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文字数 1,577文字
夏休みはあっという間に終わってしまった。
8月から私はほぼ毎日シフトに入っていた。こんなに忙しくなるとは思わなかったけど、きっと夏休みでアクター希望のアルバイトがたくさん来たんだ。
だけど、8月の土日はほとんど脇役。キャットが企画して私たちが初めての体験者になった『夏休みスペシャル・デスゲーム』が大ヒットで、1回だけネットで視聴できる1Dayネットパスポートは10万だというのに飛ぶように売れたらしい。
生で見ることができる限定20席のゴールド1Dayパスも500万なのにすぐSOLD OUT。この殺人ショーにハマった人も多くいて、1200万の年間ネットパスも売上絶好調だ。
『夏休みスペシャル・デスゲーム』は夏の間だけだったし、私は最初の殺人を行うだけだったのだが、こういうのはインパクトが大事だ。
私の武器はアイスピック。今夜も正確に眼窩から脳に向けて刺し、あのガラスのペーパーナイフでアクター希望者を痛めつける。最後に心臓をくりぬけば、ゲームスタートの合図。
私がそのホイッスルを鳴らす。あとは勝手に始めてくれる。私は最初の仕事が終わると、2階の人がいない客席から様子をうかがうのと、カメラのチェック。夏休み中に色々なグループを見てきた。
中には村田のように組織に追い出された人間や、シュウヘイさんの後輩が潜入捜査に来たりしていた。あかりさんたちみたいなダンススクールの生徒なんかも。
でも最後に残った人間は、そのあと自殺してしまったり、行方をくらましてしまったりすることもあった。残った人間もひとりは辞退して、今は精神科に入院しているとか。もうひとりだけ私の後輩が入ったけど、彼にはどことなく見覚えがあった。
「先輩、お疲れ様です。どうです? この夏最後のデスゲームは」
「私はただ、あの赤い色が見たかっただけだよ。あの赤を見るだけで、生きているって感じられる」
彼はくすっと笑って私の横のイスに座った。
「本当に趣味が悪いですね」
後輩のくせに毒舌なのは最初からだったから、もう慣れた。私の趣味が悪いっていうのなら、あなたはどうなのよ、って感じだ。しかしわかることはある。彼はきっとあの人と一緒だから……人を殺すのは習性でしかないということだ。
「……あの、聞いてもいい?」
「はい?」
後輩の男の子は私よりひとつ年下だ。私は彼がどうやってこのゲームを勝ち抜いたか知っている。最初は私がゲームをスタートさせたが、あとはどこかで見たような流れだった。連れだって来ていた男ふたりがケンカになり、死亡。友達同士の女子高生は片方だけ生き残った。女子高生と彼、狩野誠之助 くんが残り、狩野くんが勝った。
デジャヴだと思ったのは、彼だけひとりで来たところ。そして、確信を持ったのは、彼の持っていた武器だ。ダイヤモンドのペーパーナイフ。私が今使っているものと同じ、特注のモノ。緊張しながら私は、たずねた。
「狩野くんは、阿久野蓮史郎って人、知ってる?」
狩野くんは持っていたペーパーナイフを見せて、つぶやいた。
「オレの兄ですよ。異母兄弟だったんですけどね。仲はすごくよくて、兄貴のマネばっかしてたなぁ。このナイフも、兄貴が一緒に買ってくれたんです」
「……そうだったんだ」
「先輩のも、ですよね?」
隠してもしょうがない。私は彼に蓮史郎くんの遺品を見せる。
「よく血を吸ってますね。もう汚れが落ちないくらいじゃないですか」
「ごめん、きれいに使ってなくて」
「いえ! ただ……」
狩野くんは立ち上がって席から離れると、扉を開ける前に言った。
「いつか、アクター同士のデスゲームも、企画されるといいですね!」
アクター同士のデスゲーム。彼は私も殺したいと思ってるんだ。それは兄の敵だから? それともただ単に面白そうだから?
