第92話 緒川の気持ちと嗚咽を漏らす朔と彼の肩に手を置く望

文字数 667文字

「このネックレスは、最期まで身に着けていました。何度目かに病院にお見舞いに行ったときに、自分にもしものことがあったときには、絵葉書と一緒に私に持っていてほしいって」
 あぁ、やっぱり駄目だ。こみ上げるものを必死に抑えながら、朔は震える声で聞く。
「どうして、これを俺に……」
「影森さんとの大切な思い出の品だということを聞いていたので、やっぱりあなたが持っていらっしゃるのがいいと思って」
  
 緒川は、静かに続ける。 
「入院してから、ナッちゃんに手紙のことを持ちかけられたときは、ずいぶん乙女チックなことを考えるなぁと思いました。でも、そのときは、そこまで深刻な状況じゃなかったし、元気になったときには反故にすればいいんだから、今は彼女の言う通りにしておこうと。
 ところが、あっという間に体調が悪化して、すぐに危篤状態になって。つい前日まで笑い合っていたのに、本当に、今でもまだ信じられないくらい。
 亡くなってしまったときは、あなたに知らせるべきなんじゃないかと、ずいぶん悩みました。でも、ナッちゃんとの約束を違えることは、私には出来なかったんです」
 
 話を聞いている途中から、こらえきれずに涙が溢れ出し、止まらなくなった。もう取り繕う気力もない。
 思わず嗚咽を漏らすと、望が、そっと肩に手を置いた。
 緒川は言う。
「今となっては、彼女がどこまで本気で言っていたのか、よくわかりません。やっぱり、半分くらいは、後で手紙は回収するつもりだったんじゃないかしら。
 でも、こうしてネックレスと絵葉書をあなたにお渡しすることが出来て、本当によかった」
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