第67話 嘘と矛盾だらけの日常

文字数 1,766文字

情けないけど私は嘘ばっかり付いている。
ついつい娘には簡単に嘘をついてしまう。
「お父さん、オナラしたでしょ」
「俺じゃないよ、していないよ、お母さんだろ~」

私も客商売。おじさんの加齢臭はできるだけ避けたい。
「お父さん、私のオーデコロン使ったでしょ」
「使っていないよ」
「なんか私と同じ匂いがするんだけど?」
「気のせいじゃない」
「あれ高いんだからね」

私は禁煙したりしなかったりしている。意思が弱い。
「お父さん、タバコやめるって約束したよね」
「うん、もうしばらく吸ってないよ」
「じゃあ、あの机の上のタバコとライターは何?」
「あれは、お客さんの忘れ物だよ。明日返さなくっちゃ」

妻にはもっと嘘をつく。
「お父さん、今日入った女の人好きなタイプでしょ」
「う~ん、ちょっと違うな。お前のほうがいいよ」
「お父さん、立ってオシッコしたでしょ。やめてよ」
「ちゃんと座ってしているよ」
「ちゃんと音でわかるんだから」
「間違いなく座ってしました。今度見ていたら?」

私の晩酌はビール1本に限定されている。
「お父さん、きのうビール二本飲んだでしょ」
「飲んでないよ」
「冷えてないビールなんて、うまくないでしょ」
「知らないよ・・」
「ちゃんと本数数えてあるんだからね」
「あとね~、夜中に冷蔵庫のもの食べないでよ」
「食べてないよ。夜中に起きてるわけないだろ~」
「あのソーセージ。今日の弁当のおかずにするんだよ」
「食べてないよ、よく探してみろよ、勘違いしてないか?」

私のうちは私がお風呂は一番最後、たいがいは寝てしまうので朝はいる。
「おとうさん、湯船の中で頭を洗ってないよね」
「洗ってないよ、なんで?」
「お湯を流すとき、短い髪の毛がいっぱいなんだよ」
「俺じゃないよ、そんなに髪が多くないよ」

生徒には営業として嘘をつく。
「先生、ここまだ教えてもらっていないですよね」
「ええ、そこ抜かしてしまったみたいですね」
「先生、私ほんとに物覚えが悪くてすみません」
「そんな事はありませんよ、この教室ではできるほうですよ」
「いつごろまでに覚えられますか」
「もう少しすれば、びっくりするほど上手になりますよ」
「ああよかった。そうですか、何とかなるでしょうか」
同じ会話でもう2年も続いている。

自治会の集まりなどには、もっとすごい嘘をつく。
「今度の自治会は出られるでしょうか」
「すいません、その日は親父の法事があって都合が付きません」
前回は親せきの結婚式だった。その前は田舎の親父の告別式だった。

1日のうちの半分以上は嘘を付いているような気がする。
いつからこんな性格になったか覚えていない。
不思議なのは嘘をついても反省の意思がないことだ。
ここの日記も作品も嘘か本当か自信がなくなってきた。
ただ、自分自身には嘘をつかない自信はある。

もしかしたら、小説家の素質があるのかもしれない。
私は9割以上嘘をついているような気がする。

嘘をつくだけではなく、矛盾だらけな自分に嫌気がさしてくる。
矛盾という言葉がある。『韓非子』の中に出てくる。
「この矛はどんな盾も突き通します」
「この盾はどんな矛も防ぎます」といって武器を売っている商人がいる。
お客から「その矛でその盾を突いたらどうなる」と問われ答えられなかったという。

教室へ行く道すがら煙草を吸いながら歩いていた人がいた。
手には携帯式の灰皿を持っている。吸い終えた煙草を灰皿の中へ入れようとした。
その灰皿がいっぱいだったようだ。携帯式灰皿の中の吸い殻を道路に捨てた。
そして今吸っていた煙草をその灰皿に入れていた。

何か矛盾がある。こういう事は自分の中にもいっぱいある。
昨日体重を落とそうとサウナに行った。汗をかき体から水分が減る。
2kgくらい減っている時もある。
サウナにある自販機で缶ビール1本飲む。うちに帰って、また缶ビール1本飲む。
翌朝体重を計ると前の日と変わっていない。

暑い夏にはクーラーをかけて寝る。部屋が寒くなって布団をかける。
ポテトチップを1袋買ってくる。体のために半分にしようと思う。
残すともったいないからと全部食べる。

知らないうちに矛盾だらけの自分になっている。
世の中の人って同じようなのだろうか、それとも私だけか。
あんまりたいした問題じゃなさそうだ。

今日の日記はあまりよくないな。消してしまおう。
いや、せっかく書いたのだからこのまま投稿してしまおう。

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