第66話 勘違いでの言い争いが多い

文字数 1,743文字

今まで私は風邪ひいたことがなかった。
この何日か少し体調が悪かった。
少し咳が出る。少し体がだるい。少し頭が痛い。おなかも少し痛い。
「風邪薬を出してくれる?」と妻に頼んだ。
妻は間違って薬箱の中から胃腸薬を持ってきた。
私はそれを胃腸薬だと知らずに飲んだ。
・・・・今朝はすべてが直っていた。
「夕べは風邪薬ありがとう。すっかり良くなったよ」
「ええ? あれは胃腸薬だよ。おなかが痛いって言ったんだよ」
「俺は風邪薬って言ったんだよ」
「どっちでもいいじゃない、治ったんだから」

夕飯の時も妻と言い争いになった。
「これ、何か味がおかしいよ」
「風邪でもひいているんじゃないの?」
「やっぱりこれまずいよ」
「まずかったら食べなくてもいいよ!!」
「このカレーいつもの味と違うよ!!」
「それカレーライスじゃないよ、ハヤシライスだよ」
「今日の夕飯は俺の好きなカレーだって言ってたじゃないか!」
「カレー粉がなかったのよ!」
「楽しみにしてたのに」
ハヤシライスだと思って食べると、おいしいハヤシーライスだった。
少し茶色いカレーだなと思ったが、まさかハヤシライスだとは思わなかった。
同じ物でも気持によって味がまるで違う。

桶川市から約50km西に行くと寄居町という所がある。
そこから小高い山に向かうと風布川がある。
風布川は、岩から染み出す湧き水が源流となっている。
釜伏山の岩肌から湧きだしてくるこの水は全国名水百選に選ばれている。
日本水(やまとみず)として名高い。
日曜日、朝4時に起きてその水をもらいに行く。
10リットルのポリタンク2本を一杯にしてくる。
往復3時間の大変な作業で手に入れる。この行動だけでも充実感に満たされる。
この水をペットボトルに移し替えて冷蔵庫で冷やす。
山の中で充分に濾過された水は水道の水とは比べ物にならない。
そのまま飲んだり、お茶やウィスキーの水割りに使う。
この水が実にうまい。はらわたに沁み渡る。幸せな気分になれる。

仕事が終わった後、いつも一杯の名水を飲む。
「やっぱり名水はうまいなあ」
「そう、そんなにうまい」
「水道の水とは比べ物にならないよ」
「今飲んでいる水は水道の水だけど」
「寄居の名水はどうした?」
「昨日で終わったよ」
「このペットボトルの水は?」
「水道の水だけど?」
「ええ、嘘だろう・・・・?」
妻と娘が台所でクスクス笑っている。

名水を取りに行く作業はその日で終わりにした。
水道の水も寄居に水も、気持ちの持ち次第だった。
それからは水道の水で水割りを飲んでいる。
妻と娘は自分の飲む水は有料の「アルプスの水」から注いでいる。
あの白い野良猫にもペットボトルのおいしい水を飲ませている。
まあいいか。思い込みで味も違う。

それから、埼玉県吉見の道の駅に行った時でした。
そこで農産物のみかんを売っていました。
ザルにいっぱいに、味見をするみかんが置いてありました。
老年夫婦がそのみかんを味見していました。
「うわーすっぱい」といいました。
農家のご主人さんは「まだ出始めだからね」といいました。
老夫婦はみかんを買いませんでした。

その隣のテントでも同じようなみかんの味見が置いてありました。
私も興味本位で味見をしました。
「まだすっぱいんですね」
「うん、この出始めのすっぱいみかんが好きな人もいるんですよ」
「そういわれてみれば、そうですね」

私は一袋買って家に帰りました。
「みかん買ってきたの」
「うん、うまいから食べてみな」
「うぇ~すっぱい!」
「このすっぱいのが好きな人がいるんだよ」
「馬鹿みたい、屁理屈ばっかり言うんだから」
「砂糖をかけて食べなよ」
「それじゃミカンじゃないじゃない」
「おまえ、レモンが甘かったら買うか?」
「レモンはすっぱいほうがいいのよ」
「ミカンだってレモンだって同じ柑橘類だよ」
「よくそこまでいうわね」
妻と言い争いになりました。

同じような形をしていても、甘いものとすっぱいものがある。
農家のご主人の「すっぱいのが好きな人がいるんだよ」
この言葉にえらく感心してしまいました。
営業の原点がここにあると思いました。
言葉一つで売れたり売れなったりする。

同じことでも思い込みやかん違いで全く別物になってしまう。
人との会話や生活の中にも同じような事があるような気がする。
勘違いで言い争いになる事が多い。気を付けよう。




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