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文字数 7,734文字
そして迎えた7月31日――。
天気は腹立たしいほどの晴天。なんで腹立たしいのかというと、純粋に暑いからだ。それに湿気も。すぐ体調が悪くなる僕にとっては、この夏の晴天も地獄だ。
昔……小学生のときだっただろうか。友達と初めて子どもたちだけで、ここグローバルワンダーランドに来たことがあった。だが、水分をきちんと取らずに遊びほうけていた僕は、途中熱中症で倒れた。
そして、あの『都市伝説』とも言われる場所を通って、近くの病院へ救急搬送されたんだ。あのときは暑さでもうろうとしていたから記憶はないが……祖父と父親にやたら怒られたっけなぁ。普通は母親が怒りそうなものだけど。でも、それだけ子ども時代の僕は、じいちゃんや父さんに心配してもらっていたってこと。さすがに祖父とも父とも疎遠になった今ではいい思い出だ。
でも、大人になった僕は、もう同じ過ちはおかさない。ちゃんと1リットルのスポーツドリンクをリュックに入れてきている。これは点滴を背負っているようなもの。ヤバいと思ったら、即飲み物を補給することができる。
時間は9時。開園して、ゲートが開く。僕はというと、岡さんが来るのを待っていた。僕らには特別パスがあるから、券売所で1Dayパスポートを買う必要はない。11時までに、新しいアトラクションの前に集合すればいいだけだ。
9時を15分すぎた頃、ようやく岡さんが来た。
「待たせたか?」
「いえ。大丈夫ですよ、時間はたくさんありますし」
「じゃ、行くか」
僕らは足早にゲートをくぐりアトラクションへ向かう子どもや学生を眺めながら、ゆったりと園内に入った。
「例のアトラクションはドリームゾーンにあるんだよな」
「その前にご飯食べたほうがいいですかね? 岡さん、朝食は?」
首を左右に振る岡さん。僕も朝ご飯は食べていない。だったらどこかレストランに入るか、屋台で何か買って食べるか……。地図を見ると、新しいアトラクションの隣には大きなレストランがある。
「岡さん、ここならバイキングみたいですから、色々食べられそうですよ」
「そこにするか」
僕たちはただ、お腹を満たすためにレストランに入った。それだけだったんだけど……。
「あの人たち、もしかして……」
「うそっ! あ~、でも気になるっ!」
「きゃーっ!!」
「……女子高生が騒がしいな、ここは」
「は、はぁ……」
失敗した、と心の奥底から思った。僕らは男ふたり。最初は全然気にしていなかったけど、田楽先輩が『やっぱり嫌だな』って言った意味がよぉ~くわかった。つまり、僕らはお友達ではなく、カップルに見えるってことだよね。僕は華奢なほうだし、岡さんはがっちりしているし男から見てもカッコイイ。無口なのは置いて。女子高生がいわゆる腐女子だった場合、僕らは格好のエサってわけだ……。
救いだったのは、岡さんが周りに無頓着で関心がないところだ。ふたりで意識し合ってたら、余計にマズいことになっていたかもしれない。でも、岡さんがマイペースなことで、僕も普段通りに振る舞うことができた。
食事が終わると、ちょうどいい時間だ。11時10分前。そろそろ僕ら以外にも特別パスを持っている人が集まる頃だ。田楽先輩が言うには、僕たち以外にも4人は来るとのことだった。
「4人……本当に来るのか?」
「わからないけど、来ると思うよ。上役で当たった人がいるなら、会長命令みたいなものだし。他にも興味半分で来る人もいるかもだし」
僕たちが工事中で青いシートがかかっている新アトラクションの前で待っていると、恰幅のいい女性が寄ってきた。
「君、社内便の!」
「あ、あの……あなたは?」
岡さんの代わりに僕がたずねると、女性は胸を張った。
「あたしは増住紅美子 。海外統括部部長よ」
「あ、あの増住さん!?」
僕は思わず飛び上がった。海外統括部の増住さんと言ったら、『鬼』、『悪魔』、『ドS』の3つの言葉が簡単にあがる人だ。そして強そうだと。違う部署だけど名字だけは有名だから知っていたけど、まさか女性だったなんて……。
「そういう君は?」
「す、すみません! 食品輸入営業部の岩代ですっ!」
