Our House
文字数 2,919文字
新入社員のメンツが揃った翌日。
「えぇーっ!? 引っ越せぇ!?」
「そっ。キャットにはリズとレフとシェアハウスに住んでもらいますっ!」
「ユウキサン、なにその横暴! ボクの意見は!? ねぇ、ヒロアキサンもなんとか言ってよ!」
「キャットの荷物はそんなにないだろ。各ホテルから引き揚げて、家に運んでおいたぞ。モノレールの駅近新築戸建てだ。うらやましい」
「えー、ヒロアキ、戸建てがよかったぁ? 戸建ても買っちゃう?」
「いや……どうでもいいんだけど、俺は」
「どーでもよくないよー!」
「ユウキは置いといて……。ともかくキャット。お前はレフと同じ仕事だから、一緒にいてくれたほうが仕事で何かあったときに便利だ。でもレフはお前のストーカーだったし、まぁ……レフはまだ15歳だから、万が一何かあると日本じゃお前が犯罪者だからな。リズもちょうど住むところを追い出されたし、シェアハウスって形がベストなんじゃないかと」
「うっ……」
さすがヒロアキサン。納得のいく説明を淡々とする。
「でもなんでシェアハウスなの? 同じマンションの違う部屋とかあったでしょ?」
「あのねーキャット。それは、キミらの社交性の問題なの」
「社交性?」
「オレとヒロアキが同居してるのも、ツクモとカナメを同居させてるのも、ぜーんぶ社交性のため! 共同生活から学べることは山ほどあるってね☆」
「……ユウキ、説明になってない」
「どゆこと? ヒロアキサン」
「俺は日本の大学に通って、一応普通の生活を送ってきたわけだけど……お前らは違うだろ? ユウキもキャットも飛び級。ツクモは引きこもりでカナメは山暮らし。レフはゲーム中毒だって聞いているし、お前も私生活なんて考えてる暇なんてなかっただろ? つまり、リズ以外は生活のままならない『社会不適合者』なんだよ」
「ううっ!!」
グサグサ刺さるなぁ……。確かにボクは自炊もできないし、洗濯はホテルのランドリーに任せていたし、大学のときは子どもってことで特別に配慮してもらって寮に入らないで家から通っていたからなぁ。全部お母さんがやってくれていた。ボクにできることは仕事しかない。
「オレは社会不適合者じゃないよ?」
「EPIC社の裏の会長なんだから、一番の社会不適合者だろ」
「ヒロアキも人のこと言えないくせに~……」
「ともかくキャット。もう手筈は整っているし、リズとレフは家にいる。もう仕事はいいから、帰ってパーティーでもしとけ。『アットホームな雰囲気』だぞ」
「それ、一番ブラックな仕事の代名詞じゃん……」
ヒロアキサンは有無を言わせないといった表情だ。これはもう、諦めるしかないのかぁ。まったく、プライバシーもプライベートも何もないよなぁ……。仕方ないか、EPIC社だから。
ボクは仕方なく、モノレールに乗ると最寄りの駅まで向かった。
「え……ここ?」
ボクは新しい家を見て、機嫌が直った。かわいい家だ! 屋根はピンクだし、壁はオフホワイト。まるで、GWLの中にあるキャラクターの家みたい!
さっそくもらったカードキーを当てて、扉を開けると――
「キャットォォォォ!!! キャットキャットォォォ!!!」
「……レフくん、落ち着こうか」
――パタン。
なんかいた。
いや、レフだけど。あんなのと一緒に住むの!? 狂暴な動物みたいな、アレと!?
レフ。レフ・ジェイネーキン、15歳。性別・男。顔は美少年だし、細身だけど、根っからのアニメオタクで、ジャパニメーション大好きっこ。学校は通わなくても勉強ができてしまったせいで不登校になり、ニートだったのにボクを追いかけてEPIC社に無理やり先日入社。
それをいさめていたのがリズ――泉理澄、23歳。元フリーター。未来予知の能力と、音波を聞き分ける耳を持つ。ボクが自殺しそうだったのを救った人間。その人間に、今度は守られるのかぁ……。
嫌とかNOとか言える状況下ではない。これは上司命令。労働基準法に守られたいんだけど、やっぱりそうはいかないか。ボクがしているのは奴隷契約みたいなもんだからなぁ。
ボクは気を取り直すと、静かにもう一度扉を開けた。
「……こんばんは、じゃないか。ただいまぁ……」
「キャット、お帰り」
「きゃ、キャットォォォ!!」
「リズ!?」
リズが……レフを押さえつけてる? え、どういう状況?
