第58話 思い通りにいかない人生

文字数 1,849文字

私の仕事は体力を使わない。狭い教室でお客様の間を行ったり来たりしている。
檻の中でうろちょろ歩いている動物園の熊のような毎日だ。
1日の歩数は2000~3000歩くらいがやっとだ。
さらに、私の体質は食べたものを限りなく吸収してしまう。
断食で69kgまで落とした体重なのに気が付いたら90kg近くに増えていた。
かっこわるいし、体にも悪い。それに着るものもなくなってくる。
あまりにも不格好なって悲しくなった。

昨年7月に100日間の減量期間を決めて20kgの減量に挑戦した。
断食修行の経験があるが、仕事をしながらの20kg減量はきつい。
仕事を継続しながら減量するのでパフォーマンスを落とさないように体重を減らす。
1日の摂取カロリーを1000キロカロリーを目標にした。
食事量は普段の半分くらいなので腹は減る。
栄誉不足を補うためにビタミン剤とカルシウム、鉄分、ミネラルを錠剤で摂取した。

運動量の不足は教室までの3kmを徒歩で往復した。
お風呂に毎日1時間以上入ってエネルギーを消費させた。
日曜日には近くのサウナに行って汗をかく。
12分間サウナに入って、そのあと水風呂に入る。
それを10回繰り返してエネルギーを消費させる。
家のお風呂で1時間はきつい。1時間が長すぎる。
時計の針が進まない。退屈なのでお風呂で歌謡曲を聞きながら気を紛らわせた。

毎日、体重、血圧、体脂肪を計測しグラフにつけた。
面白いように体重が減っていく。体重に平行して体脂肪率、血圧も下がっていく。
教室のお客様にもその経過を告知した。人に話すと後に引けなくなる。

断食の時とは違って多少でも食事は取っている。
半端な食事なので、そのあとが痛いように腹が減る。
それでも、朝から晩までお客さんと話している仕事なので
仕事をしている間は腹が減っている事を忘れてしまう。

問題は昼と夕方の休憩時間だ。このときの辛さは大変なものだ。
2軒先の「一二三食堂」いつもいい匂いがしてくる。たまらなく腹が減ってくる。
もう我慢できないと、食堂に向かう。いやだめだと引き返す。こんな毎日が続く。

楽しみは、毎日減っていく体重のグラフだけだ。
朝6時に体重・血圧・体脂肪率を計り記入する。
折れ線グラフの線が下り坂のようになっている。面白いように減っていく。
体もだんだん細くなっているのがわかる。ズボンもゆるくなってくる。
昨年の11月には体重75kgまで減量した。

生徒からは褒められる。
「先生、かっこいい」
「今減量しているんだよ」
「そのほうがいいよ、今までが太りすぎだよ」
「ジーパンはいたらもっとかっこよくなるよ」
「ほんと~」
「モテるようになるよ」
「そうかな~」

男はモテるという言葉に弱い。日曜日にジーパンを3本買ってきて
それから毎日ジーパンで教室にいった。
確かにみんなから褒められた。みんなって言っても2~3人くらいかな?
褒められるとその言葉でがんばれる。
調子にのって頑張っていたら目標の100日間で20kgの減量に成功した。

それから半年間くらい、体も心もさわやかな気分で毎日を過ごせた。
過ごせた・・・?  過去形・・・・?
そうです。残念なことに気を抜くと又増えてしまう。
今日現在、83kgだ。10kg以上も戻ってしまった。

たいして食べてないのに!みんな食べたものが脂肪になってしまう。
もしかしたら自分では気がつかないが、人より食べているのかもしれない。
意志が強いのか意志が弱いのかわからなくなってしまう。
また、減量しなければならない。辛いなあ・・・・・。
こんなことでも「幸」と「不幸」が交互にやってくる。
自分は一生楽ができないようになっているようだ。

自分に足りないのは継続する力。中途半端な性格は若いころから直らない。
頑張ったり、さぼったり。強気になったり、弱気になったり。
気を張ったり、気を抜いたり。太ったり、痩せたり。禁煙したり、また始めたり。
日記も書いたり、書かなかったり。自分には筋の通ったポリシーがない。
どっかで気を抜いてしまう。

それでもやらないよりはましかなと自分を慰めている。
こんな感じで、たいした病気もなく生きてこられた。
こんな人生もありかなと思う。いいかあ~、これが凡人の生き様だ。
これで長生きできれば、それもいいかなと思う。
居直ってしまう自分が情けない。よ~~~し。今日からまた減量しよう。
情けないけどしょうがない。やれるだけやってみることにする。

思い通りにいかないのも人生。太ったり痩せたりだって楽しい人生だ。
来年の衣替えの頃にはこの膨らんだ腹をすっきりさせてやる!

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