「なんで謝るのよ……。あたし、そんなに怖い印象なのかしら?」
ふくよかで恰幅のいい……というとプラスだが、ぶっちゃけ彼女こそ『重戦車』という言葉がふさわしい。齢33にして、海外統括部部長のやり手だ。女性、しかも若年で部長というだけで、社内の噂になる。僕も様々な噂を聞いている。もちろんいい噂も、悪い噂も。
「……増住さんも当たったんですか」
「ええ! ……というか、ここは社内じゃないんだから、『クミコ』でいいわよ。岡くん。イワシロくんもね」
クミコさんは僕と岡さんにそう言う。厳しいとか、鬼とかめちゃくちゃ言われ放題だけど、この人、本当は悪い人じゃないんじゃ……? そんな気がしてしまうのは、やはり夢と希望と幻を見せるテーマパークだからだろうか。しかし、やっぱりクミコさんはクミコさん。部長だけある。
「まったく、月末の忙しい日にわざわざこんな用事を押しつけられるなんて。みんなはくじに当たった! なんて言うけど、あたしは仕事があるのに……。うちの会社なんて、土日祝日関係ないからね。海外とやり取りしてるから」
そうだよね。僕ら入社直後の平やアルバイトだったら休んでいられるけど、上役……部長レベルにもなったら休みなんてなくて当然だって聞く。クミコさんがここに来ているのは、やっぱり社長からパスポートをもらった……というか、押しつけられたんだろうな。
「でも、たまには息抜きも必要なんじゃないですか? ……って、僕みたいな下っ端がいう言葉じゃないですけど」
「そ~ぉ? 君に言われると少し気楽になれるわ。ありがと」
クミコさんに正直色気は感じられないけど、気前のいい陽気なおばちゃんといった雰囲気だ。僕がおどおどしながら言うと、にこぉ~っと笑ってくれた。こういう切り替えができるから、部長という役職につけたのかもしれない。
「ふふっ、ホント言うとね、年甲斐もなく、わくわくしちゃって……。最後にここへ来たの、何年振りかしら? すっかり30超えて、お嫁にも行きっぱぐれちゃったしねぇ……」
こう自虐するクミコさんに、鋭いひとことを投げかけたのが、コツコツとハイヒールを履いて歩いてきた、社内きっての美女だ。
「あーあ、わたしはこうなりたくないなぁ。早く素敵な人を見つけて、幸せな家庭を気付きたいもの~!」
「こずえさんじゃない! あなたもくじに当たったの?」
「わかりませぇ~ん。わたしはただ、社長に新しいアトラクションに興味がありまぁ~すって言っただけですもん」
「……相変わらずおねだり上手ね」
クミコさんがこずえさんをにらむ。こずえさん……高崎こずえは、社長秘書だ。社内一の美女とも呼ばれるが、彼女も悪評高い。地位のある人間だったら、誰とでも寝るとか。今も社長候補の社員を探して、そこそこの地位にいる男性と片っ端から関係を持っているらしい。
クミコさんとこずえさん。ふたりは対比的な関係だ。仕事一本でやってきたクミコさんと、男性の力をうまく利用してきたこずえさん。どっちがいいとか、すごいとかは僕にはわからないし、できることならどちらとも関わりたくない。ただ思うことは『女性って怖いな』ってことだ。
「どちらにも利用される男がバカってことだな」
「……そうですね」
呆れたようにつぶやいた岡さんの言葉に、僕は同調した。クミコさんは多分、うちの部署の女性たちにとって微妙な存在。自分たちより早く出世して、かっこいいと思う人もいるかもしれないが、『行き遅れ』でああはなりたくないとも言われる存在。そしてこずえさんは『男に媚びている嫌な女』だと取られている。どっちも両極端なのだ。きっと他の女性たちは、『どちらでもない自分』に安心しているのかもしれない。
「あら、あなたは確か……営業部のイワシロ……くんだっけ? なんであなたがここにいるの? 今日来るのは田楽さんじゃなかったかしら?」
「その田楽さんにパスポートを押しつけられたというか」
「ふうん。そ」
「……知り合いだったのか?」
「な~んかよく社内で見かけるから、名前覚えちゃったのよ。あの田楽さんとも一緒にいるし」
岡さんはそれで納得したようだ。それほど田楽さんの顔が広いということだから。田楽さんは平社員だが、それでも果敢にこずえさんにアタックしてたからなぁ……。彼女がいるのに。
