第87話 二重の意味で安心したこととギプスが外れたことと朔を墓参りに誘うこと

文字数 855文字

 朔は、探偵を雇っていいとは言わなかったが、駄目だとも言わなかった。彼女が嫌がることはしたくないと言いながらも、心は動いているのだろう。
 それで、朔の気持ちが変わらないうちにと思い、さっそく蜂須に電話で問い合わせたのだが、料金を聞いてあわてた。レストランで働いていた頃だったならばまだしも、とても今の望に払えるような金額ではない。
 そこで、恐る恐る朔にお伺いを立てると、朔はあっさり自分が払うと言い、望は二重の意味で安心した。かくして、探偵に、菜月の墓の場所を探してもらうことになったのだった。
 
 
 ようやく骨折箇所が治癒し、ついにギプスが外された。だが、筋肉が落ちて、右足は情けないほど細くなり、関節も動かしにくくなっていて、完治と言うには程遠い。
 まだしばらくは松葉杖の世話にならなくてはならず、病院にリハビリに通うことになった。基本的には朔が付き添ってくれるが、朔の体調がすぐれないときには、陽太に付き添ってもらう。
 自分一人でも行けないことはないと思うのだが、朔にも陽太にも、転んでまた怪我をしては元も子もないと言われた。いつになったらまともに歩けるようになるのかと、うんざりし始めた頃、探偵事務所から、報告書と請求書が届いた。
 
 
「本当に大丈夫なのか? もう少し足がよくなってからでも……」
 心配そうに言う朔に、望は胸を張る。
「大丈夫だよ。途中はタクシーを使って、なるべく歩かなくて済むようにしてもらえれば」
 弓岡家の墓は、菜月の実家のある**市の霊園にあることがわかった。少し前に、彼女の遺骨も納骨されたという。
 やはり、菜月が亡くなったことは間違いないらしい。少し残念な気もするが、実際は生きていたなどという、B級サスペンスかミステリーのような展開よりはましだろう。
 場所がわかったからには、早く行ったほうがいいと思うが、朔を一人で行かせるのは心配だった。それで望は、一緒に墓参りに行こうと、朔を誘ったのだ。
 もっとも、足のせいで朔に迷惑をかけることになるのではないかと、内心は少々不安なのだが。
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