第55話  誰でも諸行無常な人生です

文字数 4,104文字

遠い昔、鴨長明が書いた方丈記
「ゆく河の流れ」を暗記した事があります。
この頃その文章をよく思い出します。
それも悲しい事があった時に思い出します。
人生のはかなさを感じさせる名文です。

ある日、教室で面倒を見ていた白い猫がなくなりました。
教室へ来てから約十年の生涯でした。
教室の裏で眠るような顔でなくなっていました。
・・・・・・ゆく河の流れは絶えずして
・・・・・・しかももとの水にあらず
・・・・・・よどみに浮かぶうたかたは
・・・・・・かつ消えかつ結びて
・・・・・・久しくとどまりたるためしなし
「諸行無常」を感じます。

どこかで人が亡くなりどこかで人が生まれる。
何かが始まり何かが終わる。
嬉しい事もある。悲しい事もある。
嫌な事もある。楽しい事もある。
健康な時もある。病気になる事もある。
しかしいつまでも同じ状況が続く事はないのです。

こうした「諸行無常」の人生をはかなく思う事もあります。
また「諸行無常」だから長い人生を生きていけると思う事もあります。
嫌な事、悲しい事をいつまでもくよくよ考えているのは不幸です。
いつまでも落ち込んでいられない。時が過ぎれば又元気を取り戻します。

冷たい雨が何日も続けばそのあとにはカラリとした青空になります。
どんな事もいつまでも同じ状況はないのです。
ひと眠りすればまた新しい明日がやってきます。
年相応、身分相応に過ごせば明日もまた楽しい日がやってきます。
どんなふうにすごしても行きつく先はみんな一緒です。
みんなで明るく流れに合わせて進んでいきましょう。

私は毎年断食をします。昨年は成田山新勝寺で1週間の断食をしています。
名目は精神修行なのですが、本心は減量です
通常の生活の中でのダイエットには限界があります。
断食前1ヶ月は少しずつ、食を減らしていきます。
最後の仕上げを断食道場行って、水だけで1週間を過ごすという修行します。

意志の弱い私はこうした環境の中でなければ目的を達成できないからです。
断食は思ったより空腹感はありません。ただ何もする事のない1日が苦痛なのです。
3食の食事のない1日は本当に長く感じられます。私は1日中散歩をして過ごしました。

散歩している間に考える事は、これから先の事、自分の生き方などが浮かんできます。
仕事の改善、性格の改善、人との付き合い方等。普段考えない事が頭の中を駆け巡ります。

やる事が無いので何か考えたり、体を動かしたりしていないと時間が進みません。
やる事が無い生活が一番つらいですね。何か老後の人生と似ているような気がします。
とにかく暇は私にとっては地獄です。
不動明王のご真言や般若心経を暗記してみたり、宮沢賢治の詩を暗記したりして時間を過ごしました。
日常の生活から離れて自分を考える事もたまには必要なんですね。
そういう中で将来自分の進むべき道も見えてきました。

だんだん年齢を重ねてくるとどうしても老化が気になります。
抵抗してもどうしようもない事なのですが、やはりボケるのは怖いです。
いつまでも若さを保って生き生きとした生活を続けたいと思っています。
世の中には羨ましいような元気で魅力的な老人がいます。
逆に明日にはあの世に行くのかというような元気のない人もいます。
それぞれみな自由な人生ですが、できればいつまでも生きのいい人間でありたいものです。

生きのいい老人の共通している所は生涯現役だと思います。
仕事、趣味、お稽古ごと、ボランティア等何かを精いっぱい頑張っている人です。
精いっぱい頑張る為には体を動かし、頭を使い、人と話をするという事が基本になります。
「もう年だからね」という言葉は脳の衰えを加速させます。
もちろん老化は止める事はできませんが、精一杯生きて脳の老化を遅くさせる事は十分可能です。

脳は喜びを感じるとよりよく働きます。
脳が喜びを感じられるようにするには、達成できそうな目標を立てることが大切です。
何でもいいんです。やろうと覚悟を決めれば脳がその方向に動き出します。
脳に命令されて、体が後から付いていきます。同じ体の中に上司と部下がいます。
一人が命令を出し、特に問題がなければ一人が実行します。
一人が創意工夫をし方法を考えます。一人がその通りに命令を聞き行動します。
どっちも本当の自分です。命令役は元気でポジティブである事が望まれます。
心と体がバランスが取れていると、ストレスもなく幸せな人生になっていきます。

新しい事に取り組む事、考える習慣を身につける事、毎日誰かと会話の機会をも持つ事です。
やろうと思えば、日記、短歌、俳句、川柳、音楽や映画鑑賞、麻雀、囲碁、将棋等色々あります。
そしてそれを継続する事です。これらが脳の活性化になります。
継続する事は確かに辛いことには違いありませんが、生きる為の仕事だと思えばできると思います。
それが毎日の充実感にもつながっていきます。

