第103話 動けるうちは働いてみたい

文字数 2,315文字

70歳を過ぎた時、これから老年に向かう為の心構えや目標を決めようと考えました。
「老年」「老後」のキーワードをもとに関連する本をネット通販で集めました。
近くのブックオフや書店では4~5冊見つけるのに相当な時間がかかりました。
ネットでは大概のものがすぐに見つかります。しかも2~3日の内に配送してくれる。
「ネットオフ」でリストアップを始めると、5~600冊の関連本がヒットしました。
「題名」「作者」「価格」で絞り込み100冊ほど発注しました。
中古本なので100円~300円程度のものにしたのでいくらもかかりませんでした。
入荷した本は、中古本と言ってもほとんど新品に近いきれいな本でした。
100冊の本を教室の窓辺に並べてみました。横の並べると3m位になりました
新しい人生の情報がこの中にある。この中で自分の人生のヒントが見つかる。
僅かな金額で自分の将来の人生計画できるなと、ずいぶん得な気分になりました。

暇を見つけては読み漁り、大事な所に線を付けたりメモしたりして読み進めます。
さらに感動した所や参考になる所は、ネットで細かく調べ「エクセル」にコピーをする。
私には人生論や哲学的な考えはない。能力的にもともとその素質はないのです。
今までの人生も、先人の教えをもとに真似してきた人生なのです。いわばパクリです。
大事な所は「エクセル」にあるので、読み終わった本は、みんな生徒に差し上げました。

100冊の中では、五木寛之『林住期』が一番参考になりました。
人生を4つに区切るインドの考えで「四住期」という考え方が紹介されていました。



第1ステージ:学生期(がくしょうき)
8歳頃~25歳頃が学生期になります。身体と精神を鍛え、生きるための術を学ぶ時期です。一人前の人間として確立しておらず、さまざまな学びを通して独り立ちを目指します。

第2ステージ:家住期(かじゅうき)
25歳~50歳頃、も家住期と呼びます。この年代を迎えると社会人としての力を備えます。
結婚して、家族を養う責任が生まれ、貯蓄にも意識が芽生えます。

第3ステージ:林住期(りんじゅうき)
50歳~75歳頃になると、林住期に入ります。
家住期で家族や社会のために働いた人も、林住期ではその役目を終ます。
古代インドでは、社会的な義務や家族とも離別して、林の中で修行や瞑想をすると言われます。

第4ステージ:遊行期(ゆぎょうき)
75歳からは、四住期における最後のステージである遊行期に入ります。
人生の終焉に向けて準備をする時期です。
この世に対する執念をなくし、巡礼を通して死ぬ場所や悟りを求めます。

確かに私にも「四住期」と同じように25年毎に大きな人生の節目がありました。
学生期(がくしょうき)には生家の貧困から抜け出そうと夢中で勉強しました。
家住期(かじゅうき) には結婚をして夢中で家庭を支えました。
林住期(りんじゅうき)にはリストラで会社を辞め、30日間の断食から始まりました。

パソコン教室を始めたのがちょうど50歳の時でした。
途中で何回か廃業の危機もありました。
その時も関連する著書を集め創意工夫して、何とかここまでやってこられました。
振り返れば「やや幸せ」な人生でした。
老後の貯えも、贅沢しなければ何とか生きられる程度になりました。
夢中で働いてきて24年間経ちました。もうそろそろ廃業と思っている時期です。

いよいよ遊行期(ゆぎょうき)を迎えます。
これからは私に一番不足している「人間性の成長」を心がけようと考えています。
人に対する優しさと、人に対する感謝の気持ちが私には不足しています。
いまだに自分の「人間性を向上」させる方法が見つからないのです。
他人に対しては、感謝の気持ちや優しさも表面的にはできています。
ただこれは、学習による世渡りの術として身に着けたもので本物ではありません

どうしても私の悪い本性が妻に向いてしまいます。
家に帰ると、態度や言葉などのささいな事でも夫婦喧嘩の原因になります。
教室があるうちは、夫婦どうしの話をする余裕がないので表面的には平穏です。
廃業後の夫婦二人だけの生活を考えると、穏やかで楽しい未来が見えてきません。
お互いの自我のぶつかり合いで激しいバトルが予想されます
何とかしないと、穏やかで楽しく幸せな日々は送れないような気がしています。
遊行期は人間性向上の「修行の場」と 考えて過ごすつもりです。

本当に一生楽はできないですね。一番身近に最終的な「敵」がいたのです。
その敵は年々老獪になり、巨大化して成長しています。
何もしてないのに怒られる時もあります。
思い当たらないのに機嫌が悪い時もあります。
昨日は「起きたら自分の布団くらいはたたんでよ」と言われました。
今朝は「自分の茶碗くらい洗ってよ」~~~悔しくて泣きたくなります。
家にいても気が休まらないから、日曜日でも朝から教室にいます。
この教室が一番気の休まる安住の地になってしまいました。
離婚をすればいいのかなとも思いますが、それでは人間性の向上にはなりません。
一生をかけて、命がけで妻や家族を守ると決めた、男の決意が達成できません。

「あんたでよかった。良い人生だったね」言わせてみたいのです。
老化現象は色々な所に出始めていますが、全体的には心身ともに健康です。
まだまだ教室を続けなければならないかもしれません。

75歳からは「老年世代のパソコン教室」を企画しています。
無理もせず。欲もかかず。来た人に知っている事を教えて過ごそうと思います。

人は夢や目的があるうちは働けるような気がします。
人は少しでも脳や体が動けるうちは働けるような気がします。
働いていると病気に気が付かないで最期を迎えられような気がします。




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