第14話 アルバイトの報告と祖母の話と言わなかったこと

文字数 844文字

 夕方、パートから帰って来た祖母に、アルバイトが決まったことを報告した。
「あら、陽ちゃんがアルバイト?」
「うん。今のままじゃ、おばあちゃんに迷惑かけちゃうから」
 父は、祖母に対しても、陽太を甘やかし過ぎだと文句を言っているのだ。
「迷惑なんて思ってないわよ。おばあちゃんは陽ちゃんがうちに来てくれてうれしいんだから」
「ありがとう」
 そんなふうに言ってくれるのは祖母だけだ。

 祖母が、エプロンをかけながら言う。
「それで、どこでアルバイトするの?」
 陽太は説明する。
「坂の上のほうに洋館があるでしょう?」
「あぁ、あのお洒落な建物。少し前から若い男の人が二人で暮らしてるわね」
 陽太は、米を研ぎ始めた祖母の背中に話しかける。
「えっ、知ってるの?」

 祖母が振り向いて言う。
「影森さんっていったかしらね。敷地内で喫茶店をやっていて」
「そう、その影森さんだよ」
「陽ちゃん、あのお店で働くの?」
「うぅん。あのお店をやってる望さんっていう人が足を怪我をして、今はお店は休んでる」
「じゃあ……」
「それで、望さんの代わりに家事をやってほしいって。僕、家事はけっこう好きだから」
「そうなの。あの人なら優しそうでいいじゃない」

 陽太は、シンクのそばまで行く。
「おばあちゃん、望さんと話したことあるの?」
「一度、パート先のお友達とお茶を飲みに行ったことがあるの」
「えっ、そうなの?」
「お店もあの人も感じがよかったし、パンケーキもおいしかったけど、あそこはちょっと入りにくいわね」
「そうだね」
 そうか、おばあちゃんはお店に行ったことがあるのか。明日行ったら、さっそく望さんに話そう。
 
 祖母が、ふと手を止めて、陽太の顔を見ながら言った。
「あの人たち、従兄弟同士なんですってね。もう一人の人は何をしているの?」
「なんか、体調を崩していて休職中なんだって」
「そうなの」
 朔が、ぶっきらぼうでちょっと怖いことは、祖母には言わなかった。ともかく、アルバイトが決まったことを、祖母は喜んでくれて、陽太も、そのことがうれしかった。
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