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文字数 929文字

 近くの提携ホテルに着くと、さっそく客室に案内される。そこには数種類の新作Tシャツと、カチューシャ、何種類かのジーンズが用意されていた。

「戸叶様、こちらでよろしいでしょうか」
「うん、ジョーデキ! 経費で落とすから、領収書はEPIC社で切っといて」
「かしこまりました」

 総支配人にそう告げると、ボクはホテルの客室で居心地悪そうにきょろきょろしているリズに言った。

「そのTシャツの中で、好きなの選んでいいよ。死に装束」
「死に装束にしてはポップでかわいいね」
「こういうのしかないからさ。ここの『世界』では」

 選ぶのに時間がかかるかなぁ? 死に装束って言われたら、さすがに……と思ったのに、リズは一瞬でハンガーにかかっていた1枚を手に取った。

「これでいい」
「え? 本当に選んだ?」
「選ぶも何も……どれ着ても死ぬんでしょう?」
「そりゃそうだけど……」
「選んだところで死ぬことは変わらないんだし。下はこのスキニーでサイズも大丈夫そう」

 うーん、あっさりしてるなぁ。自殺前の人間なんて、こんなもんなのかな? 今まで見てきた死に際の人間は、必死に命乞いしたり、死にたくても気が変わって動転したんだけどなぁ。
 よっぽど肝が据わっているか、死ぬ気が揺るがないってことか。
 こっちにとっては文句なしの生贄なんだけど、なんでこの子、そんなに死にたいんだろう?

 おっと、ここで生贄に感情移入しちゃったらいけないよね。好奇心にフタをしないと。

「リズ、遺影撮るよ~」
「遺影?」

 パシャッ。スマホのカメラで顔写真を撮ると、ボクはリズの個人情報を検索する。

 『泉理澄』……国籍は日本、フリーターか。ずいぶんブラックな労働環境にあったみたいだな。週6で6時~14時までコンビニで働いて、15時から19時までスーパー。22時から5時までコンビニ夜勤って。ボクと同じくらい過酷じゃん。そりゃあ過重労働で自殺も考えるなぁ。それで? 保証人だったコンビニオーナーが亡くなってるのか。

 まぁ、死にたい理由は大まかにはわかった。

 ボクも過労死寸前らしく、リズに来月には死ぬなんて言われてるから、正直他人事には思えないな……。でも、もうリズは船に乗ってしまったからね。ここから先は逃げられないよ。

 でも……。
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