「岡さん、あなたのこともよぉ~く知ってるわよぉ。年齢の割に渋くて落ち着きのある人が社内便担当だって! でも、アルバイトじゃ将来性がないからぁ~」
こずえさんも失礼この上ない。それに容赦ない。肉食女子すぎるだろう。会社内で狩りしてるなんて、恐ろしい。クミコさんは呆れて何も言えないような表情を浮かべている。
「クミコさんにこずえくんじゃないか。君たちもパスポートが当たったのか」
「石和 さんじゃないですか!」
クミコさんとこずえさんは、石和と呼ばれた30代半ばくらいの男性に軽くお辞儀する。ポロシャツにチノパンと清潔感ある格好の、かっこいい人だ。それに名前も聞き覚えがあるような……。
「岡くん、君も招待されたのか。ところでそっちの若い彼は?」
「えっと、食品輸入営業部のイワシロです」
「入社何年?」
「1年……です」
「そっかそっか。ま、今日はよろしくね」
僕の名前だけ聞いた石和さんは、自分の紹介なしだ。知っているという前提なのだとしたら、結構偉い人? 困ったように岡さんをちらりと見ると、耳打ちして教えてくれた。
「石和さんは海外事業部部長だ」
「や、やば……海外事業部って、やり手じゃないですか……しかも部長?」
海外統括部のクミコさんもだけど、海外事業部の石和さんもすごいな。どちらも若くして部長だなんて。そう言えば噂に聞いたな。つい最近までアメリカ支店にいた、凄腕社員がいるって。
そこで名前を聞いたんだ。だから覚えていたのかも。僕としたことが情けないな。いや、むしろ新人の僕らしいのか。でも、きちんと部長の名前くらいは覚えていないと、色んな人からどやされるからな。気をつけないと。
「でも、せっかくグローバルワンダーランドに来るんだったら、息子と妻も連れてきたかったなぁ。子連れだとさすがに大変だが、私ひとりで楽しむのももったいないだろう」
「ふふっ、相変らず家族思いでいらっしゃるのね」
「石和さんらしいわ!」
……平和だ。ひとり緩衝材になってくれる人がいるだけで、こうも平和になるのか。僕と岡さんだけだったら、クミコさんとこずえさんの空気が微妙だったけど、さすがに異性の部長クラスがいれば落ち着く。石和さんは既婚者みたいだし、こずえさんもその辺はさすがにわきまえているのか。
「さて、あと何人来るのかな。そろそろ時間のはずだが」
「あ、アノ……四菱商事のミナサンデスか?」
声をかけてきたのは、ストレートの金髪が美しい外国の方。四菱商事って、彼女も関係者か何かなのか?
「そうですけど……」
「あ、ソフィじゃない!」
こずえさんが声をあげる。社長秘書の彼女の知り合いということは……。
「Oh! コズエサン。よかったデス。ミナサン、ワタシ、ソフィア・ウッドといいマス。気軽に『ソフィ』と呼んでくだサイ」
「ソフィはフリーの通訳で、今社長や会長についてるのよ」
だからこずえさんとも顔見知りだったんだな。僕らも彼女に挨拶をする。それにしても、今日集まったのは、色んなところから声をかけられた人たちなんだな。こずえさんは社長におねだりしたって言ってたけど、部長に平社員に通訳、アルバイトまで。関連性が見えない。本当にくじ引きだったのか? だけどクミコさんは押しつけらたって……。
「あ、あの、みなさんはやっぱりくじに当選して?」
下っ端の僕が、恐る恐る聞くと、こずえさんが答えてくれた。
「一般社員にはそう言ってるけど、実際みんなが選ばれたのは、きちんとしたデータを取るためなのよ。役職も年齢も違うでしょ?」
こずえさんが言うには、新しいアトラクションが様々な人に喜んでもらえるよう、グローバルワンダーランドの年間パスポートをよく買うリッチターゲット層・30代女性、クミコさん、小さい子どもがいる家庭ありの男性の石和部長、海外からのお客の評判を聞くためにソフィ、20代中盤の、なかなか機会がないと来園しなさそうなフリーター男性層の岡さん、そしてパーティーピーポー&彼女あり、リア充上等な田楽さんと、様々な層の人間が選ばれたとのことだった。
ま、田楽さんの代わりにぼっちネクラ友達なし層の僕が来たのは計算外だったみたいだが。
そんな話を聞いていると、ひょっこりと黒いタキシードを着たひとりの青年が現れる。この衣装はグローバルワンダーランドの従業員か?
