第84話 来客について尋ねる陽太と答える朔と朔を部屋に誘う望

文字数 1,012文字

 翌日も、朝食に姿を見せなかった朔は、陽太に様子を見に行かせると、ようやく下りて来た。着替えて下りて来ただけでも上出来だと考えるべきかもしれないが、やはり顔色がよくない。
 階段の下で待っていた望は声をかける。
「朔ちゃん、おはよう」
「あぁ、おはよう」
「大丈夫?」
 朔は目を伏せながら言う。
「あぁ、うん」
 昨日、蜂須が来たこと、それに恋人とのことを望に話したせいで、いろいろ辛いことを思い出して、昨夜は眠れなかったのかもしれない。
 
 キッチンに向かう朔に、松葉杖をつきながら続く。
「ブランチにするなら、僕も付き合うけど」
 朝食というには遅く、昼食にはやや早い時間だが、自分は早めの昼食ということで問題ない。すると、近くにいた陽太が言った。
「僕、用意します」
「じゃあ、陽太くんも一緒にご飯にしよう」
 朔は黙ったままキッチンに行き、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出して飲んでいる。そのまま部屋に戻ってしまうのではないかと心配しながら見ていたが、食卓の椅子にどさりと座ったので、望は内心ほっとする。
 陽太と協力して食事の支度をする間、朔はぐったりと背もたれに体を預けていた。
 
 
「あの……」
 食事をしながら、陽太が遠慮がちに望を見た。
「うん?」
「昨日来たお客さんって……」
 思わず、朔の顔を見ると、さっきからあまり食べていない彼は、フォークでサニーレタスをもてあそびながら言った。
「話してかまわないぞ」
「うん……」

 そこで望は、陽太に向かって言葉を選びながら話す。
「あの人は、朔ちゃんの仕事関係の人だよ。マネージメント会社の」
「そうなんですか」
 すると、朔が後を続けた。
「俺が雲隠れしてたのを、探偵を使って捜し当ててやって来たんだ。契約解除の書類を持って」
「え……」
 陽太は絶句している。
「これで俺は、完全に無職になった。いや、ここに来てからは何もしていないから、正式に、って言ったほうが正確だな」
「そう、なんですか」


 食事が終わると、望は後片付けを陽太にまかせ、部屋に戻ろうとする朔に声をかけた。
「朔ちゃん、ちょっと僕の部屋に来ない?」
 怪我をしてから使っている、一階のゲストルームのことだ。朔は、不思議そうな顔をしながらもうなずいた。
「あぁ、いいけど」
 朔は、先に歩いて行ってドアを開け、松葉杖をついた望が部屋に入る間、ドアを押さえていてくれる。
 それを見て、望は思う。恋人にも、いつもこんなふうにしていたのだろうか……。
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