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文字数 1,463文字
「え? えっ?」
安全バーを掴んでいた伊藤が声を上げる。嘘だろ? 2人しか乗ってないトロッコが……動いてる? いや、レールが動いてるんだ。僕と伊藤を乗せたトロッコは、降り口前のレールの分かれ道で、『降り口じゃない方』へ運ばれる。
「いやいや、そっちじゃないだろ?」
「やっぱり故障機か何かだと思われてるんだろ。多分車庫的なところに連れていかれるだけだよ。そこで下ろされるんじゃないか?」
「なんだ、ならいいけど」
安心したように見せた伊藤だが、内心は違う。心の声が一瞬聞こえた。
『何が起こってるんだ?』
それは僕も同じ気持ちだ。僕らの乗ったトロッコはだんだんと暗い場所に向かっていく。鉱山の奥。松明だけが光る場所。
無人のそこで、僕らのトロッコは止まった。安全バーが上がる。
「……? ここで降りろってことか?」
「でも降り口みたいなのはないぞ?」
とりあえず、トロッコから降りる。
シュッ! とほほを何かがかすめた。
「え――」
振り向くとそこには、ナイフを持った人間たちがいた。頬からは血がすっと流れる。
「ちょ、ちょっと待ていっ!!」
ナイフを持った人間たちが、一斉に僕らを襲い始める。な、何が起こってるんだ!?
「あぶねっ!! 何すんだよ!!」
反射神経よく避ける伊藤。今度は僕にナイフが襲いかかる。
「曲がれっ!」
手をかざし、声を上げると、前にいた人間のナイフは曲がった。危ない。超能力が仕えなかったら刺されてたぞ、今の。
「な、なんなんだ……っ?」
「わからない。なんでいきなり僕らが襲われてるんだ! こんな遊園地の中でっ!!」
仮面のやつらは今度、拳を伊藤に振るう。
「だからあぶねぇって!! やめろよっ!!」
伊藤はどこから取り出したのかわからない手裏剣を放つ。それが仮面のやつのマントを、壁に固定させる。
「どうする?」
「逃げるしかないでしょ? でもどこに逃げれば……」
「そういうとき、透視とかできないの?」
「透視してるんだけど、ここに出口はないっ!! 袋のネズミなんだよ、僕たち!!」
「えぇっ!?」
会話している間も、次々と仮面のやつらが襲ってくる。
「ぐっ……!」
「伊藤っ!!」
油断した伊藤が首を絞められる。くそっ、あんまりこういう荒業は使いたくないけども、仕方ないっ!
「折れろっ!」
鈍い音がして、伊藤の首を絞めていたやつが腕を押さえる。
「げほっ、げほっ、今……何したんだ?」
「腕を折った」
「それはやりすぎじゃないか?」
「殺されそうだったやつが何言ってんだ」
「それもそうか。だったらオレも本気出さないといけない……か?」
目をキラリと光らせると、伊藤は辺りを駆けまわり始めた。これはまさか……分身の術? たくさんの伊藤が現れると、仮面のやつらは顔をくるくると動かす。シュッ! と音がすると、手裏剣が相手の胸に刺さる。次から次へと仮面のやつらが倒れていく。
……ふうん、伊藤ってそういう人間だったんだ。
だけど、伊藤が倒しても倒しても続々と敵は出てくる。
「ったく、何人兵がいるんだよ!」
「キリがないな、僕も本気出すか」
ため息をつくと僕は一瞬目を閉じてから見開く。
ブオン、と空気が膨張した。
さっきは腕の骨。でも、今度は『首の骨』だ。悪いけど、手加減はしない。意味もわからずいきなり命を狙われたんだ、それ相応の代償は払ってもらう。
バキバキと音がすると、伊藤と僕以外のその場にいた全員が崩れ落ちた。
「お前……人を殺したのか?」
「いや、それ君が言う?」
しばらく無言だったふたりの間に、いやに明るい声が響いた。
「うっわ、派手にやったねぇ~!!」