みんなが彼に注目すると、にこっと笑顔になって挨拶する。
「四菱商事のみなさん、ようこそグローバルワンダーランドへ! 本日みなさんを【ゴースト・ホーム】へ案内させていただきます、狩野と申します! ……と、名字で呼ばれるのは苦手なので、『せいくん』と呼んでくれると嬉しいです! よろしくお願いします!」
『せいくん』は大学生くらいだろうか? 僕より少し若くて、フレッシュな感じだ。それに自然にこぼれる笑み。彼もアルバイトなのだろうが、さすがグローバルワンダーランドだ。
明るく、いい意味でテンションが高い。ちなみに悪い意味でテンションが高いのは田楽さんだ、という話は置いておこう。
「やだ、かわいい~」
「こずえさん、若い子を取って食うなんて、ドラゴンキャッスルにいる悪い魔女じゃない。ふふっ」
「え~、魔女はクミコさんじゃないですか~? 見た目といい、若い女性に嫉妬するところといい」
……このふたりは本当に相性が悪すぎる。僕と岡さんがうんざりしていたところ、ソフィが不思議そうな顔をした。
「魔女? なんのコトですか?」
そうか。彼女は通訳といってもフリーだったな。この会社の内情はあまり知らないのか。それに海外だったらこんなドロドロした女性の人間関係もないのかもな。だけどソフィにクミコさんとこずえさんが言い合っている『魔女』が何かを説明する勇気がある猛者はいない。
しかし、そこでうまくまとめたのが石和さんだった。
「ほーら! ふたりとも、今日の私たちは特別ゲストなんだから! 会社が協賛したアトラクションを楽しまなくてどうするんだ。当てこすりは見苦しいよ」
さすが海外事業部部長。石和さんはクミコさんとこずえさんの肩をたたくと、笑顔を見せる。
「……そ、そうですわね」
「石和さんがそう言うなら」
「では、さっそくご案内します! こちらへどうぞ!」
僕らはせいくんに案内され、青いビニールシートで隠されたアトラクションの奧へと案内される。
最初は押しつけられただけだと思っていたが、夏の大混雑したテーマパークの中の裏側を見られるなんてチャンスだ。
少しだけドキドキしながら、僕は屋内のスロープを下っていった。
外はまだ工事中だったが、中はもうほぼ完成している。スロープを照らす、ロウソク型のライトに、不気味さを演出するフクロウの鳴き声。たまに聞こえる何か……多分コウモリか何かが羽ばたく音。さすがにめちゃくちゃ怖いお化け屋敷とまではいかないが、真夜中の雰囲気は出ている。
スロープを下り終えると、大きな赤い扉があった。せいくんはそこで一度足を止め、僕らのほうへ振り返った。
「ようこそ、ゴースト・ホームへ! これからみなさんには、5つの部屋の番人の出す『ゲーム』に参加していただきます」
「ゲーム?」
みんなが顔を見合わせる。せいくんは笑顔で続けた。
「大丈夫! ゲームをサポートする『相棒』をこれからみなさんにご紹介します! ネズミー、パンダー、ラクダー、モグラー、ウサギー、ゴリラー!」
せいくんが合図すると、扉の横にあるケースが開く。中にはグローバルワンダーランドのキャラクターのぬいぐるみが入っている。その先には腕輪?
「みなさん、好きな相棒を選んだら、きちんと腕にベルトをつけてください! 相棒が迷子になったら大変! 永遠にショーに出られなくなってしまいますからね」
せいくんの大げさな表現に、クミコさんと石和部長、こずえさんが笑う。ソフィは不思議そうにぬいぐるみを見ている。
「どうかしたんですか?」
「イエ、ワタシ、日本のグローバルワンダーランドはハジメテで。アメリカのグローバルワンダーランドとキャラクターはマッタク一緒なんですね」
そうなんだ。グローバルワンダーランドは世界各国にあるけど、どういう差があるとかはよく知らないんだよね。やっぱりソフィもこういうの好きなのかな。
僕らをよそに、他のみんなはさっそく相棒を選び始める。
「わたし、ウサギー! やっぱり女の子はウサギーよね!」
「あら、パンダーだってかわいいじゃない。私はパンダーにするわよ」
「岡さんは体格もいいから、ゴリラーじゃない? イワシロくんは小間使いだからネズミー!」
「………」
こずえさん、めちゃくちゃ僕らに失礼なんだけど……この人の暴言、誰か止めてくれないかな。ちょっとイラっとしたけど、そこで出てきてくれたのがやり手部長石和さんだった。
「はは、私は地味だからモグラーが一番似合うかもね」
「えぇ!? 石和さんのどこが地味なんですかぁ!?」
石和さんがそう自虐的なジョークをかましてくれたおかげで、少し救われた気がする。ソフィは最後に残ったラクダーに手を伸ばす。
「ソフィ、ラクダーでよかった? 私たちが先に選んでしまったけど」
「ええ、ラクダーもチャーミングなので好きデス」
笑顔でぬいぐるみを取ると、せいくんが教えてくれた方法で、みんな腕にベルトを巻く。