私の今の興味は「老後の人生を楽しく生きる方法」です。
せっかくこの年まで無事に生きてこられたのですから、これからはもっと楽しく暮らしたいと思います。
1.人を気にしないで生きる。
2.夢中になれる趣味を続ける。
3.いつも上機嫌な自分を作る。
4.健康管理を怠らない。
5.生涯現役等です。(特に収入がなくてもいい)

もう誰とも競争する必要のない年代ですから、マイペースでゆっくり進みます。
合わない人や嫌な事をできるだけ避けてストレスを少なくします。
さらに感謝し感謝される生き方をするという事も楽しい人生の条件です。
感謝するという行為は自分も相手の人生も楽しくしてくれます。
老後の生活に必要なお金は、分相応で生活すれば思ったほどかかりません。

元気で明るい健康老人が理想です。そのために、今できる事を色々実行しています。
体も頭も健康を保つためには何をしたらいいかを考えています。
体の健康は毎日の運動が大事な事は誰でも知っています。
頭の健康を保つ方法は人それぞれ色々な考えがあります。
ある医療法人のホームページに掲載されていた方法です。
「認知症予防の5つの対策」
1.毎日運動をして体を使う
2.新しい事を学習して頭を使う
3.指先を動かして脳を活性化する
4.笑顔で人と話して明るく生きる
5.日記をつけて記憶機能を刺激する

まとめると、パソコンで毎日日記を書くことが一番いいようですね。

心の健康は根が深くて対処法が大変です。
心とは考え方や生き方、人との関わり方等の精神面です。私はここが一番欠けています。
世の中には素晴らしい人がいっぱいいます。
そういう偉人や有名人の処世訓・名言等をいっぱい調べました。
そして、自分にできる事を真似しようと思いました。
多くの偉人の名言で共通している事があります。
「心の幸せは人の為になる事をする」なのです。
心の健康が一番難しいですね。

私は夏休みの1週間は「断食」ときめています。
いつもは成田山新勝寺でやっています。
ところが昨年から、70歳以上は入場が制限されて行けなくなりました。
昨年は仕方なく、夏休みの7日間を「自主断食」で過ごしました。
水分だけの完全断食です。体重は一時10kg減りました。
復帰食で4kgほど戻りました。自主断食は無理かなと思いましたが、思ったより楽でした。

成田山新勝寺では洗面道具以外の持ち込みは禁止でした。
さらに境内から外へ出る事も禁止されました。
飲むのは水道の水だけです。だから1日1日が暇でひまで。7日間がすごく長く感じました。

今回の自主断食も朝4時に起きて教室にきました。
そして夜10時に就寝という新勝寺の時と同じ条件で行いました。
しかし教室での自主断食は7日間があっという間に終わってしまったのです。
新勝寺では朝のお経の唱和以外は何もないのです。
だから1日やることがなくて、時間をもてあましました。
色々空想したり、過去を思い出したり、将来の事を考えたりするしかありませんでした。

教室にいるとパソコンがあり好きな事をして時間が過ごせます。
飽きたら自転車で公園や寺社に行って暇をつぶせました。
だからまたたく間に時間が過ぎて行きました。

しかしここに落とし穴があったのです。あとで一番大事なことに気が付きました。
今回の自主断食は減量だけの7日間になってしまったのです。
新勝寺の断食修行は携帯電話、ラジオ、スマホ、時計の持ち込みは禁止でした。
本や雑誌も持ち込み禁止でした。実はここが重要だったのです。
「食事」も「情報」もすべての日常まで断食する事が必要だったのです。
外から入るものはすべて断って内面を見つめなおし、
人間の本来の生き方を考える機会にしなければならなかったのです。

何もしない時間が必要だったのです。「無」が断食の基本精神だったのです。
それに気がついたのは自主断食が終わってからでした。

ある日私は頭の髪を剃ってしまいました。それから毎日、剃刀で髭をそるように剃っています。
年齢のせいで頭のてっぺんがはげて来たり、白髪が目立ち始めたりして気になっていました。
鏡の前に立つといつもため息が出ていました。

それまでは、朝起きると髪はクチャクチャでした。
それも薄くて少ないので、柳のように風に揺られて体裁が悪いのです。
外出の際は、多少の整髪料を付けドライヤーで整えます。
いくらやっても整わず、毎回ため息が出ていました。

そしてひらめいたのです。いっそ頭を剃ってしまおうと考えました。
その日から頭髪の悩みは無くなりました。
成田山新勝寺で毎日坊さんの坊主頭を見ていましたので、違和感がなく思いきれました。
さっぱりして気持ちがいいです。
しばらくは人からあれこれ言われましたが、1ヶ月もすると普通に戻りました。
誰も他人の事にはそんなに関心はありません。恥ずかしいのもいっときです。
その日から私の悩みが半分になりました。私にとっては一番大きな変化でした。

これを機に、人生が大きく変わったような気がしました。
髪を剃ったおかげで、心のほうも健康になったような気がします。
悩みごとの一つや二つは毎日のように湧いてきます。いつまでも悩んではいられません。
「人生は諸行無常」と考えれば少しは気が楽になります。
「まあ、いっか」ひと眠りすれば、明日はまた新しい1日だ。

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