■船橋ミホ
文字数 2,293文字
「ただいま、おじさん」
何年振りの我が家だろう。しばらく大学の課題やら卒論やらで忙しくて連絡できてなかった。その間に、唯一の親類だったおじは死んだ。私の両親は事故で死亡。幼い私を育ててくれたのが、人のいいおじだった。
お葬式は密葬にした。なぜなら――おじは自殺だったからだ。それもこれも全部EPIC社のせいだ。
私のおじは、米浜に土地を持っていた。それに目をつけたのがEPIC社だ。なんでもグローバルワンダーランドを拡張したいからと、毎日きつい地上げを行っていたから。電話で何度もおじから苦しい胸の内を聞かされていた私は、大学を卒業したらおじと一緒に土地を守るつもりだった。その前におじは……。
もう今いるこの家も、EPIC社が土地を買い占めている。あとは私が家財道具などを持って引っ越すだけ。
「なんで……なんでこんなことになっちゃったのよ!!」
行き場のない憎しみが、私の心を蝕む。
「ミホ、もういい?」
「……ええ、決心がつきました」
「では行こうか」
MITを卒業した私は、卒業後おじが死ななければ、そのまま修士課程につく予定だった。だけど、のんきに勉強している場合じゃない。
おじがEPIC社に殺されたんだ。EPIC社は、海外にも同じように支社がある。グローバルワンダーランドあるところ、EPIC社あり。EPIC社は、大きな闇を抱えていると、都市伝説にもある。人身売買や麻薬密売……他には殺人ショーが行われているとか、人肉を出すレストランがあるとか。そんな会社に大きい顔をさせてたまるか。それにおじの敵だ。私は……私はEPIC社を壊滅させる。
でも、ひとりでそんなことはできない。だから私はある組織に入り、いわゆる産業スパイとして活動することになった。表向きはこの恵まれた体型……もちろん努力もあるけど……を使い、世界的なショーモデルとして活躍する。そして裏では、EPIC社の陰謀を暴く。ハニートラップだろうがなんだろうが、使える武器はなんでも使う。人を殺す訓練もした。
あとはどうやってEPIC社へもぐりこむか、だ。
私たちは横浜の中華店の個室で食事をしていた。話題はEPIC社について。
「どうやらEPIC社はある人間を組織に向かえようとしているみたいだ」
「EPIC社が欲しがる人間? どんな人材なの?」
私がたずねると、ボスは困ったような顔をした。
「それがわからないんだよね。まったく」
「まったく?」
ボスは紹興酒をごくりとあおると、うーんと唸る。
「データにまったくないんだ。EPIC社は新しく裏の会長を選任する。その補佐として誰かを選ぶというところまでは、内部のスパイの耳に届いた。だけどどうやら、一般人みたいなんだよね」
一般人? その言葉に私まで首を傾げてしまう。一般人がEPIC社の裏稼業につくなんて、できっこない。大抵の人間は、EPIC社……グローバルワンダーランドに夢を見ている。それが殺人やら麻薬密輸をしているなんて知ったら、普通は関わらないようにするだろう。逃げるのが一番の選択肢だ。関わってはいけない。何せ、EPIC社は犯罪組織なんだから。
「ともかくミホ、君にはEPIC社の就職試験に出てくれるか?」
「それは構いませんけど……エントリーはどうするんですか? EPIC社の就職試験方法は極秘というか……誰にも知られてないって聞くじゃないですか」
EPIC社の就職試験で聞いたことがある噂はひとつ。『不採用になった場合、帰ってこれなくなる』ということだけ。採用者はそのままEPIC社勤務になるから、問題はないが……それって永遠に口を塞がれるということだ。
エントリー方法も誰も知らない。多分だけど、内部の上級職が引き抜くなりしてるんだと思っていたんだけど……。
「ミホ、君は『奉りえか』という高卒の女の名前を名乗れ。そいつも一緒にエントリー
させる」
「どういうつもり?」
「奉りえかもこちら側の人間だ。お前の正体がバレても困るからな。奉りえかが死んでも、『船橋ミホ』が死んだということになる」
さすが血も涙もないリーダーだ。私が死のうが、奉りえかが死のうが関係ないのね。ま、私も駒のひとり。仕方がないこと。だけどただの駒じゃない。『戦う駒』だ。
「奉りえかもお前も、EPIC社にとって『声をかけなくてはいけない人間』になっているはずだ。きっと、就職試験の案内は来る」
私はその言葉を信じて、EPIC社からの通知を待つことにした――。
「パリ支社の人、タロウ気に入ってくれたな。びっくりした。」
「オレも! なんか『日本の観光スポット』に載ってたとかでさ~。御苑のミーティングも気に入ってくれたみたいだし。瑞希のおかげだね! ありがと」
「いえ、私は会長の指示にしたがっただけです。それで、明日のミーティングですが……」
そう言えば、りえかさんってどうなったんだろう? 御堂も……。
キャットはうちでタダ働きさせられてるから知ってるけど、ふたりは死んだのか? ユウキには一度、ふたりを始末しろと拳銃を渡された。でも、キャットだけ生きているのはおかしな気がする。御堂だって親が政治家なら使えるはずだし。りえかさんに関しては、もとからスパイだったから始末するしかなかったのかもしれないけど。
「どーした、ヒロアキ」
「あのさ、御堂とりえかさんって、どうなったんだ?」
「……ふふっ、あいつらね。あいつらにはちょ~っとした因縁っつーかめんどいのがあるんだ」
「因縁?」
「ま、そのうち話すよ。ヒロアキにもね。だってキミも、オレと同じ会長なんだから!」