「レフくんが、今日、キャットを監視できなかったからって暴れちゃって……」
「リズ、力強いね?」
「一応コンビニのバイトしてたから……防犯訓練が何度かあって……こうして強盗を捕まえてたんだよね。レフくん、女の子を監視してたらダメだよ」
「うるせぇ、このデカ乳女!」
「そういう口の利き方もダメ。ヒロアキさんから言われてるから。生活指導してやってくれって」
「くっそぉぉぉ!! ネット関係だったら負けねぇのに!! キャットも何とか言ってやってよ!」
「いや、アンタが悪いデショ。今まで監視って、どこまでやってたの?」
「どこって……カメラ付いてるところは全部だし、ホテルの部屋の隅から隅までだけど? キャットのことで知らないことはないよ?」
「…………」
リズとボクはドン引く。ヤバいだろ、このガキ……。
「そ、それより、引っ越し祝いってことでお蕎麦用意したんだけど……3人で食べない?」
「3人で? あの、各部屋はあるの?」
「ボクはキャットと一緒の部屋でいいって言ったんだけど! このデカ乳がダメだって!!」
「あのね、レフくん。何度も言ったけど、この国では何かあったらキャットが逮捕されちゃうんだからね? 好きな人と離れたくないでしょ? だったらおとなしくしようね?」
「くっ……ヤポーニヤの法律め!! EPIC社に勤めているのに法律には縛られるの、矛盾してるよ!」
「『矛盾』なんて日本語、よく知ってるじゃん……。リズ、ボク、まず自分の部屋に盗聴器が仕掛けられてないか見てから……」
「全部回収しておいたから、お蕎麦食べよう?」
「あ、そう……ありがとう、リズ」
リズって、実はすごく仕事できる? っていうか、適応力があるのかな。あれだけ人生に絶望して自殺を考えていた人とは思えないほどの変わりようだ。
「なんか……初めて楽しいって思えたんだよね。こうして、レフくんを捕まえて、キャットの世話焼くの。妹と弟が一気にできた気がする」
「ボクは妹じゃないよ」
「ボクだって、弟じゃねぇよ!」
「そ、そりゃそうなんだけど!」
ダイニングで、3人そろって茹でたそばを食べる。リズが揚げた天ぷらも。今日はごちそうだな。
レフは定番の日本食を初めて食べるらしく、不器用に箸を使っている。それを見て、リズとボクは吹き出しそうになった。
「くっそ! 笑うな!!」
「まぁまぁ、慣れれば大したことないから、箸の使い方なんて」
「リズ! お前、わざとボクにキャットの前で恥をかかせようとそばなんて用意したな!?」
「レフ、うるさい! 引っ越しの時はそばって決まってるの! ご飯のときくらい静かにしてよ!」
「キャットがそういうなら……」
ふう、やっと静かになった。
こんな騒がしい日々がこれから続くのかぁ……。うるさいけど、悪くはない、かな。
ひとりでホテル暮らししていた日々に比べたら、ね。
「えぇーっ!? 引っ越せぇ!?」
「そっ。キャットにはリズとレフとシェアハウスに住んでもらいますっ!」
「ユウキサン、なにその横暴! ボクの意見は!? ねぇ、ヒロアキサンもなんとか言ってよ!」
「キャットの荷物はそんなにないだろ。各ホテルから引き揚げて、家に運んでおいたぞ。モノレールの駅近新築戸建てだ。うらやましい」
「えー、ヒロアキ、戸建てがよかったぁ? 戸建ても買っちゃう?」
「いや……どうでもいいんだけど、俺は」
「どーでもよくないよー!」
「ユウキは置いといて……。ともかくキャット。お前はレフと同じ仕事だから、一緒にいてくれたほうが仕事で何かあったときに便利だ。でもレフはお前のストーカーだったし、まぁ……レフはまだ15歳だから、万が一何かあると日本じゃお前が犯罪者だからな。リズもちょうど住むところを追い出されたし、シェアハウスって形がベストなんじゃないかと」
「うっ……」
さすがヒロアキサン。納得のいく説明を淡々とする。
「でもなんでシェアハウスなの? 同じマンションの違う部屋とかあったでしょ?」
「あのねーキャット。それは、キミらの社交性の問題なの」
「社交性?」
「オレとヒロアキが同居してるのも、ツクモとカナメを同居させてるのも、ぜーんぶ社交性のため! 共同生活から学べることは山ほどあるってね☆」
「……ユウキ、説明になってない」
「どゆこと? ヒロアキサン」
「俺は日本の大学に通って、一応普通の生活を送ってきたわけだけど……お前らは違うだろ? ユウキもキャットも飛び級。ツクモは引きこもりでカナメは山暮らし。レフはゲーム中毒だって聞いているし、お前も私生活なんて考えてる暇なんてなかっただろ? つまり、リズ以外は生活のままならない『社会不適合者』なんだよ」
「ううっ!!」
グサグサ刺さるなぁ……。確かにボクは自炊もできないし、洗濯はホテルのランドリーに任せていたし、大学のときは子どもってことで特別に配慮してもらって寮に入らないで家から通っていたからなぁ。全部お母さんがやってくれていた。ボクにできることは仕事しかない。
「オレは社会不適合者じゃないよ?」
「EPIC社の裏の会長なんだから、一番の社会不適合者だろ」
「ヒロアキも人のこと言えないくせに~……」
「ともかくキャット。もう手筈は整っているし、リズとレフは家にいる。もう仕事はいいから、帰ってパーティーでもしとけ。『アットホームな雰囲気』だぞ」
「それ、一番ブラックな仕事の代名詞じゃん……」
ヒロアキサンは有無を言わせないといった表情だ。これはもう、諦めるしかないのかぁ。まったく、プライバシーもプライベートも何もないよなぁ……。仕方ないか、EPIC社だから。
ボクは仕方なく、モノレールに乗ると最寄りの駅まで向かった。
「え……ここ?」
ボクは新しい家を見て、機嫌が直った。かわいい家だ! 屋根はピンクだし、壁はオフホワイト。まるで、GWLの中にあるキャラクターの家みたい!
