第73話 世の中には神も仏もいない

文字数 1,102文字

元旦の朝 3:00に起きた。天気予報では元旦の朝は曇りといっていた。
元旦の日の夜空には星が出ていた。初日の出は見られると思った。
昨年の願いはほぼ叶っている。宝くじで1億円などという願いはしない。
みんな身の回りの事をご来光にお願いする。今年は昨年以上に願いが増えている。
6時に荒川の土手に向かう。分厚い雲が東の空を覆っている。

7時前頃から雲がかすかに赤くなってきた。南の方にはぼんやりと富士山が見える。
雲がどんどん赤くなり始めている。太陽の光が東の空をオレンジ色に変えていく。
その中心は眩しいほど黄色く輝いてきた。雲が厚い。太陽の輪郭だけが光っている。
ぼんやりとしている太陽でも私には十分だった。

願い事を何回もつぶやいた。
自分の健康、家族の健康、思い出す人の健康、教室の繁栄
そのほかいくつかの小さな願い事をつぶやいた。
欲がなければ楽しく暮らせる。かっこよく生きようとしなければ気楽に過ごせる。
深く考えなければ悩む事はない。どうにもならない事はくよくよ考えない。

・・・そうやって自分に言い聞かせる。
去年のご来光は快晴できれいだった。今年のご来光は曇りで優しかった。
来年の元旦が雨だったら次の日にすればいい。

次は神社に行って初詣して神頼み。それからお寺に行って仏様に願い事。
携帯電話が欲しいという願い事はなくなった。今ほしいものはアイパッドです。

それから人に言えない願いが一つだけ。それは叶わなくてもいいんです。
思っているだけで楽しくなるんです。
雲の奥から輝いていた元旦の太陽はまた今日も東の空から上ってきます。

自宅の机の前に生徒募集チラシが貼ってある。
1ヶ月もかけて心をこめて作った力作だ。
何回も何回も見直してできた希望のチラシだ。
誇らしそうに娘に見せた。

「どうだよくできたろ」
「うんいいんじゃない」
「これで今年も受講生でいっぱいになるよ」
「おとうさん。20%FFってなに」
「20%OFFって2割引のことだよ」
「じゃ20%FFってなってるよ、オーが抜けているよ」
「うわ~、あれだけ見直したのに」
「いいんじゃない、なんとかわかるよ」
「もう印刷屋に頼んじゃった、間に合わないな」
「お父さんってどっか抜けているね」
「ま、いっか」
「しょうがないんじゃない」

あれだけ見直して誤字脱字も見たのに。妻にだって何回も見直してもらったのに。
友達にも見せて印象を聞いてみたのに。専門の人にも見せたのに。
業者にだって誤字脱字がないか確かめたのに。誰も私の事には関心がないんだ。
さらっと見ただけなんだ。

世の中には神も仏もいない。この1年間が思いやられる。
1月11日に恥かしいチラシが出る。もう諦めるしかない。
ボケてきたのかもしれない


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