第102話 人生って不思議なものですね

文字数 1,847文字

妻に、70歳を超えたんだから車の運転はやめようと提案した。
「もしもの時はどうするの」と妻に猛烈な反対をされた。
「もしもって病院かい。もしもの時はタクシーでも呼べば」
「重い荷物の買い物はどうするのよ」
「お店のほうで運んでもらえばいいだろう」
「ドライブに行きたいときはどうするの」
「そこにレンタカー屋があるだろう」
車が必要ではなく。今まであったものが無くなるのが寂しいのだと思う。
説得するにはあと1年はかかるだろう。やむを得ないか。

もちろん私は車を使わない。免許証は証明書代わりに使っている。
今は「マイナンバーカード」を作ったので免許証がなくてもいい。

年老いてくると、身体的にも精神的にも衰えていきます。
運動神経もとっさの判断力も失っていきます。
何かあってからでは遅いと思います。まだ何もないうちの判断と決断が大切です。
もし交通事故で相手を傷つけたならお金の問題だけじゃなく、一生悔みます。
「自転車が来るのを気がつかなかった~」と後で反省しても遅いのです。
毎日のように発生している老齢者の事故は、他人ごとではありません。
うっかりしたり、気が付かなかったり、聞こえなかったりする事が日常になりました。
教室に来る老齢者の車はあっちこっちに傷がついたりへこんだりしています。
70歳はもう若くはない。何があってもおかしくない年齢です。
車を使って仕事している人は別ですが、それ以外は「あれば便利」だけの存在です。
妻もその事に早く気が付いてもらいたいと思っています。

「あれば便利」または「もしもの時」に使う車に年間20万円以上かかっています。
自動車共済37,000円 自動車重量税34,500円 駐車料金72,000円 
ガソリン代や修理等の維持費や雑費で年間300,000円としてもかなりの出費になります。
さらに車検があります。よ~く考えてみるとみんな無駄な出費だとことが分かります。
そのお金を老後の贅沢のほうに回してみれば、もっと豊かな気持ちになれると思います。

教室の収入は月に20万位まで落ちてきました。コロナの関係だからというのは簡単です。
体力や顔や姿の体裁も影響します。もう辞めてもいいかなという心境も影響しています。
それでもこの年齢になってもこれだけ稼ぐには、相当な創意工夫をしています。
その1か月働いた金額が、放置している車に浪費されるにはもったいない気がします。
幸い、今までの長年の貯えで普通の生活をしています。
でも無駄なお金が出ていくことは惜しい気がしています。

身の回りには無駄なものが結構あります。
あれば便利、なくても困らない。無くなると寂しいだけなのだと思います。
私はこの20年間で計画的に無駄な出費を無くしてきました。
新聞はパソコンでインターネットをみれば充分です。
固定電話は携帯があれば当然要りません。
生命保険は、たとえ今死んでも特に誰も困らない。かけるだけ無駄と思います。
癌と宣告されても、医療保険の範囲で病院に通います。延命治療は断ります。
「なければ困るもの」がだんだん減ってきている。
「あれば便利なもの」が人生とともに変化してきている。

年をとるとだんだんお金がかからないようになってきている。
海外旅行やお金のかかる趣味があれば別ですが、私はそういうものには興味がない。
高級料理もたまに食べるが、納豆や卵、キュウリや白菜のほうがうまいと感じます。
お酒やウイスキーでも、評判の高価なものをたまに飲んでみみましたが、
普段のものとあまり差を感じません。逆に普段飲み慣れているほうがうまいと感じます。
なんだか、生まれたころと同じような貧しい環境の生活に「幸せ」を感じます。
昔夢見ていた豊かな生活がいつでもできるのに、貧しい生活スタイルが落ち着きます。

人生って、不思議なものですね。
いくら頑張っても、社会でのステータスや生活のステージは上がりませんでした。
幸せを夢見て歩んできた人生そのものが、幸せだったような気がしています。
人生の岐路でどんな決断をしても、どんな道を選んでもこの教室に辿り着いたように思える。
運命の不思議を感じます。今ここが一番気持ちが落ちきます。天職を感じます
こんなに頑張らなくても、行きつく先は同じような「今日」だったのかもしれません。

それでもこの先の幸せを求めて進んでいきたい。

たった一人しかいない自分を
たった一度しかない一生を
ほんとうに生かさなかったら
人間生まれてきたかいがないじゃないか
・・・・・・山本有三

この言葉を苦しい時の心の支えとしてここまでやってこられた。

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