さっそくもらったカードキーを当てて、扉を開けると――
「キャットォォォォ!!! キャットキャットォォォ!!!」
「……レフくん、落ち着こうか」
――パタン。
なんかいた。
いや、レフだけど。あんなのと一緒に住むの!? 狂暴な動物みたいな、アレと!?
レフ。レフ・ジェイネーキン、15歳。性別・男。顔は美少年だし、細身だけど、根っからのアニメオタクで、ジャパニメーション大好きっこ。学校は通わなくても勉強ができてしまったせいで不登校になり、ニートだったのにボクを追いかけてEPIC社に無理やり先日入社。
それをいさめていたのがリズ――泉理澄、23歳。元フリーター。未来予知の能力と、音波を聞き分ける耳を持つ。ボクが自殺しそうだったのを救った人間。その人間に、今度は守られるのかぁ……。
嫌とかNOとか言える状況下ではない。これは上司命令。労働基準法に守られたいんだけど、やっぱりそうはいかないか。ボクがしているのは奴隷契約みたいなもんだからなぁ。
ボクは気を取り直すと、静かにもう一度扉を開けた。
「……こんばんは、じゃないか。ただいまぁ……」
「キャット、お帰り」
「きゃ、キャットォォォ!!」
「リズ!?」
リズが……レフを押さえつけてる? え、どういう状況?
「レフくんが、今日、キャットを監視できなかったからって暴れちゃって……」
「リズ、力強いね?」
「一応コンビニのバイトしてたから……防犯訓練が何度かあって……こうして強盗を捕まえてたんだよね。レフくん、女の子を監視してたらダメだよ」
「うるせぇ、このデカ乳女!」
「そういう口の利き方もダメ。ヒロアキさんから言われてるから。生活指導してやってくれって」
「くっそぉぉぉ!! ネット関係だったら負けねぇのに!! キャットも何とか言ってやってよ!」
「いや、アンタが悪いデショ。今まで監視って、どこまでやってたの?」
「どこって……カメラ付いてるところは全部だし、ホテルの部屋の隅から隅までだけど? キャットのことで知らないことはないよ?」
「…………」
リズとボクはドン引く。ヤバいだろ、このガキ……。
「そ、それより、引っ越し祝いってことでお蕎麦用意したんだけど……3人で食べない?」
「3人で? あの、各部屋はあるの?」
「ボクはキャットと一緒の部屋でいいって言ったんだけど! このデカ乳がダメだって!!」
「あのね、レフくん。何度も言ったけど、この国では何かあったらキャットが逮捕されちゃうんだからね? 好きな人と離れたくないでしょ? だったらおとなしくしようね?」
「くっ……ヤポーニヤの法律め!! EPIC社に勤めているのに法律には縛られるの、矛盾してるよ!」
「『矛盾』なんて日本語、よく知ってるじゃん……。リズ、ボク、まず自分の部屋に盗聴器が仕掛けられてないか見てから……」
「全部回収しておいたから、お蕎麦食べよう?」
「あ、そう……ありがとう、リズ」
リズって、実はすごく仕事できる? っていうか、適応力があるのかな。あれだけ人生に絶望して自殺を考えていた人とは思えないほどの変わりようだ。
「なんか……初めて楽しいって思えたんだよね。こうして、レフくんを捕まえて、キャットの世話焼くの。妹と弟が一気にできた気がする」
「ボクは妹じゃないよ」
「ボクだって、弟じゃねぇよ!」
「そ、そりゃそうなんだけど!」
ダイニングで、3人そろって茹でたそばを食べる。リズが揚げた天ぷらも。今日はごちそうだな。
レフは定番の日本食を初めて食べるらしく、不器用に箸を使っている。それを見て、リズとボクは吹き出しそうになった。
「くっそ! 笑うな!!」
「まぁまぁ、慣れれば大したことないから、箸の使い方なんて」
「リズ! お前、わざとボクにキャットの前で恥をかかせようとそばなんて用意したな!?」
「レフ、うるさい! 引っ越しの時はそばって決まってるの! ご飯のときくらい静かにしてよ!」
「キャットがそういうなら……」
ふう、やっと静かになった。
こんな騒がしい日々がこれから続くのかぁ……。うるさいけど、悪くはない、かな。
ひとりでホテル暮らししていた日々に比べたら、ね。