「ここから先の部屋では、番人がこの中のひとりに『あるモノを用意しろ』と指令を下します。制限時間は30分。指名された人は、チームのみなさんと協力して、『あるモノ』を用意してください!」
宝探しみたいなものなのかな。だけどチームワークが要求されるゲームか。僕はちょっと不安だった。クミコさんとこずえさんの仲は微妙だからなぁ。岡さんはともかく、僕なんか入社1年の新入りだし……。不安げにしている僕を見て、石和部長が先に釘を刺してくれた。
「これはみんなが協力しないとクリアできないみたいだからね。最後まで行かないと、社長にどんなアトラクションだったか報告できないし……ここは仲良くやろう!」
「そうデスね!」
石和部長の言葉にソフィが同意する。彼女も少しテンションが上がってきたみたいだ。グローバルワンダーランドのすごいところは、どんな人間でもまるで魔法がかかったみたいに上機嫌になるところだ。せいくんというキャストの腕ももちろんだけど、雰囲気ってやつかな。やっぱり現実離れしている場所のせいか、気分も乗ってくる。
「それでは少し怖くて愉快なお化けたちの家へ、Let’s GO!」
赤い扉がギギ……と音を立てて開く。それが地獄の窯のふただなんて、誰も気づかないまま――。
天気は腹立たしいほどの晴天。なんで腹立たしいのかというと、純粋に暑いからだ。それに湿気も。すぐ体調が悪くなる僕にとっては、この夏の晴天も地獄だ。
昔……小学生のときだっただろうか。友達と初めて子どもたちだけで、ここグローバルワンダーランドに来たことがあった。だが、水分をきちんと取らずに遊びほうけていた僕は、途中熱中症で倒れた。
そして、あの『都市伝説』とも言われる場所を通って、近くの病院へ救急搬送されたんだ。あのときは暑さでもうろうとしていたから記憶はないが……祖父と父親にやたら怒られたっけなぁ。普通は母親が怒りそうなものだけど。でも、それだけ子ども時代の僕は、じいちゃんや父さんに心配してもらっていたってこと。さすがに祖父とも父とも疎遠になった今ではいい思い出だ。
でも、大人になった僕は、もう同じ過ちはおかさない。ちゃんと1リットルのスポーツドリンクをリュックに入れてきている。これは点滴を背負っているようなもの。ヤバいと思ったら、即飲み物を補給することができる。
時間は9時。開園して、ゲートが開く。僕はというと、岡さんが来るのを待っていた。僕らには特別パスがあるから、券売所で1Dayパスポートを買う必要はない。11時までに、新しいアトラクションの前に集合すればいいだけだ。
9時を15分すぎた頃、ようやく岡さんが来た。
「待たせたか?」
「いえ。大丈夫ですよ、時間はたくさんありますし」
「じゃ、行くか」
僕らは足早にゲートをくぐりアトラクションへ向かう子どもや学生を眺めながら、ゆったりと園内に入った。
「例のアトラクションはドリームゾーンにあるんだよな」
「その前にご飯食べたほうがいいですかね? 岡さん、朝食は?」
首を左右に振る岡さん。僕も朝ご飯は食べていない。だったらどこかレストランに入るか、屋台で何か買って食べるか……。地図を見ると、新しいアトラクションの隣には大きなレストランがある。
「岡さん、ここならバイキングみたいですから、色々食べられそうですよ」
「そこにするか」
僕たちはただ、お腹を満たすためにレストランに入った。それだけだったんだけど……。
「あの人たち、もしかして……」
「うそっ! あ~、でも気になるっ!」
「きゃーっ!!」
「……女子高生が騒がしいな、ここは」
「は、はぁ……」
失敗した、と心の奥底から思った。僕らは男ふたり。最初は全然気にしていなかったけど、田楽先輩が『やっぱり嫌だな』って言った意味がよぉ~くわかった。つまり、僕らはお友達ではなく、カップルに見えるってことだよね。僕は華奢なほうだし、岡さんはがっちりしているし男から見てもカッコイイ。無口なのは置いて。女子高生がいわゆる腐女子だった場合、僕らは格好のエサってわけだ……。
救いだったのは、岡さんが周りに無頓着で関心がないところだ。ふたりで意識し合ってたら、余計にマズいことになっていたかもしれない。でも、岡さんがマイペースなことで、僕も普段通りに振る舞うことができた。
食事が終わると、ちょうどいい時間だ。11時10分前。そろそろ僕ら以外にも特別パスを持っている人が集まる頃だ。田楽先輩が言うには、僕たち以外にも4人は来るとのことだった。
「4人……本当に来るのか?」
「わからないけど、来ると思うよ。上役で当たった人がいるなら、会長命令みたいなものだし。他にも興味半分で来る人もいるかもだし」
僕たちが工事中で青いシートがかかっている新アトラクションの前で待っていると、恰幅のいい女性が寄ってきた。
「君、社内便の!」
「あ、あの……あなたは?」
岡さんの代わりに僕がたずねると、女性は胸を張った。
「あたしは
「あ、あの増住さん!?」
