第50話 野山の私邸と野山の心配と蜂須の話

文字数 782文字

 その日、朔は蜂須とともに野山の私邸を訪れた。
「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
 野山に向かって挨拶する蜂須の隣で、朔も頭を下げる。
「おめでとう。こちらこそ、よろしくお願いします。朔くんは、おめでとうじゃないけどね」
 野山が、朔に向かって微笑みかけた。当然ながら、彼は朔の複雑な事情や、去年両親を亡くしたことも知っていて、いつも何かと気にかけてくれる。
「いらっしゃいませ。どうぞお入りください」
 四十代の野山と同年代に見える夫人が、にこやかにスリッパを勧めてくれる。
 
 庭木のある広い庭に面したダイニングルームに通されると、夫人がテーブルに料理を並べ始めた。座ったばかりの蜂須が、立ち上がって言う。
「奥様、お手伝いいたします」
「まぁ、そんな」
「いえ、ぜひ」

 二人のやり取りを見て、年少の自分が手伝うべきなのではないかと思っていると、野山に声をかけられた。
「年末年始はどうしていたの?」
「えぇと、いつも通りです」
 野山が眉を上げる。
「まさか、一人で過ごしたのかい?」
「はぁ。叔父の家で過ごすように誘われたんですけど……」
「断ったの? そんなに仕事が忙しいの?」
「いや、そんなこともないですけど」
 菜月と過ごすことを期待して、フライングして断ってしまったことは、もちろん言えない。
 
 野山が、料理の載った大皿を運んで来た蜂須に言った。
「僕が言えた義理じゃないけど、朔くんに仕事をさせ過ぎじゃないのかい? まだ未成年なんだから」
 朔はあわてる。
「いや、そんなことないです」
 すると、蜂須が言った。
「去年いっぱいは、受けた仕事がたくさんあって、朔くんにもずいぶん無理をしてもらってしまいましたけど、朔くんには、これから話そうと思っていたんですが、今月からは調整もうまく出来て、ぼちぼち学校にも通ってもらえるかと思います」
「それならいいけど」
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