第69話 ままにならない時もある

文字数 922文字

ブログに思い出の日記を書きはじめた頃から
妻の機嫌のいい日と悪い日がはっきりしてきた。
家に帰ってもあまり口を聞いてもらえない日が多くなってきた。
ブスッとして、ろくに口を聞かない。

だんだんそのパターンが分かってきた。
初恋の人や、憧れの人を書いた日が不機嫌になる。
思い切って聞いてみた。
「なんで機嫌が悪いんだ」
「私には、あんな優しくしてくれたことがないよ」
「あんなって、何の事?」
「私は、金山で夜景を見ていないよ」
「昔の話だよ、お前と会うずっと前の事だよ」
「メトロンってどの子なのよ」
昔の写真を出してくる。
「お前と知り合う前のことだよ、気にすんなよ」
「でも、あたしよりきれいなんでしょ」
「まいったな~、少しは脚色しているんだからさあ」
「大分女の子にもてたようね」
「そんなことないよ、勉強で精いっぱいだったよ」
だんだん、初恋の人が作品に出なくなってくる。
だんだん機嫌が戻ってくる。

「甘酸っぱい青春時代」が完結した。
「今日で完結したよ」
「あ、そう、私のことはいつ書くの?よく書いてよ」
「まだ考えていないよ」
「生徒や近所の人も見ているんだから、変なこと書かないで」
「写真や絵じゃないんだから、よく書くってわけにはいかないよ」
「だったら、私のことは書かないでよね」
「お前の悪妻ぶりを書いたらみんな喜ぶだろうな」
しまった~~~~~~

言ってはいけないことを言ってしまった。
謝っても取り返しがつかない。それから口をきいてもらえない。
今日は教室に行かないという。妻(ママ)ほど‘ままにならない’ものはない。
思い出くらい自由に書かせてもらいたい。
思い切り、面白いものを書いてみたい。

今日は一人で授業をやることになってしまった。
ああ、疲れた。やっぱりいてくれると助かるな。家に帰ったら謝ろう。
でも家に帰りたくないな。又何か言われそう。
娘が帰ってくるまで時間をつぶそう。
コンビニで酒とつまみ買ってきて、1時間ほど教室で時間をつぶした。
9時か、もうすこしでもう娘が帰ってくる頃だ。
教室でダラダラ一人酒を飲む寂しさ。
帰るのが怖い。いっそいつものスナックにでも行っちゃおうかな?
もっと怒られるだろうな?

自分の自由にならない世界が身近にある。
不幸って幸せな生活の中にも隠れている。

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