僕は思わず飛び上がった。海外統括部の増住さんと言ったら、『鬼』、『悪魔』、『ドS』の3つの言葉が簡単にあがる人だ。そして強そうだと。違う部署だけど名字だけは有名だから知っていたけど、まさか女性だったなんて……。
「そういう君は?」
「す、すみません! 食品輸入営業部の岩代ですっ!」
「なんで謝るのよ……。あたし、そんなに怖い印象なのかしら?」
ふくよかで恰幅のいい……というとプラスだが、ぶっちゃけ彼女こそ『重戦車』という言葉がふさわしい。齢33にして、海外統括部部長のやり手だ。女性、しかも若年で部長というだけで、社内の噂になる。僕も様々な噂を聞いている。もちろんいい噂も、悪い噂も。
「……増住さんも当たったんですか」
「ええ! ……というか、ここは社内じゃないんだから、『クミコ』でいいわよ。岡くん。イワシロくんもね」
クミコさんは僕と岡さんにそう言う。厳しいとか、鬼とかめちゃくちゃ言われ放題だけど、この人、本当は悪い人じゃないんじゃ……? そんな気がしてしまうのは、やはり夢と希望と幻を見せるテーマパークだからだろうか。しかし、やっぱりクミコさんはクミコさん。部長だけある。
「まったく、月末の忙しい日にわざわざこんな用事を押しつけられるなんて。みんなはくじに当たった! なんて言うけど、あたしは仕事があるのに……。うちの会社なんて、土日祝日関係ないからね。海外とやり取りしてるから」
そうだよね。僕ら入社直後の平やアルバイトだったら休んでいられるけど、上役……部長レベルにもなったら休みなんてなくて当然だって聞く。クミコさんがここに来ているのは、やっぱり社長からパスポートをもらった……というか、押しつけられたんだろうな。
「でも、たまには息抜きも必要なんじゃないですか? ……って、僕みたいな下っ端がいう言葉じゃないですけど」
「そ~ぉ? 君に言われると少し気楽になれるわ。ありがと」
クミコさんに正直色気は感じられないけど、気前のいい陽気なおばちゃんといった雰囲気だ。僕がおどおどしながら言うと、にこぉ~っと笑ってくれた。こういう切り替えができるから、部長という役職につけたのかもしれない。
「ふふっ、ホント言うとね、年甲斐もなく、わくわくしちゃって……。最後にここへ来たの、何年振りかしら? すっかり30超えて、お嫁にも行きっぱぐれちゃったしねぇ……」
こう自虐するクミコさんに、鋭いひとことを投げかけたのが、コツコツとハイヒールを履いて歩いてきた、社内きっての美女だ。
「あーあ、わたしはこうなりたくないなぁ。早く素敵な人を見つけて、幸せな家庭を気付きたいもの~!」
「こずえさんじゃない! あなたもくじに当たったの?」
「わかりませぇ~ん。わたしはただ、社長に新しいアトラクションに興味がありまぁ~すって言っただけですもん」
「……相変わらずおねだり上手ね」
クミコさんがこずえさんをにらむ。こずえさん……高崎こずえは、社長秘書だ。社内一の美女とも呼ばれるが、彼女も悪評高い。地位のある人間だったら、誰とでも寝るとか。今も社長候補の社員を探して、そこそこの地位にいる男性と片っ端から関係を持っているらしい。
クミコさんとこずえさん。ふたりは対比的な関係だ。仕事一本でやってきたクミコさんと、男性の力をうまく利用してきたこずえさん。どっちがいいとか、すごいとかは僕にはわからないし、できることならどちらとも関わりたくない。ただ思うことは『女性って怖いな』ってことだ。
「どちらにも利用される男がバカってことだな」
「……そうですね」
呆れたようにつぶやいた岡さんの言葉に、僕は同調した。クミコさんは多分、うちの部署の女性たちにとって微妙な存在。自分たちより早く出世して、かっこいいと思う人もいるかもしれないが、『行き遅れ』でああはなりたくないとも言われる存在。そしてこずえさんは『男に媚びている嫌な女』だと取られている。どっちも両極端なのだ。きっと他の女性たちは、『どちらでもない自分』に安心しているのかもしれない。
「あら、あなたは確か……営業部のイワシロ……くんだっけ? なんであなたがここにいるの? 今日来るのは田楽さんじゃなかったかしら?」
「その田楽さんにパスポートを押しつけられたというか」
「ふうん。そ」
「……知り合いだったのか?」
「な~んかよく社内で見かけるから、名前覚えちゃったのよ。あの田楽さんとも一緒にいるし」
岡さんはそれで納得したようだ。それほど田楽さんの顔が広いということだから。田楽さんは平社員だが、それでも果敢にこずえさんにアタックしてたからなぁ……。彼女がいるのに。
「岡さん、あなたのこともよぉ~く知ってるわよぉ。年齢の割に渋くて落ち着きのある人が社内便担当だって! でも、アルバイトじゃ将来性がないからぁ~」
こずえさんも失礼この上ない。それに容赦ない。肉食女子すぎるだろう。会社内で狩りしてるなんて、恐ろしい。クミコさんは呆れて何も言えないような表情を浮かべている。
「クミコさんにこずえくんじゃないか。君たちもパスポートが当たったのか」
「
