第37話 一つのベッドで寝ることと翌日もくつろいだ様子で午後まで過ごすこと

文字数 614文字

 その日、数年ぶりに会った望は、なし崩し的にマンションに泊まることになった。シャワーを浴びた後、朔のパジャマを着た彼は、朔のベッドを見て言った。
「そのベッド、セミダブルってやつ?」
「あぁ」
 すると彼は、事もなげに言ったのだ。
「僕もそこで寝る。大きいから二人でも余裕でしょ」
「えっ!? ソファで寝るんじゃ……」
 だが望は、さっさと近づいて行って、ベッドにあお向けに寝転がる。
「昔も一緒に寝たことあったよねぇ」
 でもそれは、二人とも小学生だった頃のことだ。お互い体も小さかったし……。
 
 呆気に取られて立ち尽くしている朔に、望は笑顔を向けて言った。
「このベッド、気持ちいいねぇ。あー、眠くなっちゃった」
 朔が、望がソファで使うはずだったタオルケットを手にしたまま憮然としていると、本当に眠そうな顔をして、彼は言った。
「朔ちゃん、寝ないの?」
「いや、寝るけど……」
 結局朔は、我が物顔でベッドに横たわり、満足そうに目を閉じた望の横にそっと体を滑り込ませ、遠慮がちに身を縮めて朝まで寝たのだった。
 
 
 望は、翌日も、すっかりくつろいだ様子で午後まで過ごし、夕方近くになって、ようやく帰路に着いた。最寄りの駅まで送って行った朔に、彼が言った。
「これからも、ずっとあの部屋で暮らすの?」
「うん。仕事もあるし」
 それにもう、帰る家もない。
「また行ってもいい? えぇと、ご飯を作りに」
「いいけど」
 望は、満面の笑みを浮かべて言った。
「よかった」
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