第7話 少し怖い朔と微笑む望とパンを食べる

文字数 815文字

 松葉杖で階段を上り下りするのが大変なのだと言われれば、断るわけにはいかない。だが、正直なところ、朔のことが少し怖い。
 ぶっきらぼうなのは体調のせいだとわかっていても、にこやかで物腰の柔らかい望ならばともかく、彼とうまく話せるだろうか。だが、ここで働くのならば、そんなことも言っていられない。
 陽太は、ドキドキしながら階段を上がる。朔の部屋は、二階の廊下の突き当りだという。
 
「あの、すいません」
 陽太は、恐る恐るドアをノックする。返事がないので、もう一度。
「すいません。朔さん……」
 どうしよう。もう少し待つべきか、それとも……。困っていると、やがて奥で足音がして、ようやくドアが開いた。
 
「何」
 無表情にこちらを見る彼は、やっぱり少し怖い。
「えぇと、望さんが、呼んで来てほしいって。お昼ご飯です」
 まさか怒りはしないだろうが、いらないと言われたらどうしよう。そう思ったが、朔がぼそっと言った。
「わかった」


 陽太の後からキッチンに入って行った朔を見て、望が微笑んだ。
「朔ちゃん、三人でお昼にしよう。彼は城戸陽太くん。さっそく買い物に行って来てくれたんだよ」
 朔は無言のまま陽太の横を通って、食卓の椅子にどさりと座る。望は、コーヒーを淹れる用意をしているところだ。
「手伝います」
 陽太は急いでそばに行く。松葉杖をつきながらの作業は、やはり大変そうだ。
「ありがとう。助かるよ」
 朔は、相変わらず無言のまま、あらぬ方向に視線を向けている。
 
 
「いただきます。どれもおいしそうだね」
 望がテーブルの上のパンを眺めながら言う。
「どんなのがいいかわからなくて、適当に買ってきちゃったんですけど」
 それに、どのくらいの量を買えばいいのかもわからなくて、ちゃんと聞いておけばよかったと後悔したのだった。
「これで十分だよ。ねぇ朔ちゃん」
「あぁ」
 そう言って、朔が目の前のパンを無造作に手に取る。望が言った。
「陽太くんもたくさん食べて」
「はい……」
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