クミコさんとこずえさんは、石和と呼ばれた30代半ばくらいの男性に軽くお辞儀する。ポロシャツにチノパンと清潔感ある格好の、かっこいい人だ。それに名前も聞き覚えがあるような……。
「岡くん、君も招待されたのか。ところでそっちの若い彼は?」
「えっと、食品輸入営業部のイワシロです」
「入社何年?」
「1年……です」
「そっかそっか。ま、今日はよろしくね」
僕の名前だけ聞いた石和さんは、自分の紹介なしだ。知っているという前提なのだとしたら、結構偉い人? 困ったように岡さんをちらりと見ると、耳打ちして教えてくれた。
「石和さんは海外事業部部長だ」
「や、やば……海外事業部って、やり手じゃないですか……しかも部長?」
海外統括部のクミコさんもだけど、海外事業部の石和さんもすごいな。どちらも若くして部長だなんて。そう言えば噂に聞いたな。つい最近までアメリカ支店にいた、凄腕社員がいるって。
そこで名前を聞いたんだ。だから覚えていたのかも。僕としたことが情けないな。いや、むしろ新人の僕らしいのか。でも、きちんと部長の名前くらいは覚えていないと、色んな人からどやされるからな。気をつけないと。
「でも、せっかくグローバルワンダーランドに来るんだったら、息子と妻も連れてきたかったなぁ。子連れだとさすがに大変だが、私ひとりで楽しむのももったいないだろう」
「ふふっ、相変らず家族思いでいらっしゃるのね」
「石和さんらしいわ!」
……平和だ。ひとり緩衝材になってくれる人がいるだけで、こうも平和になるのか。僕と岡さんだけだったら、クミコさんとこずえさんの空気が微妙だったけど、さすがに異性の部長クラスがいれば落ち着く。石和さんは既婚者みたいだし、こずえさんもその辺はさすがにわきまえているのか。
「さて、あと何人来るのかな。そろそろ時間のはずだが」
「あ、アノ……四菱商事のミナサンデスか?」
声をかけてきたのは、ストレートの金髪が美しい外国の方。四菱商事って、彼女も関係者か何かなのか?
「そうですけど……」
「あ、ソフィじゃない!」
こずえさんが声をあげる。社長秘書の彼女の知り合いということは……。
「Oh! コズエサン。よかったデス。ミナサン、ワタシ、ソフィア・ウッドといいマス。気軽に『ソフィ』と呼んでくだサイ」
「ソフィはフリーの通訳で、今社長や会長についてるのよ」
だからこずえさんとも顔見知りだったんだな。僕らも彼女に挨拶をする。それにしても、今日集まったのは、色んなところから声をかけられた人たちなんだな。こずえさんは社長におねだりしたって言ってたけど、部長に平社員に通訳、アルバイトまで。関連性が見えない。本当にくじ引きだったのか? だけどクミコさんは押しつけらたって……。
「あ、あの、みなさんはやっぱりくじに当選して?」
下っ端の僕が、恐る恐る聞くと、こずえさんが答えてくれた。
「一般社員にはそう言ってるけど、実際みんなが選ばれたのは、きちんとしたデータを取るためなのよ。役職も年齢も違うでしょ?」
こずえさんが言うには、新しいアトラクションが様々な人に喜んでもらえるよう、グローバルワンダーランドの年間パスポートをよく買うリッチターゲット層・30代女性、クミコさん、小さい子どもがいる家庭ありの男性の石和部長、海外からのお客の評判を聞くためにソフィ、20代中盤の、なかなか機会がないと来園しなさそうなフリーター男性層の岡さん、そしてパーティーピーポー&彼女あり、リア充上等な田楽さんと、様々な層の人間が選ばれたとのことだった。
ま、田楽さんの代わりにぼっちネクラ友達なし層の僕が来たのは計算外だったみたいだが。
そんな話を聞いていると、ひょっこりと黒いタキシードを着たひとりの青年が現れる。この衣装はグローバルワンダーランドの従業員か?
みんなが彼に注目すると、にこっと笑顔になって挨拶する。
「四菱商事のみなさん、ようこそグローバルワンダーランドへ! 本日みなさんを【ゴースト・ホーム】へ案内させていただきます、狩野と申します! ……と、名字で呼ばれるのは苦手なので、『せいくん』と呼んでくれると嬉しいです! よろしくお願いします!」
『せいくん』は大学生くらいだろうか? 僕より少し若くて、フレッシュな感じだ。それに自然にこぼれる笑み。彼もアルバイトなのだろうが、さすがグローバルワンダーランドだ。
明るく、いい意味でテンションが高い。ちなみに悪い意味でテンションが高いのは田楽さんだ、という話は置いておこう。
「やだ、かわいい~」
「こずえさん、若い子を取って食うなんて、ドラゴンキャッスルにいる悪い魔女じゃない。ふふっ」
「え~、魔女はクミコさんじゃないですか~? 見た目といい、若い女性に嫉妬するところといい」
……このふたりは本当に相性が悪すぎる。僕と岡さんがうんざりしていたところ、ソフィが不思議そうな顔をした。
「魔女? なんのコトですか?」
