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「じゃ、オレから行くよ。一応ここでは『S』って呼んで」
「Sくん、あなたはここに来たときの記憶、ある?」

 私がたずねると、彼はうーんと首を捻る。

「……それがないんだ。みんなもそうじゃない?」

 同じように全員がうなずく。

「あ……わたしのネームプレートには『A』って書いてあります。多分小学生……難しいことはわかんないから、なんでこんなところにいるのかも知らない……です」

 Aちゃんは泣きたいのを我慢しているのだろう。目の端には大粒の水が溜まっている。
 確かに違和感はある。大人なら何か理由があって拘束されることはあるかもしれないけど、Aちゃんは子どもだ。何かやらかした、なんてことがあるのだろうか。Aちゃんの様子を見ても、何か悪いことをするような子には思えない。

「……もしかしたら、年齢や性別は関係なく、無作為に連れてこられたのかもしれませんね。理由まではわかりませんが」

 冷静に分析したのは、地味目だがしっかりしている女子高生『M』さん。それに同意したのは、身長の高い男性『J』さんだ。

「そ、そうだよ! 俺はなんでここにいるの!? 運が悪かっただけとしか思えない!」

 Jさんは身長も高いし、年齢も一番上みたいなのにどうやらびびりのようだ。ずっとさっきから怯えている。今はどういう状態なのか冷静に把握できなければどうしようもないのは確かなのに。

「運、だと!? 運……あたしは悪魔に魅入られてしまったというのか!」

 よくわからないことを言い出したのは『N』ちゃん。これはいわゆる中二病ってやつ? こんな時にでも、よくキャラを作っていられるなと、私は驚いてしまう。

 だけど、みんな共通していたことはいくつもある。まずは自分の名前を覚えていない。それと、どうしてこんな場所に連れられてきたのかもわからない。そしてこの革バンド。どうやら鍵がないと取れない仕組みになっているらしい。つないである鎖をこの部屋にある何かで切ることもできそうもない。あるのは部屋の四隅にあるカメラとネームプレート。武器のようなものはない。

「くそっ! 開けてよっ!!」

 さて困った。どうやって逃げればいいんだ? みんなも私と同じで、腕を拘束されているし、Jさんが大声を出してデスクをガタガタしたけど、誰も気づいてくれないみたい。もしかしたらこの部屋の近くに人自体いないのかもしれない。

「……あれ? そう言えばあそこにあるのは何かなぁ?」
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