第47話 人の目を気にする菜月と菜月のいない人生なんて考えられない朔

文字数 690文字

「でも、普通はそう考えるわ。もしも自分のことじゃなかったら、私だってそう思うかもしれない。君が年増女に騙されているんじゃないかって。
 君のことを大切に思っている人ほど心配するんじゃないかしら。たとえば叔父さんたちや、望くんや……」
「そんなことない。望はそんなやつじゃないし、叔父さんたちだって!」
「わかってるわ。だけど客観的に見たら、私たち、どう考えても釣り合わないもの」
「人からどう見えるかなんて関係ない!」
 菜月が、悲しげに目をそらす。
「だけど、もしも反対されて、会うことを禁じられたら……。私には、それを押し切って会うことは出来ないわ」

 朔は、はっとする。
「そんなの、嫌だ」
 今までもこれからも、自分には菜月のいない人生なんて考えられない。菜月がいたからこそ、ずっと彼女の絵を描き続け、そのことが心の支えになった。絵が認められたのは、その結果でしかない。
 菜月がいたからこそ、辛い日々を耐えることが出来たし、仕事もがんばって来られた。だが、もしも菜月と会えなくなったら、自分には、もう絵を描くことも、生きて行くことさえ出来そうにない。
 朔は、頬に流れた涙をぬぐいながら言った。
「わかった。先生とのことは誰にも言わない。だから、ずっと僕のそばにいてください」

 菜月が、静かにうなずいた。朔の胸は熱くなる。
 先生が、僕の願いを受け入れてくれた。それはつまり、今から二人は恋人同士になるということだ。
 朔は、すぐそばにある恋人の美しい顔を見つめる。その頬に、唇に触れたい。キスが、したい。
 だが、勇気がなくて、結局、もう一度菜月を抱きしめた。今度は菜月も、朔の背中に両腕を回した。
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