第26話 ママにならないママと猫

文字数 1,167文字

あれから1週間たった。子猫が教室の裏にだんだん近づくようになった。
以前より一段と動きがすばしっこくなっている。
教室の裏に大きめの猫ケージを用意した。
教室を帰る時に、猫ケージに餌やミルクを入れておいた。
朝来るときれいになくなっている。
このごろ昼間でも子猫が近付いてくるのがわかる。
母猫の近くに寄り添いながら近づいてくる。

教室は夜8時で終わる。
餌をコンクリートの地面と猫ケージに置いておく。
裏のドアを開けて様子を見ていた。
母猫が餌を食べ始めると一緒にそばで食べ始める。
私はパソコンに向かって知らないふりをしている。
子猫用のフードをパリパリ、カリカリ食べている音がする。
子猫は教室の中をチラチラ伺いながら食べている。

2匹の子猫は地面に置いてある餌を食べていた。
もう2匹の子猫は猫ケージの中で食べていた。
私が近付くとドアのそばの2匹の子猫は素早く逃げた。
ケージの中の一匹の子猫も素早く外に出た。もう一匹の白い子猫がケージに残った。
私は急いでケージのドアを閉めた。一番お気に入りの子猫を一匹捕まえた。

白い子猫は、ミャーミャーと泣き始めた。
母猫はケージの近くに行って子猫の様子を見ている。
母猫がゲージの間から手を伸ばし子猫をひっぱっている。
何か悪いことをしているようで後ろめたい気持ちになった。
それでも子猫にとってはこのほうがいいだろうと思った。
ケージの中に水や餌をたっぷり入れて家に帰った。

家に帰ってそのことを妻に話した。
「一匹、子猫を捕まえたよ」
「うそ、どこに。一匹だけ。かわいそうじゃない」
「いっぺんに4匹も捕まえられないよ」
「親猫はどうしているの?」
「ケージの近くでウロウロしているよ」
「じゃあ、ちょっと見てくるね」
「逃がすなよな、子猫にとってはそのほうがいいんだから」
「うん、逃がさないよ」

30分位して妻が帰ってきた。
「子猫なんていなかったよ」
「そんなわけないよ」
「ほんとうにいなかったよ」
「ケージの中から子猫が出られるわけないよ」
「ちいちゃいから、隙間を抜け出したんじゃない」
「そんなことあるわけないよ」
「私は逃がしてないよ」
「わかった。まいったなあ」

今朝、5時に教室に来てみた。ケージの中には子猫はいなかった。
どっちがいいのか私にはわからない。
どちらにしても、ママにならない子猫と妻だ。
もう子猫に執着するのは止めようかなと思っている。
気になって寝不足でネコんでしまいそうだ。

まだ当分悩みは続きそうだ。
今までの私は猫なんて少しも興味ありませんでした。
なぜこの白猫は自分に擦り寄ってくるんだろうと思っていたんです。
面白半分に自分の食べていたパンや牛乳を少しあげたくらいでした。

猫はニャーとしか言えない。でもそれぞれの鳴き声に感情がこもっている
私は何も言わない猫から幸せをもらっている。

妻だって、文句言わずに慕ってくるだけなら可愛いのに。


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