終えるとオレは、ありあを連れて正月の部屋を訪れた。
「……ありあ、どういうことなんだ? 浄見さんが本当のお母さんじゃないって」
オレとありあはベッドの上、正月はイスに座ると兄妹だけの会議が始まる。ありあはオレの服の裾をずっと握っている。何にそんな怯えているんだ?
「ここはオレと正月しかいないから」
「……寿ちゃん、正月ちゃん。わたしを守ってくれる?」
かわいい妹の言うことだ。当然守るに決まっている。強くうなずくと、ちいさな声で話し始めた。
「さっきの催眠術で……わたしにかけられていた術も解けたんだと思う」
「まさか、浄見さんに術をかけられてたのか?」
「……うん。ずっと昔に」
ありあは正月の質問に素直に答える。
「わたしは昔、本当のお母さんを殺されたの。ある組織に。浄見さんはそこの組織の人……わたしはそこの組織で、人を……殺してたの。催眠をかけられて子どもの戦闘員として。すごくかかりやすくって、術をかけれればかけるほど強くなるって」
「なっ……!」
こんなかわいいありあが、人を殺していたなんてあり得ない。正月も同じ思いらしく、オレたち双子はありあに強く確認する。
「夢、とかじゃないのか? 記憶が混乱しているとか」
「そ、そうだよ! ありあが人を殺すわけが……」
「……小さな子どもが、人を殺すなんて誰も想像がつかない。だから相手を油断させて……仕留める。これがわたしのやり方だったんだよ……」
こんなの、小学生が話す内容じゃない。嘘だ……嘘だ!
「じゃあ、どうして浄見さんは、ありあを連れてうちにいるんだ?」
できるだけ冷静に、正月がありあに問いかける。するとありあはオレの顔を見上げた。
「……寿ちゃんが狙いだと思う」
「オレが何の?」
「催眠術の後継者……」
「!」
だからオレに術を教えたのか? でも、なんでオレ?
「ともかく父さんに連絡を取ってみよう」
正月はスマホを取り出すと、父さんの番号にかけてみる。――が。
『この電話番号は、現在使われておりません』
「え? ちょ、ちょっと待て。どういうことだ! なんで父さんにつながらない!?」
「そう言えば……オレたち、ずっと父さんと話していない。浄見さんが来たときも、彼女から全部話を聞いて……あとは彼女宛に来た父さんからのメールで説明されて……」
今まで気にも留めていなかったこと、当たり前だと思っていたことが『間違い』だと気づく。父さんとの再婚も嘘。ありあとも親子じゃない。浄見さんはオレに近づくために来た。
「ありあ、その組織ってどういうものなんだ?」
「わたしもあんまり覚えてない……」
「だけど、どーすんだよ! こんなこと知ったら、もう浄見さんと一緒に住めないだろ!」
オレが頭を抱えていると、正月がぼそっとつぶやいた。
「今夜家を出る。ふたりとも、荷物をまとめておけ」
「正月、行く宛なんてあるのかよ」
「あるだろ、1ヶ所だけ」
……そうだ。1ヶ所だけ、オレたちには逃げ場所がある。オレとありあは急いで部屋へ戻ると、リュックサックやスポーツバッグに荷物を詰めた。