そうか。彼女は通訳といってもフリーだったな。この会社の内情はあまり知らないのか。それに海外だったらこんなドロドロした女性の人間関係もないのかもな。だけどソフィにクミコさんとこずえさんが言い合っている『魔女』が何かを説明する勇気がある猛者はいない。
しかし、そこでうまくまとめたのが石和さんだった。
「ほーら! ふたりとも、今日の私たちは特別ゲストなんだから! 会社が協賛したアトラクションを楽しまなくてどうするんだ。当てこすりは見苦しいよ」
さすが海外事業部部長。石和さんはクミコさんとこずえさんの肩をたたくと、笑顔を見せる。
「……そ、そうですわね」
「石和さんがそう言うなら」
「では、さっそくご案内します! こちらへどうぞ!」
僕らはせいくんに案内され、青いビニールシートで隠されたアトラクションの奧へと案内される。
最初は押しつけられただけだと思っていたが、夏の大混雑したテーマパークの中の裏側を見られるなんてチャンスだ。
少しだけドキドキしながら、僕は屋内のスロープを下っていった。
外はまだ工事中だったが、中はもうほぼ完成している。スロープを照らす、ロウソク型のライトに、不気味さを演出するフクロウの鳴き声。たまに聞こえる何か……多分コウモリか何かが羽ばたく音。さすがにめちゃくちゃ怖いお化け屋敷とまではいかないが、真夜中の雰囲気は出ている。
スロープを下り終えると、大きな赤い扉があった。せいくんはそこで一度足を止め、僕らのほうへ振り返った。
「ようこそ、ゴースト・ホームへ! これからみなさんには、5つの部屋の番人の出す『ゲーム』に参加していただきます」
「ゲーム?」
みんなが顔を見合わせる。せいくんは笑顔で続けた。
「大丈夫! ゲームをサポートする『相棒』をこれからみなさんにご紹介します! ネズミー、パンダー、ラクダー、モグラー、ウサギー、ゴリラー!」
せいくんが合図すると、扉の横にあるケースが開く。中にはグローバルワンダーランドのキャラクターのぬいぐるみが入っている。その先には腕輪?
「みなさん、好きな相棒を選んだら、きちんと腕にベルトをつけてください! 相棒が迷子になったら大変! 永遠にショーに出られなくなってしまいますからね」
せいくんの大げさな表現に、クミコさんと石和部長、こずえさんが笑う。ソフィは不思議そうにぬいぐるみを見ている。
「どうかしたんですか?」
「イエ、ワタシ、日本のグローバルワンダーランドはハジメテで。アメリカのグローバルワンダーランドとキャラクターはマッタク一緒なんですね」
そうなんだ。グローバルワンダーランドは世界各国にあるけど、どういう差があるとかはよく知らないんだよね。やっぱりソフィもこういうの好きなのかな。
僕らをよそに、他のみんなはさっそく相棒を選び始める。
「わたし、ウサギー! やっぱり女の子はウサギーよね!」
「あら、パンダーだってかわいいじゃない。私はパンダーにするわよ」
「岡さんは体格もいいから、ゴリラーじゃない? イワシロくんは小間使いだからネズミー!」
「………」
こずえさん、めちゃくちゃ僕らに失礼なんだけど……この人の暴言、誰か止めてくれないかな。ちょっとイラっとしたけど、そこで出てきてくれたのがやり手部長石和さんだった。
「はは、私は地味だからモグラーが一番似合うかもね」
「えぇ!? 石和さんのどこが地味なんですかぁ!?」
石和さんがそう自虐的なジョークをかましてくれたおかげで、少し救われた気がする。ソフィは最後に残ったラクダーに手を伸ばす。
「ソフィ、ラクダーでよかった? 私たちが先に選んでしまったけど」
「ええ、ラクダーもチャーミングなので好きデス」
笑顔でぬいぐるみを取ると、せいくんが教えてくれた方法で、みんな腕にベルトを巻く。
「ここから先の部屋では、番人がこの中のひとりに『あるモノを用意しろ』と指令を下します。制限時間は30分。指名された人は、チームのみなさんと協力して、『あるモノ』を用意してください!」
宝探しみたいなものなのかな。だけどチームワークが要求されるゲームか。僕はちょっと不安だった。クミコさんとこずえさんの仲は微妙だからなぁ。岡さんはともかく、僕なんか入社1年の新入りだし……。不安げにしている僕を見て、石和部長が先に釘を刺してくれた。
「これはみんなが協力しないとクリアできないみたいだからね。最後まで行かないと、社長にどんなアトラクションだったか報告できないし……ここは仲良くやろう!」
「そうデスね!」
石和部長の言葉にソフィが同意する。彼女も少しテンションが上がってきたみたいだ。グローバルワンダーランドのすごいところは、どんな人間でもまるで魔法がかかったみたいに上機嫌になるところだ。せいくんというキャストの腕ももちろんだけど、雰囲気ってやつかな。やっぱり現実離れしている場所のせいか、気分も乗ってくる。
「それでは少し怖くて愉快なお化けたちの家へ、Let’s GO!」
赤い扉がギギ……と音を立てて開く。それが地獄の窯のふただなんて、誰も気づかないまま――。