2-7

文字数 1,423文字

「……本当にここでいいんだろうな?」
「うん、間違いじゃないはずだけど」

 駆さんとシュウヘイさんが辺りを見回す。その昔、ここには『カブキ・アクション』というアトラクションがあった。しかしグローバルワンダーランドのコンセプトとそのアトラクションは大きく異なっていた。そこだけ異空間みたいだったと郁乃さんは言う。

 なんでも名前通り歌舞伎をモチーフにしたものだったが、使われていた人形は古く、髪はぼさぼさ。まるでお化け屋敷のようだったらしい。

 カブキ・アクションの出口は鍵が開いていて、そこからアトラクション内部に入れるようになっていた。

 扉を開けて中に入ると、赤いランプが点灯していて不気味だった。しかも埃っぽいのと錆び臭いにおいが鼻をつく。炎天下に比べたら、ぞくっとするくらい寒いのも怖い。

「気味悪いね」
「早く帰りたいなぁ……」

 私と雫はついぼやいた。ショップ希望だったのにアクターなんて無理だし、辞退するしかない。それにこんな真っ暗な場所に集合して何をするのかもわからない。

 だけど郁乃さんと蓮史郎くんは楽しそうにしていた。

「カブキ・アクションの裏側を見られるなんて……!」

「へぇ~、アトラクションの裏側ってこういう風になってんのか。フツーにゲストとして来てたらわかんねぇよな~」

「これだからオタク郁乃とチャラ男は! あ~やだ! あかりはこんな暗い場所にいたくない!   研修の最後にダンスのレッスンでもする気なの? だったら大きな鏡がある場所じゃないと!」

 あかりさんはスイートチョコレートのポップコーンを食べながら、ぷんすかしている。

 しばらく暗い中で待っていると、パソコンのチャットが突然切れた。
 それと同時にコツンコツンと足音が聞こえる。みんな自然と無言になる。

 もしかして、Ms.EPIC? 待っていると、ミライゾーンのガイドのコスチュームを着た、男性と女性がこちらに来た。

「お待たせしました! 研修の最後は、みなさんにショーを見学してもらいます!」

 ショーの見学? それだったら他のゲストと一緒に観ればいいんじゃ……。私が怪訝な顔をしているのに気づいたらしく、ガイドの男性は笑顔で付け加えた。

「もちろん、みなさんはアクター候補なので、普通の客席から観てもらうわけじゃありません。バックステージの見学です!」

「ふうん、それだったらあかりも気になるわ。あの大人数が出演しているステージで、裏方の導線はどうなっているか不思議だったし。ね? 郁乃」

 ずっと怒っていたあかりさんも、さすがにダンサーとして興味を示したらしい。郁乃さんもうなずく。蓮史郎くんもだ。

 蓮史郎くんからパソコンを受けとると、ガイドさんはまたチャットのウインドウを開く。

「Ms.EPIC、全員います。確認OKです!」

 一度切れたチャットが、再度つながりMs.EPICが映し出される。

『みんな、おつおっつー! 今日はお疲れちゃん! それで、これからショーを観てもらうんだけど、その前に……今日、一番活躍したのは誰だと思う? その人にゲストとしてちょこっとステージに出てもらおうと思うんだよねぇ』

「えっ! 聞いてないわよ!」

 あかりさんが取り乱す。この人、プライド高そうだもんな……。それにかなりダンサーとして自信もあるから、最初からアクター希望だったんだし。ゲストとはいえステージに出られるなら、きっともっとみんなに愛想もよくしていたかも。

 だって、今日一番活躍したのは――。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み