俺らは酒を飲みながら、そんな話をしていた――。
何年振りの我が家だろう。しばらく大学の課題やら卒論やらで忙しくて連絡できてなかった。その間に、唯一の親類だったおじは死んだ。私の両親は事故で死亡。幼い私を育ててくれたのが、人のいいおじだった。
お葬式は密葬にした。なぜなら――おじは自殺だったからだ。それもこれも全部EPIC社のせいだ。
私のおじは、米浜に土地を持っていた。それに目をつけたのがEPIC社だ。なんでもグローバルワンダーランドを拡張したいからと、毎日きつい地上げを行っていたから。電話で何度もおじから苦しい胸の内を聞かされていた私は、大学を卒業したらおじと一緒に土地を守るつもりだった。その前におじは……。
もう今いるこの家も、EPIC社が土地を買い占めている。あとは私が家財道具などを持って引っ越すだけ。
「なんで……なんでこんなことになっちゃったのよ!!」
行き場のない憎しみが、私の心を蝕む。
「ミホ、もういい?」
「……ええ、決心がつきました」
「では行こうか」
MITを卒業した私は、卒業後おじが死ななければ、そのまま修士課程につく予定だった。だけど、のんきに勉強している場合じゃない。
おじがEPIC社に殺されたんだ。EPIC社は、海外にも同じように支社がある。グローバルワンダーランドあるところ、EPIC社あり。EPIC社は、大きな闇を抱えていると、都市伝説にもある。人身売買や麻薬密売……他には殺人ショーが行われているとか、人肉を出すレストランがあるとか。そんな会社に大きい顔をさせてたまるか。それにおじの敵だ。私は……私はEPIC社を壊滅させる。
でも、ひとりでそんなことはできない。だから私はある組織に入り、いわゆる産業スパイとして活動することになった。表向きはこの恵まれた体型……もちろん努力もあるけど……を使い、世界的なショーモデルとして活躍する。そして裏では、EPIC社の陰謀を暴く。ハニートラップだろうがなんだろうが、使える武器はなんでも使う。人を殺す訓練もした。
あとはどうやってEPIC社へもぐりこむか、だ。
私たちは横浜の中華店の個室で食事をしていた。話題はEPIC社について。
「どうやらEPIC社はある人間を組織に向かえようとしているみたいだ」
「EPIC社が欲しがる人間? どんな人材なの?」
私がたずねると、ボスは困ったような顔をした。
「それがわからないんだよね。まったく」
「まったく?」
ボスは紹興酒をごくりとあおると、うーんと唸る。
「データにまったくないんだ。EPIC社は新しく裏の会長を選任する。その補佐として誰かを選ぶというところまでは、内部のスパイの耳に届いた。だけどどうやら、一般人みたいなんだよね」
一般人? その言葉に私まで首を傾げてしまう。一般人がEPIC社の裏稼業につくなんて、できっこない。大抵の人間は、EPIC社……グローバルワンダーランドに夢を見ている。それが殺人やら麻薬密輸をしているなんて知ったら、普通は関わらないようにするだろう。逃げるのが一番の選択肢だ。関わってはいけない。何せ、EPIC社は犯罪組織なんだから。
「ともかくミホ、君にはEPIC社の就職試験に出てくれるか?」
「それは構いませんけど……エントリーはどうするんですか? EPIC社の就職試験方法は極秘というか……誰にも知られてないって聞くじゃないですか」
EPIC社の就職試験で聞いたことがある噂はひとつ。『不採用になった場合、帰ってこれなくなる』ということだけ。採用者はそのままEPIC社勤務になるから、問題はないが……それって永遠に口を塞がれるということだ。
エントリー方法も誰も知らない。多分だけど、内部の上級職が引き抜くなりしてるんだと思っていたんだけど……。
「ミホ、君は『奉りえか』という高卒の女の名前を名乗れ。そいつも一緒にエントリー
させる」
「どういうつもり?」
「奉りえかもこちら側の人間だ。お前の正体がバレても困るからな。奉りえかが死んでも、『船橋ミホ』が死んだということになる」
さすが血も涙もないリーダーだ。私が死のうが、奉りえかが死のうが関係ないのね。ま、私も駒のひとり。仕方がないこと。だけどただの駒じゃない。『戦う駒』だ。
「奉りえかもお前も、EPIC社にとって『声をかけなくてはいけない人間』になっているはずだ。きっと、就職試験の案内は来る」
私はその言葉を信じて、EPIC社からの通知を待つことにした――。
「パリ支社の人、タロウ気に入ってくれたな。びっくりした。」
「オレも! なんか『日本の観光スポット』に載ってたとかでさ~。御苑のミーティングも気に入ってくれたみたいだし。瑞希のおかげだね! ありがと」
「いえ、私は会長の指示にしたがっただけです。それで、明日のミーティングですが……」
そう言えば、りえかさんってどうなったんだろう? 御堂も……。
キャットはうちでタダ働きさせられてるから知ってるけど、ふたりは死んだのか? ユウキには一度、ふたりを始末しろと拳銃を渡された。でも、キャットだけ生きているのはおかしな気がする。御堂だって親が政治家なら使えるはずだし。りえかさんに関しては、もとからスパイだったから始末するしかなかったのかもしれないけど。
「どーした、ヒロアキ」
「あのさ、御堂とりえかさんって、どうなったんだ?」
「……ふふっ、あいつらね。あいつらにはちょ~っとした因縁っつーかめんどいのがあるんだ」
「因縁?」
「ま、そのうち話すよ。ヒロアキにもね。だってキミも、オレと同じ会長なんだから!」
俺らは酒を飲みながら、そんな話をしていた――。