バタンと扉は閉まる。彼の口元が緩んでいたのが印象的だった。
8月から私はほぼ毎日シフトに入っていた。こんなに忙しくなるとは思わなかったけど、きっと夏休みでアクター希望のアルバイトがたくさん来たんだ。
だけど、8月の土日はほとんど脇役。キャットが企画して私たちが初めての体験者になった『夏休みスペシャル・デスゲーム』が大ヒットで、1回だけネットで視聴できる1Dayネットパスポートは10万だというのに飛ぶように売れたらしい。
生で見ることができる限定20席のゴールド1Dayパスも500万なのにすぐSOLD OUT。この殺人ショーにハマった人も多くいて、1200万の年間ネットパスも売上絶好調だ。
『夏休みスペシャル・デスゲーム』は夏の間だけだったし、私は最初の殺人を行うだけだったのだが、こういうのはインパクトが大事だ。
私の武器はアイスピック。今夜も正確に眼窩から脳に向けて刺し、あのガラスのペーパーナイフでアクター希望者を痛めつける。最後に心臓をくりぬけば、ゲームスタートの合図。
私がそのホイッスルを鳴らす。あとは勝手に始めてくれる。私は最初の仕事が終わると、2階の人がいない客席から様子をうかがうのと、カメラのチェック。夏休み中に色々なグループを見てきた。
中には村田のように組織に追い出された人間や、シュウヘイさんの後輩が潜入捜査に来たりしていた。あかりさんたちみたいなダンススクールの生徒なんかも。
でも最後に残った人間は、そのあと自殺してしまったり、行方をくらましてしまったりすることもあった。残った人間もひとりは辞退して、今は精神科に入院しているとか。もうひとりだけ私の後輩が入ったけど、彼にはどことなく見覚えがあった。
「先輩、お疲れ様です。どうです? この夏最後のデスゲームは」
「私はただ、あの赤い色が見たかっただけだよ。あの赤を見るだけで、生きているって感じられる」
彼はくすっと笑って私の横のイスに座った。
「本当に趣味が悪いですね」
後輩のくせに毒舌なのは最初からだったから、もう慣れた。私の趣味が悪いっていうのなら、あなたはどうなのよ、って感じだ。しかしわかることはある。彼はきっとあの人と一緒だから……人を殺すのは習性でしかないということだ。
「……あの、聞いてもいい?」
「はい?」
後輩の男の子は私よりひとつ年下だ。私は彼がどうやってこのゲームを勝ち抜いたか知っている。最初は私がゲームをスタートさせたが、あとはどこかで見たような流れだった。連れだって来ていた男ふたりがケンカになり、死亡。友達同士の女子高生は片方だけ生き残った。女子高生と彼、
デジャヴだと思ったのは、彼だけひとりで来たところ。そして、確信を持ったのは、彼の持っていた武器だ。ダイヤモンドのペーパーナイフ。私が今使っているものと同じ、特注のモノ。緊張しながら私は、たずねた。
「狩野くんは、阿久野蓮史郎って人、知ってる?」
狩野くんは持っていたペーパーナイフを見せて、つぶやいた。
「オレの兄ですよ。異母兄弟だったんですけどね。仲はすごくよくて、兄貴のマネばっかしてたなぁ。このナイフも、兄貴が一緒に買ってくれたんです」
「……そうだったんだ」
「先輩のも、ですよね?」
隠してもしょうがない。私は彼に蓮史郎くんの遺品を見せる。
「よく血を吸ってますね。もう汚れが落ちないくらいじゃないですか」
「ごめん、きれいに使ってなくて」
「いえ! ただ……」
狩野くんは立ち上がって席から離れると、扉を開ける前に言った。
「いつか、アクター同士のデスゲームも、企画されるといいですね!」
アクター同士のデスゲーム。彼は私も殺したいと思ってるんだ。それは兄の敵だから? それともただ単に面白そうだから?
バタンと扉は閉まる。彼の口元が緩んでいたのが印象的だった。