第90話 おろおろする望と謝る緒川と「お渡ししたいもの」

文字数 512文字

 だが、朔は、片手で目元を押さえてうつむいてしまった。
「朔ちゃん?」
 緒川も、心配そうに言う。
「すいません。私、余計なことをベラベラと」
 朔は、黙ったまま首を横に振る。墓を目にしただけでも、朔は大きなショックを受けているようだったのに、今の話は刺激が強すぎたのではないか。
 
 
 なんと言っていいかわからず、ただおろおろしながら見つめていると、やがて朔が、小さくつぶやいた。
「すいません」
 緒川が言う。
「いえ、私こそ、無神経でごめんなさい」
「いえ……」
 朔が、うつむいたまま、目元から手を外して言った。
「彼女の話が聞けて、うれしいです」
「そうですか」
 緒川がほっとしたように言い、望もほっとして、冷めかけたコーヒーに口をつける。
 
 それから、さらに緒川は言った。
「実は、お渡ししたいものがあるんです。よろしければ、これからうちにいらっしゃいませんか?」
「朔ちゃん、どうする?」
 だが、朔は望を見て言う。
「でも、疲れてるだろう。今日はずいぶん歩いたし」
 すると、緒川が言った。
「今日はこのままお帰りになるんですか?」
「いえ。今夜は、駅の近くのビジネスホテルに泊まります」
「それなら、後ほどそちらにお持ちします。ご迷惑でなければ」
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