第87話 老後の暇のつぶし方

文字数 1,811文字

仕事があったり、趣味やボランティアしたり等で、やることが事あるうちは「幸せ」です。
老いて体や頭の自由がきかなくなってくると、1日中何もやる事がなくなりそうです。
本ボケならあきらめがつきます。介護施設にでも入ります。
病気なら仕方がない、病院に入って静かに寝ています。
半ボケが一番困ります。自分はボケてなんかいないと思い込みます。
老化して力がなくなり、なんとなく動くのがしんどいという状態も困ります。
目指すは健康老人ですが、誰でもなれるものじゃありません。
日ごろの健康管理と、事故や自然災害などの運命のようなものがあります。
遺伝や病気などのどうにもならないものもあります。それは例外とします。
仮に健康老人になれたとしても、老後を生きるための暇のつぶし方が問題です。
何の責任もない年齢になりますから、特にこれといったやる事がありません。

忙しい時代には、暇な時間が欲しいと思っていました。
1日中何もしないでゆっくりしてみたいと思いました。
たまには旅に行って温泉でも浸かってみたいなあと思いました。
懐かしい映画も見たい。カラオケにも行ってみたいと思いました。
友達とおしゃべりもしたい。ゆっくりと本でも読みたいと思いました。
暇になったらやろうと思う事が、結構たくさん出てきました。
でも、遊びや趣味もたまにやるからいいのであって、毎日、1日中、じゃ苦痛です。
教室も年齢とともに受講生も減り、だんだん暇な時間が多くなってきました。
今は仕事中の暇だから、安心してゆっくりできます。ちょうどいい忙しさです。
廃業して、1日中やることがなくなったらと考えると、急に不安になってきました。

今は、この教室に朝6時に来て夜は9時までいます。
妻には悪いけど、教室のほうがゆっくりできます。リラックスして過ごせます。
食べたいときに食べ、飲みたいときに飲み。暇な時には居眠りするのも自由です。
平日は、1日に10人以上の生徒がやってきて、面白おかしく過ごせます。
でもいつまでもこの教室が継続することはありません。
いつかは廃業して、妻と一緒に自宅で過ごす事になります。
何年か後には、1日中家にいることになります。妻はまずまず元気です。
妻が1日中ずっと目の前にいるなんて考えられません。想像できません。
できれば、この教室にいる状態を家庭でも作りたいと思います。

1日中妻と顔を突き合わせていると、100%の確率で夫婦げんかが起きると思います。
自我が強い2人が、すんなりと平和に暮らす事は考えられません。
家では肩身が狭くて「幸せ」な気持ちにはなれません。
「早く食べてよ、片付かないじゃない」
「朝からビールなんて飲まないでよ。うちはそんな裕福な家庭じゃないんだよ」
「下着は毎日取り換えてよね、臭いよ。そうじゃなくても加齢臭がひどいんだから」
「布団くらい自分でたたんでよ。私は家政婦じゃないんだよ」
「働いてないんだから、互いに今は平等だよ。たまにはトイレ掃除でもしなよ」
「散歩でも行ってきなよ、ずっとパソコンの前にいるんじゃ体に悪いよ」
「昼ご飯くらい、外で好きなものを買って食べなよ。3食用意するんじゃ大変だよ」
・・・・・・等が想像できます。

対策を考えました・・・お互いの主権と人権を守る法律を作ります。
1)各自の部屋には勝手に入らない事。
2)私が何をしても文句は言わない事
3)ああだの、こうだのと命令しない事。
これだったら家にいてもお互いの自由が守れそうだ。
今まで通り「老後の幸せ」が得られそうだ。

この教室を廃業したら、この3原則を壁に貼って、家の中に自分の城を作ろう。
あ、そうだ。私の部屋にカギを付けてもらおう。

家に帰って、妻に「幸せの3原則」を渡した。
「これいい案だろう。お互い気が楽に過ごせるよな」
「あんたがここを出ていけば、すべて解決するよ。いつでもハンコを押すよ」
「ギャフ~ン。あの~俺の介護は誰がするんだい」
「市役所に電話すればいいんじゃない。介護施設にでも入れば」
「お金がかかるだろ~。そんな余裕はないよ」
「じゃあ、今まで通り、あたしの言う事を素直に聞きなよ」
「少しは自由を認めてくれよ。今まで一生懸命お前のために働いてきたんだよ」
「あたしがいたからできたんでしょ!」
「そういわれればそうなんだけどさ。部屋の鍵だけでもなんとかならない?」
「馬鹿言ってないで、早くご飯食べて、風呂に入って寝な!」

「老後の幸せ」がどんどん逃げていく・・・・・・・・・・・・・。
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