文字数 1,643文字

 宣言通りセンパイは、毎時間ごと2年の教室に来るようになった。相変わらず竹刀を振り回して、オレを監視している。なんだ、この状況。こわい。悪いことはしてないんだけど。

「おい、寿。お前何かしたのか? あの先輩」

 隣のクラスの正月が、わざわざオレを心配してきた。正月のこともじろりとセンパイはにらんでいる。正月には嘘をつけない。仕方なく事情を説明すると、手刀を頭に落とされた。

「いっつ……! お前の手刀は本気で痛いんだって!」
「当然だ。空手やってるんだから。なんでオレの写真を見せようとしてたんだっ!!」
「お前なら絶対フるだろ? 部活に専念したいって」
「……それはそうだけど」

 部活やってると、なかなかデートとかできないからな。それに正月が主将候補っていうことも知っている。……とまぁ、それは表向きの理由。
 本当は妹のありあと遊ぶ時間が欲しいとか、ありあとでかけたいとか、つまり『ありあがかわいすぎて彼女なんてできねーよ!』が本音だ。それはオレも同じなんだけど。

「でも、センパイがなんなのかわかんねーんだよな……。なんで監視なんて」
「好きなんだろ、お前が」
「はぁ!?」

 思わず大声を出す。なんでオレがセンパイに惚れられる!? ……って、そうか。センパイの行動はよくわからないけど、オレがかけた術は『目の前の男のことが大好きになる』というもの。あのとき目の前にいたのは……。

「……オレだ」

 がっくりと肩を落とすと、正月はため息をつく。

「大体自業自得なんだよ……お前がそんなだと、俺も困るっていうか。一応双子だからな」
「どうすればいいんだ!? オレ!」
「でも告白してきたわけじゃないんだろ?」
「まぁ……だけどどう思う? あの行動」
「うーん……シャイなんじゃないか?」
「だからって竹刀はない!!」

 正月はオレの肩に手を置くと、小さく言った。

「とりあえず話をするしかないんじゃないか? ちゃんと断るしかない」
「そ、そうか。じゃあ……」

 さっそく遠目でオレたちを見ていた山吹センパイに近寄ろうと向きなおると、彼女はびくりとして竹刀を構える。

「なあ、正月。お前も来てくれない? あの竹刀が振り下ろされそうで怖い」
「ったく、しょうがないな……」

 正月の背に隠れながら、オレはじりじりとセンパイに近づく。

「な、何よ、藤沢寿!」
「そりゃこっちの台詞ですよ。その……オレに言いたいこと、あるんじゃないですか?」
「ぐっ!!」

 センパイはみるみる顔を赤らめていく。こ、これは……マジで?

「う、うるさいっ!! 私は、私はあんたのこと……大好きなのよっ!! 悪いっ!?」

 まさかの逆切れ!? しかも廊下。超大声での告白。最悪……って、オレが仕向けたんだよな……。ともかく。

「ご、ごめんなさい。オレ、センパイとはつきあえないデス……」
「はぁ!?」

 やばい、竹刀が降ってくるか!? でもこっちには正月がいる!! オレを守ってくれるはず!!
 怖くて目を閉じる。しかし、竹刀の音はしない。正月の身体も動いていない。ゆっくりと目を開けると、うるうる涙を浮かべたセンパイがいた。

「う、ううっ……。バカアアッ!!!」

 それだけ叫ぶと廊下を走っていった。

「……これでもう来ねーだろ」

「っていうか来られないだろ。寿……お前はなんでもうちょっと配慮ができないんだ? 3年の風紀委員長が2年の廊下で年下に告ってフラれたんだぞ……。登校拒否になってもおかしくない」

「マジで?」
「そこもちゃんと責任取れ。俺はちゃんと言ったからな? 催眠術で商売するなって」
「はぁ……」

 これは要するに、もう一度先輩に会って、嫌な思い出を忘れさせる術をかけないとチャラにはならないってことだよな。正月もけじめに関しては厳しいし。もしかしたら怒ってありあを独り占めしたりして……。それだけは嫌だ! いくら双子の兄だっつっても、オレからありあを取るなんて!!

「仕方ない、放課後を待つか」
「おう、ちゃんとケリつけてこいよ」

 正月はオレの背中を叩くと、教室に戻っていった。
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