第52話  思い出すのは脳の活性化

文字数 1,822文字

こうして夜明けを待っている健康な自分がありがたい。
心配や悩みはストレスを生む。ストレスは病気につながる。
じゃあ悩まなければいい。人間みんな悩む。
じゃあどうする。昨日の悩みは昨日まで。
今日の新しい悩みは今日中に解決すればいい。
じゃあ残った悩みはどうする。明日の新しい悩みの一つにしておこう。
何事もいつまでも気にしなければいい。

父ちゃんは92歳、母ちゃんは87歳で亡くなった。
父ちゃんの亡くなった年齢まで生きるとするとあと三十余年ある。
会社に入社して定年までと同じすごい期間だ。
新しい事を始めるのに充分すぎる程長い人生がある。

30年あれば何だってできそうな気がする。
たいしたことはできないけれど、これからが自分の本当の人生だと思う。
これからの人生は悔いのないように楽しく生きよう。
自分で粗筋書いて、自分で脚本作って、自分で演出して、自分で主役を演じよう。
想像しただけでも面白そうだ。いろんな自分を発見してみたい。
恥かいたって、いっときのこと。笑われたってたいした事じゃない。
今までこのへんが邪魔して何もできなかったんだ。
もう出世なんて考える必要もない。
人に指をさされない程度の楽しい遊びを見つけよう。
これからだよ、面白くなってくるのは。
何人かの人を除いて誰も文句言う人はいない。

そのためにはボケないようにしよう。でもボケは自分では気がつかない。
気づかずにボケたらそれはそれであきらめよう。
ボケない努力は今からでも実行していこう。
それには脳と体に常に新しい刺激を送り続けることだ。
まずは、笑いのある生活をする。次は生活をずぼらにしない事。
そして創意工夫で脳を鍛える事だ。筋肉でも脳でも鍛えた所は強くなるはずだ。
特に笑う事は酸素等の補給がよくなり脳細胞の働きが活発になる。
ストレスがなくなり若返る。しわの予防や肥満の防止にも効果があるという。
こんな事を考える事自体が老け込んでいるのかもしれない。

人ごとではない。年齢という事実を見なければならない。
それから、適度な運動で体に刺激を与えること。
あと、脳の活性化のために思い出す訓練もしよう。
今、こうしてブログを書いている時もそうだ。
ひとつ思い出すとその周りの光景がだんだん蘇ってくる。

今から60年くらい前、私は群馬県の太田市という片田舎で生まれた。
小学校1年の頃だったかな。毎日、毎日苦しい仕事があった。
井戸の水をバケツに汲んで、それをお風呂に運んでいく。
井戸からお風呂まで20m位あった。苦しかったな。
それをしないとご飯を食べさせてもらえなかった。
往復120回くらいで、浴槽が一杯になる。1時間くらいかかったかな。
風呂の栓を閉め忘れてなかなか溜まらない時もあった。辛かったな。
前の日の湯を半分くらい残しておいて、そこに新しい水を足した事もあった。
父ちゃんが怒ってた。
「なんか今日のお湯、クセエな~」
「うん、そんなことないよ、ちゃんと入れ替えたよ」
「たかし、おめえ、なんかずるしなかったか」冷や冷やしたな。

ある時、村に水道を引く話があった。市が村民に希望者を募集した。
村に一斉に入れるので市が半額負担をするという話だった。
これでやっと開放される。これでお風呂の水運びが終わった~~~~。
その夜、父ちゃんと母ちゃんが喧嘩している。水道のことだった。
父ちゃんは「まだ井戸で充分だよ、井戸が壊れたら考えんべえ」と言う結論だった。
父ちゃんには逆らえない。そこで子供なりに反論を考えた。
「あとから一軒で水道を引くとなると、お金が相当かかると思うよ」と言った。
しばらくまた夫婦喧嘩をした。そしてやっと水道を引くことになった。

それから5年ぐらい経った時、今度は電話をひく話があった。
父ちゃんは「俺は電話なんか使わない」という結論だった。
6年生だった私は怒られない程度の反論を考えた。
「電話がなければ仕事が出来なくなる日が来るよ」
「先の事まで考えることはねえ、今がよければそれでいいじゃねえか」
「家賃を払えない時だって電話一本で、頭を下げて断りに行かなくてもいいんだよ」
また、夫婦喧嘩の後に電話もひく事になった。
当時は水道も電話も特に必要のない時代だった。

ひとつの言葉が結論を逆転する。言葉って力があるんだなと感じた事があった。
一言で未来の姿も変えられる。
それは、今じゃなくてこの先どうなるかという事なんだ。
父ちゃんがその言葉ではっと気が付いたんだ。

今、自分がその父ちゃんの年齢に入っている。気を付けなくっちゃいけない。

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