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文字数 1,283文字

 学校の就活相談センターはにはぼちぼち人がいた。伊藤みたいに就活を考えている学生もいるんだ。僕と同い年くらいの人間は、みんな動いている。夢や希望に向かって。それなのに僕は……。

 伊藤と僕は一台のパソコンの前に座った。

「これに希望する勤務地とか年収、職種、業種を打ち込むんだな?」

「伊藤は忍術を使って、どんな仕事をしたいの? 『尊敬する主君』なんて項目はないから、そういう基準で会社は選べないよ」

「だよなぁ」
「ご家族は何をやってるの?」

 ちょっと踏み込んだ話だとは思ったが、単純に気になった。僕は仕事をするならば、親のコネを受け継ぐだろう。うちの父もそうだったから、選択肢はあるようでない。でも伊藤の家系は好きな仕事を選べる立場にある。そんな人間たちが今までどんな仕事を選んできたのかは知りたい。好奇心だ。

「親父は国家公務員だよ。SPやってる。叔母は大企業の秘書って聞いてるよ」
「へぇ……」

 忍者は公務員という道があるのか。だったら僕も警察官とかになれるだろうか? いや、そこまでの正義漢ではないかな。

「あっ、ここから職種は選べる。えーっと、レジャー系っと」
「え!? レジャー!?」
「うん」

 き、聞いてないぞ。いや、聞くも聞かないも今日出会ったばかりの人間だから、知らないことのほうが多いかもしれないけど……。

「尊敬する主君がどうとかって話は?」
「レジャー業界でそういう人を探したい。主君と行きたい業界は違う」
「そりゃそうかもしれないけどさ」

 案外地に足をつけた就活を考えてたんだな。伊藤の意外な一面に驚く。しかし、レジャーか。山籠もりしているって言ってたから、もしかしたらそういう業界が向いているのかもしれないな。しかし、そこの業界に忍者が必要かどうかは謎だけど。

「……ふーん、施設運営かぁ。東都ドームとか楽しそう。野球見られる」
「そういう基準で選んでるの?」
「いや? ……あっ!」

 突然声をあげたのでびくりとする。
 伊藤は画面に表示されたある会社の名前を指さした。

「EPIC社! ここ、叔母が秘書やってる会社だ」
「EPIC……? ああ、グローバルワンダーランドの運営会社か」

 グローバルワンダーランド。日本最大級のテーマパークだ。

「いいよなぁ。叔母さん、グローバルワンダーランド行き放題じゃん? オレもここで働きたいかも」

「だったら、エントリーしてみたら?」
「オレ、グローバルワンダーランド行ったことないんだよ。……バカにすんなよ?」
「しないよ。僕も行ったことない。いつも混んでるイメージだから」
「ふうん……だったらさ、放課後行ってみない? 区内に出てきてるんだから!」
「えっ……」

 こいつとグローバルワンダーランドかぁ……。行ったことがないので、行ってみたいという気持ちは少しある。それに、都内に出てきているなんて珍しいし、どうせ観光する予定なんてなかった。

 伊藤は悪いやつじゃなさそうだ。……一緒に行ってみてもいいかな。

 伊藤の言う通り、人生は死ぬまでの暇潰しだ。だったら毎日眠っている時間を、ちょこっと割くくらい悪くない。僕の時間は死ぬほど余ってるんだから。
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