第11話 夕食とシャワーとセミダブルのベッド

文字数 1,105文字

 荷物の整理を終え、料理が出来上がっても、案の定、朔は下りて来ない。望は、広い階段を上って二階に行く。
 だが、二階に着いてみると部屋がいくつもあって、どこに朔がいるのかわからない。仕方がないので、手前から順番にドアを開けて行き、最後にたどり着いた廊下の突き当りのドアを開けて、ようやく朔を見つけた。
 薄暗い部屋の、床に置かれたいくつかの段ボール箱の向こうのベッドに横たわっている。眠っているのだろうか。
「朔ちゃん」
 そっと近づきながら声をかけると、朔は身じろぎしてこちらを向いた。
 
「ごめん、眠ってた?」
「いや、今起きたところだ」
「少しは楽になった?」
「あぁ」
「夕ご飯を作ったんだけど、食べられそう?」
 一瞬、目を閉じてから、朔が言った。
「多分」


「急だったから、たいしたものは作れなかったけど」
 スーパーで買って来た食材で、パスタとサラダを作った。
 言い訳する望を見て、朔がかすかに微笑んだ。今日初めての笑顔だ。
「いや、そんなことはない。さすが料理人だな」
「へへっ、照れるな。さぁ食べよう」
 マンションを訪ねるときは、朔に褒められることがうれしくて、何日も前からメニューを考えて、いつも心を込めて作っていた。こんなときでも、その気持ちは変わらない。
 
「いただきます」
 フォークを手に取った朔を見ながら、望は言った。
「あのさ、今日はもう遅いから、泊めてもらってもいい?」
 朔が顔を上げる。
「いいけど……寝られる場所がないぞ」
 それは、さっき見て回って確認済みだ。
「ソファでいいよ。あと、シャワーを浴びさせてもらえれば」
「そうか……。じゃあ、俺の部屋のバスルームを使ってくれ」


 シャワーを浴びた後、腰にバスタオルを巻いて出て行くと、朔が床の段ボール箱を開けているところだった。
「何、今から荷物の整理?」
「いや。これ、パジャマ代わりに着てくれ」
 差し出された衣類を反射的に受け取ると、Tシャツとスウェットパンツだ。
「ありがとう! まさか泊まることになると思ってなかったから助かるよ」
 朔が、髪をかき上げながら言った。
「黙って引っ越して悪かったな」
「もういいよ。あ、でも悪かったと思うなら」

 朔がこちらを見たので、望はベッドを指して言った。
「僕もそこで寝かせてよ。それ、セミダブルでしょ?」
「馬鹿言うな。大の男二人でセミダブルは狭いだろ」
「そうかな」
 自分も朔も痩せているほうだから、一晩くらい一緒に寝ても問題ないと思うが。すると朔が、別の箱を開けながら言った。
「たしかここに、タオルケットとブランケットが入ってるはずだ。どっちでも好きなのを持って行け」
「ちぇっ、ケチ」
 口を尖らせる望を見て、朔がふんと鼻を鳴らした。
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