13

文字数 2,479文字


 無罪判決を下したMちゃんや私のときは、特に何もなかったのに。悪人判決をしてしまったときは何かデメリットがあるの?
 出てきたのは5人分の緩和剤。ここまでは何も変わりないけど……。

『悪いヤツじゃない人を悪人扱いしたみんなにはお仕置き! 本当の緩和剤は3本に減らしてあるからね!』

 嘘……。私たち5人の中から、3人しか生き残れないってこと!? 私たちは互いの顔を見渡す。Kさんは大きくため息をつくと、時計を見た。

「……何もしないで全滅するわけにはいかないだろう。ともかく緩和剤を飲むしかない」
「そうだね。オレらだって、もう本当の善人じゃない。人が死んでいる時点で。だから……覚悟を決めるしかない」

 Sくんも真剣な目をする。

 Jさんはまだびくびくしているし、Aちゃんに至ってはずっと泣きっぱなしだ。こんなふたりにも緩和剤を飲ませるっていうの?

「無茶だよ! それよりみんなでどうにかして助かる道を……」

 私が言うと、Jさんがささやいた。

「そんなことを言って……君だって、誰か代わりに犠牲になればいいとでも思ってるんだろ?」
「私はそんなこと!」
「……どうだか。さっき自分が悪人だと自ら手を挙げたのも、俺たちを油断させようとしたからかも」

 みんなからの視線が突き刺さる。そんなことのために手を挙げたんじゃないのに。Aちゃんまで、私を見下したような表情を浮かべる。私は……私は……!!

「わたし、飲む」

 Aちゃんは自分で緩和剤を選んだ。SくんもJさんも、Kさんもすでに手にしている。私も飲むしかないんだ。諦めて私も残りのひとつを手にする。みんなで一斉に飲み干すと、しばらく。

「ぐっ……」
「うっ!」
「Kさん、Aちゃん!!」

 ふたりが泡を吐き出し始めた。本当に緩和剤は3人分しか用意されてなかったんだ……。

 だったらなんで!? Aちゃんなんてまだ小学生くらいなのに! Kさんだって、無罪が証明されたのに……!

 ふたりも先に死んだみんなと同じく、しばらくすると動かなくなった。
 そして先ほどのように画面にふたりの本名と素性が流れる。

『坂下 煌(さかした・こう)――23歳、 USB銀行入行2年目。高校時代はいわゆる不良。大学入学とともに更生。家族構成、父・母・妹。行内内部資料を運搬中、暴漢に襲われたことからバタフライナイフを護身用に所持』

『奉 ありあ(まつり・ありあ)――10歳。市立武蔵野小学校5年生。シングルマザーの元で育てられるが、母親は行方不明。現在は児童保護施設から小学校に通う』

 ふたりとも、やっぱり何も罪はなかった。それどころかAちゃん……あずさちゃんは、お母さんを亡くした子って……。彼女はなんでこんな場所に連れてこられたの? しかも殺されるなんて。

 しかし、それを見ていたSくんとJさんは、しらっとした表情を浮かべる。

「ふ、ふたりはどうしてそんなに平気でいられるの!? ふたりが殺されたんですよ! それにJさんはさっきまで怖がってたじゃないですか!」

「……でも、生き残る確率は上がったから。君かSくんのどちらかが『悪いヤツ』だ」

私かSくん? でも、私は一度、みんなに無罪だと選ばれた。だったら自然に『悪いヤツ』は……。

「オレが『悪いヤツ』だと言いたいみたいですね。ふたりとも」

 Sくんはにやりと笑うと自信たっぷりに言った。

「オレみたいな高校生より、大人のふたりのほうが人を殺してると思いますけど? 特にJさん」
「俺!?」
「そうやって怖がってるのも全部フリじゃないですか? それにYさんだって一度無罪にはなりましたけど、他に隠してあることがあるかもしれない」

 私たち3人は、完全に分裂してしまった。みんなで出口を探すとか、助かる方法を考えられる状態じゃない。私も含め3人は、誰が本当の『悪いヤツ』か目を凝らす。自分が助かるためだけに。こんなことを望んではいなかった。だけど……しょうがない。戦わないと勝てないんだから。

 そこでDCからの映像が流れた。

『いよいよゲームも終盤だね! 最後はババ抜きなんかじゃなくて、普通に選んでもらいたんだ。誰がどんなことをしているのか、はっきりと目に焼き付けてね』

 目に焼き付ける……? 一体その『悪いヤツ』は何をしているの? 

 画面が切り替わると、暗い室内が映し出される。しばらく待っていると、赤い照明がつく。音は出ていないが、ステージの上には十字架。そこには口を猿ぐつわで塞がれた女性がいる。注目して見ていると、仮面をつけた男性が中央に立った。

『Welcome Everyone!Now begin EPIC thing is done at the UnderBase.』

 ……EPIC? アンダーベース? これは……?

 男性が舞台袖に引くと、ピンクの髪にドレスの女が出てくる。彼女は十字架に磔にされている女性の目を何かで刺した。そのあと、キラキラ光るナイフで何度か身体を傷付けた後、心臓をえぐる。私は目を逸らしたくても逸らせなかった。その光景があまりにも素晴らしく残虐だったから。

 そのあと映像は楽屋の風景に映った。前口上を述べた男性は、ゆっくりと仮面を取る。その正体は……。

『ここまで見せたらいいよね? さ、多数決しよう!』

 もうデスクに伏せる必要はない。ふたりの目を見つめて、私は堂々と手を挙げる。

「私はSくんに投票します。こんなこと……人間のやることじゃない!」
「俺も……」

 Jさんも同調する。Sくんはくくっと小さく笑うと、自分も手を挙げた。

「Yさん、オレのやったこと、目に焼き付けてくれた? 残虐だよね、こんな人殺し」
「Sくん、あなた記憶は……?」
「あるよ。オレの名前は狩野誠之助。でもね、『悪いヤツかどうか』っていう点では不正解」
「嘘よ! あなたはこのステージで殺人の補佐を……」
「詳しくはJから聞いてくれる? オレの出番はとりあえずここまで。一旦引くよ」

 Sくん……狩野くんは自分で持っていた鍵で腕のバンドを外すと、外へと出ていく。部屋の鍵も持っていたみたいだ。

でも『詳しくはJさんから』ってどういうこと……?
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み