第54話 朔の過去としょんぼりする望と考え考え話す陽太

文字数 937文字

 望の話に、陽太は愕然とした。朔は、幼い頃から父親の虐待を受け続け、彼が高校に入学した年、両親が無理心中で亡くなったというのだ。
 望が、苦しげに言う。
「伯父さんと伯母さんが亡くなるまで、僕はなんにも知らなかったんだ。注意深く見ていたら、何かわかったかもしれないのに、僕は気づきもしなかった。
 小さい頃から朔ちゃんのことが大好きだったのに、会わなくなってからは連絡もしなかった。朔ちゃんがずっと辛い目に遭っている間、自分だけ呑気に生きて来たのかと思うと……」
「望さん」

 顔を上げた望が、陽太を見てかすかに微笑んだ。
「それで僕は、これからは、朔ちゃんのためになんでもしようって思ったんだ。少しでも朔ちゃんの助けになれたらと思って。
 もちろん、今も朔ちゃんのことが好きだし、朔ちゃんと過ごすことはすごく楽しいから、朔ちゃんのためだなんて言いつつ、実は自分のためでもあるんだけどね」
「そうですか」
「それなのに、怪我して家事が出来なくなったり、さっきみたいなことをやらかしたり、助けになるどころか迷惑かけてばっかりで……」
 望は、しょんぼりと肩を落とす。
 
 陽太は、なんとか望を元気づけたくて、考え考え話す。
「虐待っていうほどじゃないけど、僕の父親もよく怒鳴る人だから、朔さんの気持ちもちょっとはわかります。僕が悪いんですけど、大学に行ってないのがバレたときには、無駄飯食いだとか、クズだとか、出て行けとか言われて、すごく辛かった。
 僕が怒鳴られていても、母親は何も言ってくれないし」
 望が、陽太の顔を見る。
「おばあちゃんが、うちにおいでって言ってくれたからよかったけど、そうじゃなかったら、どうしていいかわからなくて、本当に今頃どうなっていたのか……。おばあちゃんは本当に優しくて、僕の話もちゃんと聞いてくれるし、一緒にいると安心するっていうか。
 僕、思ったんですけど、ちょっと違うかもしれないけど、望さんは朔さんにとって、僕にとってのおばあちゃんみたいな存在なんじゃないのかな、なんて」
 
 望がくすっと笑った。陽太はあわてる。
「あれ、やっぱり違うかな。僕、変なこと言いましたか?」
「うぅん、そんなことないよ。ありがとう。
 そうか。僕も陽太くんのおばあさんみたいになれたらいいなぁ」
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