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文字数 2,603文字

 な、なんだ、今のは。エーの……? オレたちがひるんだ隙に、ANGELたちはもう一度武器を構え直す。オレは『使えない』って催眠をかけた。それなのに、なんで? 催眠が聞いていないとか?

「寿くん、あなたにはきちんと教えていなかったのに、短縮催眠術を使えたのはすごいと思ったわ。でもね、『オリジナル』の私には勝てない。本当の短縮催眠術は、識別コードでかかっちゃうの。解くのも同じ」

「じゃあ、今のは……」
「あなたがかけた催眠は、簡単に解けたわ」
「だったらオレも、もう一度……」
「無駄だわ。あなたがかけても私が解くもの。それに……こういうこともできるのよ」

 再び人差し指を上げると、コードをつぶやく。

「B-0013」
「うわっ!?」

 正月、ありあはその場にひざと手をつく。ど、どういうことだ? まさかこの識別コード……知らない相手にもかけられる?

「ふふっ、正月くんとありあが戦えなかったら、あなた何もできないわ。催眠術の解き方を教えていなかったのも……裏切られたらって可能性を捨ててなかったから」

「バーカ、俺がいるのを忘れんな」
「青葉さん!?」

 青葉さんだけは、浄見さんの催眠術にかからず銃を向けている。どうしてだ? そう言えば、さっき正月とありあに術をかけろと言った。『自分にもかけろ』とは言っていない。それは、青葉さんが自分の腕に自信があったからだと受け流した。だが違う。本当は――。

「今更気づいたのかよ。そうだ、俺に催眠術は通用しない」
「な、なんで……?」

「催眠術にかかるやつは弱ぇんだよ。術なんてかけてもらわなくても、俺には覚悟があんだ。必ず勝ってやるっつーな」

 催眠術にかかりやすいやつは心が弱い。だからオレもそういうやつをカモってきた。自分でもわかってたんじゃん。そうか、催眠術を解く方法。『オレ』が解くんじゃない。解くのは……。

「正月! ありあ! お前らは弱い人間なんかじゃない!」
「寿……」
「いいか、自分に負けんじゃねーぞ! お前ら自身に打ち勝つんだ!」
「寿ちゃん……うんっ!」

 小さなありあが、小刻みに動き出す。浄見さんに術をかけられて動けないはずなのに、手が次第に地面から離れていく。正月もだ。ゆっくり立ち上がると、もう一度構え直す。ありあもだ。

 自分自身に負けない。自分自身に打ち勝つ。みんなができたんだ。オレだって……。

「よっしゃ、みんな! 覚悟決めろよ! 突撃―っ!!」
「うおおっ!!」

 正月がキサラに突撃する。

「えっ、マジ!? アタシかよっ!」

 キサラもカプセル型爆弾をいくつも投げるが、自分と正月の距離が近すぎて爆破できない。その隙にオレは術をかける。

「キサラ!」
「何っ! あっ……」
「お前は今、水の中だ!」
「うっ!? か、かはっ……!!」

「このっ……」

 ミカがありあの銃を奪おうと鎖を投げる。

「寿ちゃんっ!」
「おう!」

 ありあの前に立つと、ちょうどミカと目が合う。

「3、2、1っ!」

 パチンッ!

「うわわっ!? なんで鎖がこっちに~!?」

 今、彼女は自分の投げた鎖にがんじがらめになっていると思い込んでいる。

「みんな、冷製になりなさいっ! A-0012!」
「わあっ!?」

 突然浄見さんに術を解かれたふたりは、地面に倒れこむ。だが、オレも手は緩めない。

「注目! ここは蟻地獄だっ!」
「きゃああっ!!」
「あなたたち、よくも!!」
 
地面に倒れこんでいたので、そのままごろごろ転がるミカとキサラ。そのふたりを
見ていたジュリがキレ、バズーカを両肩に担ぎ引き金に指を置く。
 バズーカの破壊力はまずい。しかも適当に撃っても爆風でやられる。

「ファイヤー!!」
「させるかっ!」

 飛び出したのは青葉さんだ。拳銃でジュリの脚を撃つ。ガクリとひざをつくジュリ。

「くそっ……それなら!」

 ふたつのバズーカだったら、しっかり両足を踏ん張らないと撃てないが、ひとつなら撃てる。だからって、させるか!

「ジュリ!」
「あなたの言うことは聞かない! 浄見さん、彼に何か術を!」
「ダメ! 寿くんは術がかかりにくいから……A-0014!」
「OK!」

 ジュリはもう一度ふたつバズーカを持って立ち上がる。痛みを感じなくする術か。しかし、オレの言葉を聞かないなら意味がない。目を合わせるか、他に方法は……。

「バカ。ひとりで考えるなよ」
「そーだよ、寿ちゃん! わたしたちもいるよ!」

 正月とありあがオレをかばうように立つ。青葉さんは……そういうことか。

「注目! 時間よ、止まれっ!」
「はぁ? 催眠術でも何でもない……え?」
「……止まっただろ?」

 ジュリの背後には、青葉さん。銃口は頭に突きつけられている。正月とありあ、オレに気を取られ過ぎて、青葉さんの動きを見逃していたんだ。

「……仕方ない。私たちも行くか」
「うん」

 御堂親子がカチャリと拳銃を構える。オレたちはそれでもひるまない。拳銃がなんだよ。変な組織? 知るか。催眠術なんかも必要ない。武器も構えず、オレたちは御堂親子と浄見さんに近づいていく。

「本当に撃つよ?」
「撃てば? どーぞ、どーぞ」

 オレはいつも通りへらへら笑う。正月はむすっとした表情。いつもかわいいありあも、今日はキリッとした面持ち。

「うちのガキども、今日はちょ~っとやべぇぞ? 決まってるみてぇだからな、覚悟」

 青葉さんがタバコを吸いながらつぶやく。

「覚悟がなんだよ……。僕たちをなめないで。脳天を撃ち抜くから」
「だからなんだ」

 正月はむすっとしていたが、ポケットに手を入れるとにやりと笑った。この表情は空手の試合前と同じ。

「わたしは寿ちゃんと正月ちゃん、臣ちゃんがいれば、何も怖くない。人を殺したって過去も。警察に捕まってもいい」

 今までに見たことのないありあの顔。かわいいかわいいと言っていたが、今日はかっこいい。オレも負けちゃいられないな、こりゃ。

「セブンスヘブン……だっけ? 若返りだの人を思い通りにするだの、ホントくっだらねぇ。そんなアホなこと、やめたら? 人は思い通りに動かないから面白いんじゃん? それに、人生は一度しかないから、楽しめるんじゃん。だからさぁ~……」

「……負けたわ、寿くん」
「浄見くん!?」

 御堂親子が浄見さんを見る。しかし、一瞬ふと笑うと、拳銃を下ろした。

「そうか、わかった。諦めるよ、今日は」
「今日は……?」

「B-777!」

 浄見さんが指を鳴らす。その途端、オレたちは気を失った――。
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