第26話 夏の合宿と居待ち月とつのる思い
文字数 834文字
夏の合宿は、とても楽しかった。二泊三日で、高原に絵を描きに行ったのだ。
父が許してくれないのではないかと思ったが、恐る恐る伺いを立てると、あっさり許可が下りた。たまたま機嫌がよかったせいなのか、もともと朔の学校生活に興味がないからなのか、理由はよくわからなかったが。
母のことが心配ではあったが、父にびくびくしながら過ごさなくていいことも、無口な朔のことを受け入れてくれている先輩たちと過ごすことも、そして何より、菜月と一緒に過ごせることがうれしかった。
夜には、旅館の庭で、みんなでアイスクリームを食べながら夜空を眺めた。都会とは、見える星の数が違う。
「きれ~い」
「手が届きそうだね」
女子たちが、口々に歓声を上げる。晴れた夜空に月が輝いている。
「でも、惜しいなぁ。今日は満月じゃないんだね」
たしかに、月は真円よりもいくらか欠けて、いびつな形をしている。
すると、菜月が言った。
「あれは、居待ち月くらいかしらね」
「なんですか? それ」
女子たちが振り返る。
「満月のほかにも、半月や三日月があるでしょう? それ以外にも、形によっていろいろ呼び名があるのよ。
満月は望月、そこから下弦の月へと向かう途中で、十六夜の月、立待ち月、居待ち月……っていうふうに」
「へぇ、面白ーい」
朔はただ、月明かりに照らされた菜月の美しい横顔を見つめ続けた。
相変わらず父の暴力は続いていたし、朔の菜月への思いはつのるばかりだったが、表面上は何もないまま、日々は過ぎて行った。やがて、朔は二年生になったが、美術部に新入生が入って来ることはなかった。
「嘘、部員は私たち三人だけ?」
「これじゃ、そのうち廃部になっちゃうよ」
三年生になった女子二人はしきりに嘆いたが、朔は、そんなことはどうでもよかった。どちらかと言えば、人数が少ないほうが菜月を独占出来るようでうれしい。
朔は、ひそかに菜月の絵を描き続け、それはかなりの枚数になっていた。描いても描いても、もっと描きたくなるのだ。
父が許してくれないのではないかと思ったが、恐る恐る伺いを立てると、あっさり許可が下りた。たまたま機嫌がよかったせいなのか、もともと朔の学校生活に興味がないからなのか、理由はよくわからなかったが。
母のことが心配ではあったが、父にびくびくしながら過ごさなくていいことも、無口な朔のことを受け入れてくれている先輩たちと過ごすことも、そして何より、菜月と一緒に過ごせることがうれしかった。
夜には、旅館の庭で、みんなでアイスクリームを食べながら夜空を眺めた。都会とは、見える星の数が違う。
「きれ~い」
「手が届きそうだね」
女子たちが、口々に歓声を上げる。晴れた夜空に月が輝いている。
「でも、惜しいなぁ。今日は満月じゃないんだね」
たしかに、月は真円よりもいくらか欠けて、いびつな形をしている。
すると、菜月が言った。
「あれは、居待ち月くらいかしらね」
「なんですか? それ」
女子たちが振り返る。
「満月のほかにも、半月や三日月があるでしょう? それ以外にも、形によっていろいろ呼び名があるのよ。
満月は望月、そこから下弦の月へと向かう途中で、十六夜の月、立待ち月、居待ち月……っていうふうに」
「へぇ、面白ーい」
朔はただ、月明かりに照らされた菜月の美しい横顔を見つめ続けた。
相変わらず父の暴力は続いていたし、朔の菜月への思いはつのるばかりだったが、表面上は何もないまま、日々は過ぎて行った。やがて、朔は二年生になったが、美術部に新入生が入って来ることはなかった。
「嘘、部員は私たち三人だけ?」
「これじゃ、そのうち廃部になっちゃうよ」
三年生になった女子二人はしきりに嘆いたが、朔は、そんなことはどうでもよかった。どちらかと言えば、人数が少ないほうが菜月を独占出来るようでうれしい。
朔は、ひそかに菜月の絵を描き続け、それはかなりの枚数になっていた。描いても描いても、もっと描きたくなるのだ。