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文字数 2,663文字

 Ms.EPICはポップコーンを食べているようで、それが画面に映る。『チョコバナナ味』と書いてあったけど、おいしいのだろうか?

 それはともかく。

「とりあえずアメリカンクルージング……アトラクションに乗らないといけないってことですね」

 さっきより簡単そうな指令で、私は元気を取り戻す。1問目は手も足も出なかった。だけどこの問題ならなんとかなりそうだ。

 しかし雫は浮かない表情を浮かべる。

「どうしたの? 雫」
「ミフユ、知らないの? アメリカンクルージングには100以上の動物と出くわすって」
「えぇ!?」
「どーすんのよ! それじゃあ……見つからないじゃない!」

 あかりさんはずっとこの調子だし、男性陣も困った顔をしている。誰もわからないのかな。でも、乗ってみれば誰かしら見つけるかもしれない。

「乗ってみれば見つかるかもしれません。とりあえず並びましょう!」

 私がみんなを促すと、仕方なくといった感じだが列に並んでくれた。

 そして、私たちがアトラクションに乗る番。みんなは目を凝らしながら出てくる動物や原住民の姿をスマホで追う。それに対してガイドさんは若干苦笑いだ。

「今日のお客さんは貴重な1枚を撮ろうと必死ですね~!」とジョークにするほど。

 でも、そんなガイドさんもすごい。7人の男女がスマホを構えているという変な状況だというのに笑顔だし、うまくフォローすることができる。そんなガイドさんのすごさを感じながらも、私たちは木々や水の中をスマホ越しに探す。人食いワニ……どこにいるんだ?

「多分、もう少しで原住民が木々の間に出てきます。その横に……」

 郁乃さんがまたつぶやく。その言葉を信じ、私たちは原住民を探す。――いた。しかも横には……。

「人食いワニだ! 原住民を襲おうとしてる!」

 蓮史郎くんが声をあげると、みんなスマホでその写真を撮る。びっくりする普通のゲストに、何事かと思ったのかガイドさんも驚く。

「はは……どういうわけか人食いワニが大人気ですね~!」

 トランシーバー越しに笑うガイドさん。ともかく私たちは全員のスマホに、人食いワニを収めることができた。

『ちょっと、一発で見つけたっての!? 何よ、あんたたち……あー! わかった! GWLマニアが混じってるでしょっ!』

 Ms.EPICに全員のスマホの画像を見せると、そんなツッコミが返ってきた。GWLマニアって……もしかして郁乃さん?

「郁乃、あんたGWLオタだっけ? 全然知らなかったんだけど!」

 あかりさんが声を荒げると、郁乃さんが控えめに言った。

「あ、あかりちゃんはこういうの興味ないって知ってたから……話してなかったの。でも、小さい頃からGWLは大好きで……ダンススクールのあとはあかりちゃんとずっと一緒にいたから、あまり来られなかったけど、時間があればGWLに来園してて……」

「でも、こっちには戦力になるよね!」

 雫がそう言うと、私は大きくうなずいた。郁乃さんはバイトに受かったのに何の知識もない私たちを、きっと導いてくれるはず。駆さんも蓮史郎くんも郁乃さんを笑顔で見つめている。シュウヘイさんは相変らずつまらなさそうにしているけど。でも、それを面白く思わない人物がいた――あかりさんだ。

「郁乃! あんた気持ち悪いのよ。オタクとか……そんなのが同じスクールにいるなんて、最悪!」

 その言葉にびくりとする郁乃さん。だけど、言い返したのは意外な人だった。

「……だったらあんたがどうにかしてくれんのか? そこのオタクの方が役に立つのは明白だろ。面白くなくても研修は受けなくちゃいけないんだから、我慢しろ」

「浦辺シュウヘイとか言ったっけ? たかだか清掃員希望だったくせに、生意気よ!」
「あ~、ここはどの仕事を希望していたとかいう話は置いておこう」

 駆さんが間を取り持とうとするが、あかりさんは機嫌がすこぶる悪くなっている。顔を真っ赤にさせて、大声を出した。

「だったら! あんたたち知ってる!? アクター希望のキャストが、研修中に神隠しに合うって噂! 郁乃、あんた知ってるんでしょ! みんなに教えてあげなさいよ!」

 ……え? 神隠し? 何のこと?
 私は雫の目を見る。雫はそれをふい、とかわした。……もしかして、雫も知っていた? それなのに黙っていた?

「……ご、ごめんね? ミフユ。あんたが見つけたバイトだし、どうせ噂だろうと思って言わなかったんだ。それに、あたしらショップ希望だったじゃん! ……でもあたしらもアクター希望ってことになっちゃったんだよね……」

「え、ちょ、ちょっと何なに!? アクター希望のキャストって、オレもじゃん!」
「……お前だけじゃない。ここにいる全員だ。清掃員希望だった俺も含めてな」
「で、でも神隠しだなんて……毎回起こるわけじゃないでしょ。起きてたら大事件になってるし、警察だって動いてるはずだよ」

 駆さんがそう言うと、雫もうなずく。蓮史郎くんも胸をなでおろした。

「でも、気持ち悪い噂ッスね。実際どうなんですか? 郁乃さん」

 蓮史郎くんの質問に、郁乃さんはびくりとする。そしてささやかな声で説明を始めた。

「……アクターは裏道をよく使うでしょ? グローバルワンダーランドには、地下にショートカットする道がいくつもあるの。ただ、さすがにみんな覚えきれてない。だから迷子になることはあると思う……それが都市伝説化しただけよ。それに、噂は噂。実際事件にはなってないから……平気だよ」

 まぁ、こんなに敷地の広いテーマパークだし、迷子になるのはあり得る話だよね。暗くなったみんなだけど、雫が気を取り直すように手を叩く。

「噂ならだいじょぶだよ! それでも気になる人は、研修終えたらバイトを辞退することだってできるんだし! さ、Ms.EPICに次のお題を出してもらおう!」

 やっぱり雫はさすがだな……。私なんかと違って、年上の人たちの中でも堂々として場を盛り上げようとしている。私も雫に同調した。

「そうですよ。ここで立ち止まってても何も解決しませんから、とりあえず今日の研修……ウォークラリーをクリアしましょう!」

 高校生である私たちがそう言ったことで、周りの大人たちは申し訳なさそうな顔をする。

「……情けないね、僕たち。年下の子に励まされるなんて」

 駆さんがつぶやくと、蓮史郎くんもうなずいた。

「だな~! たかが噂。つーか、雑談レベルのことでうだうだやってる暇なんてないって! それに夜でもないのに怪談……みたいなのもおかしいしね!」

「……江頭郁乃。あんたが指揮を取れ」
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