第70話 チョコレートと餃子といつもと違う朔
文字数 873文字
「いらっしゃい」
ドアを開けた朔に笑顔はなく、潤んだ目の縁がかすかに赤らんでいる。泣いていたのだろうかと思うが、素知らぬ顔で、望は手に持った紙袋を掲げて見せた。
「これ、店長にもらった」
専門学校を卒業後、望はレストランに勤めている。
「……何?」
「ハワイのお土産のチョコレートだよ。妹さんが新婚旅行で行ったんだってさ」
「ふぅん」
「後で食べよう」
朔は、どこかぼんやりしていて元気がない。キッチンに向かいながら尋ねる。
「朔ちゃん、何かあった?」
朔が振り向く。
「いや、何も」
キッチンのテーブルに荷物を置きながら、望は言った。
「でも、なんか元気がないみたい」
「そんなことは……」
「いつもみたいに、『今日は何?』って聞かないし」
すると朔が、取ってつけたように言った。
「あぁ、今日は何?」
望は、ため息をついてから言う。
「今日はね、餃子だよ。昨日、久しぶりに実家に帰って、お母さんと大量に作って冷凍したのを持って来たから、焼くだけでいいんだ。それと、中華つながりで青椒肉絲と春雨サラダも作るよ」
「そう。楽しみだな」
朔は、全然楽しみそうではない口調で言った。やはりいつもと違う気がするが、あるいは仕事が忙しくて疲れているだけかもしれない。
どちらにしても、朔は自分のことはあまり話さない。それを寂しいと思うこともあるが、生い立ちが関係しているのかもしれず、それならば仕方がないと思う。
さっそく料理に取りかかっていると、そばで見ていた朔がぽつりと言った。
「いつも悪いね」
望は、思わず朔の顔を見る。やはり、いつもと違う。
「急にどうしたの?」
「いや、いつも当たり前みたいに作ってもらってるけど、本当は当たり前じゃないんだよな」
「何言ってるの。僕はレストランに就職するくらい料理が好きだし、朔ちゃんに食べてもらうのも泊めてもらうのもうれしいし、朔ちゃんだって、いつもいろいろしてくれてるじゃない」
実際、たまに一緒に出かけたときは、洋服や小物を買ってくれるし、望の実家にも、就職して一人暮らしを始めてからは望にも、毎年年末においしいものを贈ってくれる。
ドアを開けた朔に笑顔はなく、潤んだ目の縁がかすかに赤らんでいる。泣いていたのだろうかと思うが、素知らぬ顔で、望は手に持った紙袋を掲げて見せた。
「これ、店長にもらった」
専門学校を卒業後、望はレストランに勤めている。
「……何?」
「ハワイのお土産のチョコレートだよ。妹さんが新婚旅行で行ったんだってさ」
「ふぅん」
「後で食べよう」
朔は、どこかぼんやりしていて元気がない。キッチンに向かいながら尋ねる。
「朔ちゃん、何かあった?」
朔が振り向く。
「いや、何も」
キッチンのテーブルに荷物を置きながら、望は言った。
「でも、なんか元気がないみたい」
「そんなことは……」
「いつもみたいに、『今日は何?』って聞かないし」
すると朔が、取ってつけたように言った。
「あぁ、今日は何?」
望は、ため息をついてから言う。
「今日はね、餃子だよ。昨日、久しぶりに実家に帰って、お母さんと大量に作って冷凍したのを持って来たから、焼くだけでいいんだ。それと、中華つながりで青椒肉絲と春雨サラダも作るよ」
「そう。楽しみだな」
朔は、全然楽しみそうではない口調で言った。やはりいつもと違う気がするが、あるいは仕事が忙しくて疲れているだけかもしれない。
どちらにしても、朔は自分のことはあまり話さない。それを寂しいと思うこともあるが、生い立ちが関係しているのかもしれず、それならば仕方がないと思う。
さっそく料理に取りかかっていると、そばで見ていた朔がぽつりと言った。
「いつも悪いね」
望は、思わず朔の顔を見る。やはり、いつもと違う。
「急にどうしたの?」
「いや、いつも当たり前みたいに作ってもらってるけど、本当は当たり前じゃないんだよな」
「何言ってるの。僕はレストランに就職するくらい料理が好きだし、朔ちゃんに食べてもらうのも泊めてもらうのもうれしいし、朔ちゃんだって、いつもいろいろしてくれてるじゃない」
実際、たまに一緒に出かけたときは、洋服や小物を買ってくれるし、望の実家にも、就職して一人暮らしを始めてからは望にも、毎年年末においしいものを贈ってくれる。