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文字数 1,649文字

「は?」
「それって……まさか」

りえかさんが青ざめる。

「ええ!? もしかして、私たちが決めるの!?」

ミホさんも焦っているのがわかる。

『うん、面接官はオレじゃない。ここにいるみんなってわけ。
いい考えだと思うんだけどなぁ? だって将来一緒に働ける人を選べるんだよ?』

「逆を言えば、自分が気に食わない相手を容赦なく切ることができる……か」

御堂が恐ろしいことを口走る。

「な、何言ってるんだよ。俺たちにそんな権限があるわけない。これは一種のテストだ」

だって、そうじゃなければ、確実に落ちるのは……。

「………」

さっきから無言でうつむいている、シナガワだ。

『テストじゃないよ? ここでひとり脱落させる。その【誰か】はキミたちに選ばせる。オレって民主的~☆ だってそうでしょ? 有名なエリート揃いのEPIC社に、愚者はいらない。違う?』

「くっ……」
「時間はないみたいね。どうするつもり?」

瑞希さんは画面を見たまま、俺にたずねる。

さっきまでミスターEPICが映っていたはずだが、今はカウントダウンが始まっている。
30:00。
残り時間、30分。
これが0になったら、全員不採用ってことになるのだろうか。
俺は誰かを……。

「……確かにミスターEPICの言う通りだ。悔しいけどな」
「松山くん……?」

シナガワがうろたえた様子で俺を見る。

……そんな目で見ないでくれ。
冷静な判断ができなくなる。

でも、よく考えろ。出会ってたった1日。そんな相手に情なんて持っていたら、こちらの精神が持たない。

だってそうだろう?
例えば、辛そうに立っていたお婆さんに電車で席を譲って……ずっとそのおばあさんがきちんと自分の駅で降りられたか、なんて考えているのと一緒だぞ?
俺に課せられたことは、『席を譲ってあげる』。そこまでだ。

シナガワについても同じだ。いや、シナガワの方がもっとわかりやすい動機があるじゃないか。
俺はシナガワのためにメンバーを集めたんじゃない。俺自身のためだ。
人助けをした? そうじゃない。
俺は、俺自身のために行動しただけ。
そこで偶然、シナガワを助けたというだけだ。

「多数決を取りましょう」

瑞希さんが提案する。だけどそんな提案、あってもなくても同じだ。
シナガワの志望動機……明らかにミスターEPICに嫌がられていた。
それに、他のみんなはたとえ弱くても自分の売りがあった。俺もそうだ。
だけどシナガワは……。

「多数決は必要ない。僕はシナガワを指名する。彼はこのEPIC社に、もっとも必要ではない人間だ」

「あたしもそう思うな~。面接にわざわざお邪魔させてもらった会社を、滑り止め扱いだなんて……ひどくない?」

ミホさんも御堂に同意する。

「俺もだ。本当にEPIC社へ入社したいんだったら、アグレッシブに行けよ!」

声を荒げる川勢田さん。キャットも「やる気スイッチ入ってない人はさよ~なら~」なんて、ハンカチを振っている。

「み、みんな……ひどいよ! ここまで一緒に頑張った仲間じゃ……」

泣きそうなシナガワを見て、俺は自分自身で引導を渡す決意をした。

「シナガワ。ここにいるのは仲間じゃない……全員敵だ。だが、その敵に認められなくては生きていけねぇ。お前はここで終わりだ」

「嘘……でしょ? 松山くんまで……」
「俺はお前さんがどうなろうが関係ねぇけど……会いたいヤツに会うためだからなぁ。すまん」
「東さんまで!」

『決まったみたいだね~。ここで決まった不採用の人間は……シナガワくん! キミだ!』

ミスターEPICの声と同時に、ドラゴンキャッスルの制服を着た人間がCLUB777になだれ込んでくる。

彼らはシナガワを捕まえると、頭に布袋をかぶせた。

「み、みんな! ひどいよ!! 松山くん、助けて!!」
「悪いな、シナガワ……」

まぁ、ここで落ちたとしても、お前はいいヤツだ。きっと良心的な会社に就職はできるだろう。
シナガワは男たちに運ばれ、CLUB777を去った。

――それで終わりだと思ってたんだ。

だから俺は誰かを蹴落とすことも躊躇しなかった。
あの映像を見るまでは……。
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