第9話 田舎の町の洋館と憔悴しきった朔

文字数 815文字

 さびれた田舎町の中で、石造りの洋館は異彩を放っていたので、そこで間違いないことはすぐにわかった。だが、いくら呼び鈴を鳴らしても反応がない。
 朔は、ここにはいないのかもしれない。ではいったい、どこに行ってしまったのだろう。彼の実家があった場所は、すでに更地になっているし、ほかにどこを探せばいいのか……。
 玄関の前で途方に暮れていると、ゆっくりとドアが開き、憔悴しきった様子の朔が立っていた。
 
 
「朔ちゃん、心配したんだよ!」
 思わず、責めるような口調になってしまう。
「ごめん……」
 青い顔をした朔は目を伏せ、半開きのドアの向こうに立ち尽くしたままだ。
「入ってもいい?」
「あぁ」
 望の言葉に、彼はようやくドアを開けながら脇によけた。奥に進みながら、望はあちこち見回す。
 洋館は、室内の意匠も美しく広々としているが、荷物が運び込まれたままで雑然としている。朔はいつからここにいるのか、ちゃんと生活出来ているのかと心配になる。
「朔ちゃ……」
 望が振り返ったのと同時に、朔がふらりとよろけて、壁につかまった。
「大丈夫!?
 
 
 貧血を起こした朔の体を支えながらソファまで連れて行き、横にならせた。どうやら、まともに食事をしていないらしい。
 両親が亡くなったときでさえ気丈にふるまっていたのに、いったい何があったというのだろう。冷蔵庫をのぞいてみたが、飲み物しか入っていなかったので、来るときに見かけたスーパーまで食材を買いに走った。
 そして戻って来ると、キッチンにあった、まだ荷解きをしていない段ボール箱から鍋や食器を出して、買って来たパック入りのご飯でお粥を作った。
 
 
「ごちそうさま。おいしかったよ」
 ソファの上でお粥を完食した朔が、ペットボトルのお茶を飲んで言った。
 横に腰かけた望は、その横顔を見つめる。少し顔色が戻ったようだ。
「よかった。さっきはびっくりしたよ」
「ごめん」
「謝らなくてもいいけど、何があったの?」
「それは……」
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